老い衰えた老婆
お母様は口元は扇子で隠し柔らかな声音でわたくしを部屋の中へと入るように言ってくるのだが、その眼もとは笑っておらず、過去の経験上から怒髪天の如く怒っているのを堪えている時のお母様そっくりであり、わたくしの第六感が今すぐこの場から逃げろと警告をけたたましく告げてくる。
「し、ししししししし、失礼致しますわ」
しかし、いくらわたくしの第六感が逃げろと警告を告げていたとしても、今この場で逃げた場合のお母様の怒り爆発具合を考えれば逃げずに大人しく従うというのが正解であるとわたくしは知っている。
「逃げ出してしまうかとも思ったのですけれども、少しは成長したという事かしら?フラン」
「わ、わたくしも、い、いい、いつまでも子供ではございませんわ。あれから八年も経っているのですもの。心身共に大人へと日々成長しておりましてよ。オホホホホホホホホホッ!」
余りの恐怖から、その恐怖心をごまかす為に思わず高笑いをしてしまった。
お母様の目を見るのが怖すぎて、視線を合わす事が出来ない。
因みに八年前はお母様の大切にしていた化粧水を全てぶちまけてしまったわたくしは怒髪天に怒るお母様が怖くて家出をした事があった。
当時のわたくしからすれば家出をするという事はたった一日程度であれ大冒険であったのだが、今思えば結局のところ複数人の護衛もいたため家出ごっこであったのだが。
そして、そんなこんなで恐怖で震える身体をなんとか動かしテーブルへ着くとお母様がその口を開く。
「家族と縁を切ると考えてらっしゃるようで、フランさん」
その声は鋭いナイフの様にわたくしの胸へと突き刺さる。
そしてお父様を見ると『嘘だよな?私の可愛い可愛いフラン』とまるで捨てられた子犬の様な表情でわたくしを見つめて来ていた。
「わ、わたくしは────」
「言い訳等で誤魔化そうとしても無駄ですわ。全て執事であるセバスから聞いております」
お前がブルータスかっ!?と執事を睨みつけるのだが、先ほどのお母様の言葉に、まるで小骨が喉に刺さったかのような違和感を感じてしまうのだが、それが何なのかは分からない。
「わたくし達と家族の縁を切る、それも結構。話を聞くにわたくし達を守る為と言うではございませんか。しかしフランさんはなにか勘違いをしていらっしゃるようで、実の母ながら沸々と怒りが次から次へと込み上げて来て感情を抑制するのが大変ですのよ。今もフランさんの首根っこを捕まえてぼろ布を振り回すが如くフランさんを振り回してやりたいという欲求を抑えておりますの」
どうやらお母様がここまで、怒り心頭になっている原因はわたくしが家族の縁を切るという事だけではないようである。
では、一体なぜ?と疑問に思ったその時『バチンッ!』という音と共にお母様が扇子を閉じで叫ぶ。
「わたくしはフランさんにとっては守らなくてはならない弱者、言い換えれば自らの身を守る事さえできない様な老い衰えた老婆とでも思っている等、我が娘ながらこのわたくしへ喧嘩を売っているのですかっ!?」
「ひぃぃぃぃいいっ!!!滅相もございませんわっ!お母様っっ!!」
そして鬼と化したお母様はのしり、のしりとわたくしの方へ近づいてくる。
その光景は一生忘れないであろう、そう思えるくらいに圧倒的恐怖となってわたくしの記憶に刻まれる。
「全く、少しは家族を信頼しなさいな。今のフランさん程ではないにしろ、これでもお母さんは若い時は金糸の雷精霊と言われるくらいには魔術に長けておりますし、お父さんも炎槍の貴公子と言われていたのですから、支援くらいはできましてよ。娘を守ると大それたことが言えないのが悔しくもあるのですがそこは娘の成長として受け入れます。なんてたってお母さんとお父さんの娘ですもの。当然あなたの兄もわたくし達の息子として恥ずかしくない位には優秀ですわ。縁を切る前にわたくし達家族を一度信頼しても良いんじゃなくて?」
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
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お久しぶりです。四連休はずっと寝ていた記憶しか………あれ?(*'▽')
次回はフランさんの家族の矛盾点を回収予定です(*'▽')




