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転生悪役令嬢は闇の秘密結社を作る  作者: Crosis


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花売りの少女

草や土、水の香りを包み込み心地よくわたくしの頬をすり抜ける風。


暖かな春の日差しをまるで万華鏡のように反射する水面。


楽しそうな学生達の声。


わたくしの隣にさりげなく寄り添ってくるノア様に逆サイドで腕を絡めてくるシャルロッテ、そしてその一歩後ろで佇むレオ。


忘れかけていた感情が胸の中いっぱいに膨れ上がってくる。


もうわたくしには訪れないと思っていた平穏、知人と旅行をするワクワク感、そういった普通の人が生活するにあたり普通に感じる楽しさや幸せなどといった感情がわたくしを包み込む。


「フランお嬢様……?」

「大丈夫よ、ウル。でもありがとうね」


そんなわたくしの感情の機微をウルは感じ取ったのかノア様を押し退けて心配そうな表情で問いかけてくる。


何故かこの国の王子様の扱いが先程から雑な気もしないが、まあノア様だし良いだろう。


ぶっちゃけ思わず泣きそうになってはいたのだがウルのお陰で何とか堪える事が出来たのでウルを優しく撫でてあげると心配そうに垂れていた尻尾がブンブンと振り回され始めたのでそれを愛おしく見つめる。


記憶の戻る前のわたくしはこんな可愛らしい生き物を普段からイジメていたのだから思い出す度に罪悪感を感じてしまうが、それと同時にメイも含めてこの可愛らしい女の子達を購入してくれて感謝しかない。


もしこの子達が居なければわたくしはとっくの昔に死亡イベントに食われて今この場には居ないかも知れないのだ。


この子達には感謝しても仕切れない。


そんなわたくしとウルの姿をノア様はわたくしにバレない様に、愛おしそうに見ているのだがその挙動の怪しさからバレバレである。


まぁ、ノア様が獣フェチの扉を開いてしまったとしてもウルのこの可愛らしさを知ってしまえば致し方無い事であろう。


万が一欲しいと言われても差し上げませんからねっ!


そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎ去って行き現在馬車は帝都まで戻っており後小一時間程で学園である。


レオとノア様が魚釣りでどっちが大物を釣るか競ってレオが調子に乗り湖に落ちてしまったり、わたくしとシャルロッテ様で花冠を作ってみたり、お昼はみんなで持ち寄ったお弁当を食べたり、ウルとボール遊びをしたりと今思い返しても本当に楽しかった。


そして馬車は帝都の停留所で一旦休憩の為停止した。


外の空気を吸う為、わたくしは疲れて眠ってしまっている三人を起こさない様に外に出る。


まさか、メインキャラクターとこの様に楽しい時間を過ごせる時が来るなど思いもよらなかったのだが、このまま何事も無く卒業出来るのではないかなどとわたくしは馬鹿な事を考えていた。


馬鹿な事を考えてしまう程に普段から死を連想してしまう環境にわたくしの精神は弱っていたのかもしれない。


「お花……要りませんか?」

「…………え、ええ。一輪だけ頂こうかしら」

「ありがとうございますっ!」


伸びをして固まった身体をほぐしながら歩いていると一人の少女が花を売りに声をかけてくる。


わたくしは余りの恐怖と嫌悪感、そして込み上げて来る吐き気を何とか抑えながら花を一輪購入すると感謝の言葉をかけてくれる女の子を尻目に人気の無い路地裏へと逃げる様に移動する。


「うっ、うぇぇっ………っ!!」

「お、お嬢様っ!?お嬢様大丈夫ですかっ!?お嬢様っ!!」


そしてついにわたくしは堪えきれずに側溝へ胃の中の物をぶち撒けた。


忘れているつもりなどなかった。


常に意識して警戒しているつもりだった。


しかしどうだ?今日のわたくしは。


メインキャラクターとまるで友達の様に青春の一ページを刻むだけでは無く楽しいなどと柄にも無い事を思ってしまった。


自分の命がかかっているというのに何と危機管理能力の無い事か。


そんなわたくしが心底嫌になってくるものの、まだわたくしは生きている。

生きているのだ。


そしてわたくしは一通り吐き出すと呼吸を整えてウルへと命令する。


「大丈夫ですわ、ウル。疲れてるかもしれませんが任務です。先程の花売りの女の子の住所を特定なさい。今日はここまでで大丈夫ですので決して深入りはしないでください」

「お、お嬢様は……?」

「わたくしは、吐くものも吐き切ったので大丈夫ですわ。むしろ気分はだいぶ良くなりましたわ。心配かけてごめんなさいね」

「わ、分かりました。でも決して無理はなさらないで下さい、お嬢様」

「ありがとう、ウル。その言葉だけで元気百倍でしてよ」


そしてウルは尚も心配そうな表情でわたくしを見た後、任務を遂行する為に去って行く。


帝都に定期的に現れるNPCである花売りの少女なのだが、とあるイベントに入った時だけ白い花を売り始めるという変化がある。


ゲームではこの違いを一つの指標としてプレイ内容を調整しながら物語を進めて行くのでプレイヤーからすればある意味でありがたい存在であった。


そして先程の花売りの少女が売っていた花は白。


神のクソ野郎はわたくしに、もう死亡フラグは回避したとアピールしているその裏では着々と死亡イベントを進めていたのである。


今まで考えない様にしていたメインキャラクター達の、やや強引にも思える今までの行動がこれで納得がいった。


気持ちが悪いにも程がある。


キャラが変わったかのようにわたくしへすり寄って来るメインキャラクター達も、それに絆され普通に楽しんでいるわたくしも。


何もかも全てが気持ちが悪い。

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