特殊な性癖
なんだ?この可愛い生き物は。
ゲームのわたくしはこんな可愛い生き物に対して様々な嫌がらせをやって来たのかと小一時間問いただしたくなるのだが、騙されてはいけない。
コイツは死亡フラグ、その根元を作る大元であるのだから。
「えぇと、わたくしはシャルロッテさんが謝らなければならない何かをされたのでしょうか?」
しかしながらわたくしはシャルロッテから謝罪を受ける理由が見当たらない。
迷惑という迷惑をかけられた記憶が無い為理由が分からないままシャルロッテの謝罪を受け入れるのはどうかと思う為シャルロッテに聞いてみる事にする。
「わたくしはフラン様の事を何も知らない癖に自分の価値観や正義感を押し付けるだけではなく叩いてしまいましたっ!本当にすみませんでしたっ!!」
シャルロッテはそう言うと頭を下げた後、またしても目をぎゅーと瞑りながらわたくしのビンタを今か今かと待ち受けている。
だから何なんですのっ!この可愛らしい生き物はっ!?
しかし、この状況はわたくしが叩かないと終わらない流れであろう。
この可愛らしい生き物を叩かなければいけないという状況に少し心が痛むもここは心を鬼にする事に決めた。
確かに、わたくし一発シャルロッテには叩かれているのでこれでおあいこであろう。
「かしこまりましたわ、シャルロッテさん。あの時の事ですわね。それでは、叩かせて頂きます」
「お、お願いしますぅっ!!」
そしてわたくしはシャルロッテの頬を優しく摩りに摩って撫でに撫でてあげる。
その間、「………え?」というシャルロッテの表情もまた可愛らしくてよろしくてよ。
「はい、これでおしまいですわ」
「え、いや……でも……」
「そうですわね、シャルロッテさんが実は叩かれる事に快感を得る特殊な性癖だと言うのでしたら叩かせて頂きますが、いかがでしょう?」
「ちっ、違いますっ!違いますからフラン様っ!私はそんな性癖は無いので大丈夫ですっ!!」
「ならこれでお終いですわね」
もう少しシャルロッテの困った顔を見てみたいという衝動に駆られるもそこはぐっと堪えてこの話はこれで終わりにする。
その間レオが「俺との差が酷くねぇかっ!?おいっ!!」などと言っているのだが、ちょっと何言っているのか分かりませんわ。
そして何故かシャルロッテがわたくしの隣に座っているノア様を強引に押し退けてわたくしの隣に座るとギュッと抱きついてくる。
わたくし、分かりましたわ。
可愛さに上限など無いと言う事を。
んー、これはわたくしの生存率が格段に上がっていると思っても良いのかも知れない。
などというあんまりにも能天気で実に短略的な事をわたくしは思ってしまった。
「それで、ノア様はわたくしに何を言いたいのですか?」
「い、いや、お、おおおおっ、俺のっ、俺のっ、俺の事は良いからっ!き、気にするなっ」
「どうしたんですの、急に壊れたブリキみたいになってしまう程緊張して。男なんですから言いたい事があるのならばビシッと言いなさいな、ビシッッと!」
むしろここまでの反応をされると気になるというものであろう。
早く内容を言いなさいと催促するとノア様は「あの、その、あのだな…俺はだな、ず、ずずず、ずっと前から……お、おおおお、お前の、あの、その、お前の事が、すすすすすすすすすすすすぅーっ、」と言った感じで一向に壊れたブリキから治る事もなく最後の方は壊れたオーディオプレイヤーの様になってしまい、また一向に要領を得ないままである。
最早相手をするだけ無駄であろう。
どうせ扇子で叩かれたレオを見て怖くなったのであろう。
何と我が帝国の王子の不甲斐ない事かと悲しくなってくる。
最早ノア様は無視して良いだろう。
「一つ、よろしいでしょうか?」
「何ですかっ!?フラン様っ!!」
「あ?」
「す、すすすす、すーっ、す………な、何だっ!?」
「わたくし、トランプという物を持って来ておりますの。目的地までまだまだ時間がかかりますので一つ、このトランプを使ってゲームでもいたしません事?」
そしてわたくしは懐にしまっていた我が秘密結社ブラックローズ製のトランプを取り出す。
これはおいおいブラックローズという事は隠してジュレミア経由で販売するつもりの商品である。
そして特に反対する者もおらずわたくし達は目的地に着くまで道中トランプを楽しむのであった。
ちなみにプレイしたゲームは初心者でも分かりやすいババ抜きであり、ノア様とシャルロッテの二人でビリを争う形となったのだが、何故か二人ともわたくしが抜けた後の状況になると今までのポンコツ具合が嘘の様に高度な駆け引きをやり始めるのでわたくしの中でわざと負けたのではという疑惑が生まれたりもしつつあっという間に目的地へと着く。
着いた目的地は帝国三番目に大きい湖、サンルディア湖である。
この湖は帝国の皇族所有の地であり限られた上位の貴族までしか行く事が許されない湖であるが、毎年我が学園は特別に遠足地として訪れている。
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