冒涜に等しい
「まあまあ、少しは落ち着きなさい。ボーゼフよ」
「し、しかしっ!ニーサ様!ドミニクがやられたという事が事実であるのならば我々の敵は想像以上に強い可能性があり、これからの作戦に支障をきたす恐れがございますっ!!」
もしかしたらドミニクを倒せるだけの戦力が向こうに存在するのではないか?
そんな最悪の事態を想定して慌てふためく私へ、数少ない女性神官の中で唯一我らが神の寵愛を受けれたニーサが落ち着くようにと私へ声をかけてくる。
その、この世の者とは思えぬ美貌に、非の打ち所がないその肢体が目に入り思わず見惚れてしまいそうになるのをぐっと堪える。
彼女はその身体を駆使して今の地位まで登りつめたと噂されており、そしてその噂の信憑性は極めて高いという事実に思わず嫉妬で狂いそうになる。
しかし、事態はそんな事にかまけている場合ではないのだ。
ここで読み間違えれば我らが聖教国は戦争で負ける可能性がでてくるのである。
その事を知ってどうして落ち着いていられようか。
「ドミニクは我らが神の血を頂いているのよ?そんな彼を倒せる者等いやしないわ。万が一倒された事が事実であったとしても、その場合は相手にもそれ相応の甚大な被害を与えているでしょう」
それにとニーサは言葉を続ける。
「血だけではなく、更に美味しく、貴重である物を飲ませて頂くばかりか、身体へと注いでくださったこの私がいるのですよ?恐れる必要が何処にあるというのですか?」
まるでこの世の全ての男性を惚れさせてしまいそうな妖艶な表情をしながら語るニーサはドミニクが倒された所でどうとでもないと言う。
たかが、夜のお相手を一晩しただけで調子にのりやがってと言う負の感情が私の中でくすぶっている事など気付いてすらいないようである。
この様子であれば我らが神は男色の毛がある事すら知らないだろう。
我らが神の事で、目の前のニーサが知らない事実を私は知っている。
その事実が、私を強烈な優越感で満たしてくれる。
「あ、ああ。そうであるな。ニーサ様がいるのであれば我々が負ける事など万に一つありますまい」
「ええ、その通りです。何も怖がる心配などございません」
そして、俺の言葉に満足したのかニーサ様はこの場から姿を完全に消して帰っていったのを見て私は「万に一つは無いかもしれないが億に一つはありそうだがな」と呟くのであった。
◆
使えない。
ニーサは思う。
我らが神から血を分け与えられたにも関わらず敵に敗れたのであろう事が濃厚であるドミニクにしても、それが事実であれば戦い方を変えなければならないというボーゼフも、本当に使えない。っと心の中で悪態をつく。
敵に負けるのも、それであたふたするのも我らが神に対する冒涜に等しいと私は思う。
我らが神は絶対である。
例えボーゼフの世迷言が事実であったとしても我らが神さえいさえすれば何の問題も無いのだ。
なのに、何故あんなにも慌てているのか私には理解できない。
それに隠しているつもりだろうけど、私の身体に興味津々なのがバレバレなのよ。気持ちが悪い上に立場を弁えないその態度に腹が立つ。
私の身体は髪の毛一本、爪の先まで我らが神の物となったのだ。
ボーゼフも、私の身体をもてあそんできた男たち同様に切り刻んでやろうかしら?
ニーサは自身の地位向上の為に自ら進んで身体を捧げたと言うのに既にその事実は頭の記憶からは消え去っており、ニーサにとって都合のいいように改ざんされている事に、ニーサは気付かない。
彼女にとっては自ら望んでいたと言えど抱かれたその時から被害者なのである。
「しかし、ボーゼフ程では無いにしろ確かに、どうやってドミニクを倒したのか気にはなるわね。それに、ドミニクを倒した者共は恐らく高レベルの傭兵か騎士達の寄せ集めであろうからそいつらを一網打尽にすれば私はまた我らが神と夜を過ごせるかもしれないしね」
そう、ニーサは一人口ずさむと背中から白く美しい翼を生やして飛び立つのであった。
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明日から来週月曜までお盆休みなのですが、親の実家へ帰ったりと予定が詰まっているので更新頻度が落ちてしまうと思います(*'▽')何卒




