神
「なっ!?いつの間にっ!?」
今からあの人間共を直ぐにでも殺しに行きたい衝動を押し殺し、屈辱に押しつぶされそうになりながらも、万全の状態の俺であれば今度はあの忌々しき人間を圧倒的な差でもって嬲り殺す事ができる。
その思いだけで王国から這う這うの体で逃げ出した。
彼のいう王国という国が一つの魔方陣としての役割があるのだとすれば、王国国内にいるのはまずいと思ったからである。
その事も、人間ごときにしてやられた事も、考えるだけで怒りでどうにかなりそうであった。
そんな、自分の感情を制御する事に集中していたからか俺はすぐ傍に人間の女性が居る事に気付けなかった。
しかし、俺が気付く前に攻撃していれば良かったものをこの女性は俺に攻撃する前に声をかけたのである。
頭の弱い餌が向こうからやって来た。
そう思い女性の声のした方向を見ると、そこには金色に輝く二本のそれは見事なドリルを携え、黒い仮面を被った女性がそこに立っていた。
「いままで何匹かわたくしの奴隷さん達が貴方のお仲間を捕獲して来たんですけれども、そのどれもが精神に異常をきたしておりましてね、どうしようかと思っていいたところに王国が何かを隠している様な動きをしているでしょう?それが何なのかと思って調べてみましたらあなたみたいな化け物がいるというではありませんか。それ幸いと現地へと足を運んでみたのですけれども、どうやらわたくしは運があるようですわね。貴方の様な貴重なサンプルに出会えたのですから」
そして、金髪ドリル娘がそう言い終えた瞬間、俺は意識を失った。
◆
眼を覚ました瞬間俺は飛び起きようとして、しかし身体が自由に動かせない事に気付く。
「あまり強引に身体を動かそうと思わない事ですわ。しかし、あそこに見える筋肉の塊の様に成りたいのでしたら止めは致しませんわ」
記憶の最後に有ったドリル娘に声をかけられ、そして筋肉の塊と言った彼女の目線の先を見ると不気味に動く筋肉の塊が確かにあった。
かろうじて分かるのはあの筋肉の塊は元同組織のメンバーの一人であったという事である。
更に部屋を見渡せば、白い部屋に四名もの元同僚であろう者達が特殊な拘束具により拘束されているのが見える。
その拘束具は長方形の紙に何か異国の文字を書かれただけの物を身体に張り付けられているだけに見えるのだが、俺の他に四人揃っているのを見るに誰もこの拘束具を解けた者はおらず、唯一試みたあの筋肉は今無限の苦しみを味わっているかの如く断末魔を上げ続けている。
「あの筋肉の塊は、他の者達とは違い多少は会話できたのですけれども自身の筋肉を過信しているのか止めれば宜しいですのにこの拘束具をその自慢の筋肉で解こうとしたみたいですの。けれども、この拘束具に使用されている札は身体ではなく魂を拘束しているみたいで解こうとすれば魂を引き裂かれるかの様な強烈な痛みを感じてしまうみたいですわね。そして当然その様な痛みに耐えれる訳も無く、あの筋肉は自我を失い、あのように見るに堪えない姿へと変わり果ててしまわれましたわ。そんな時に今まで捕獲してきた化け物達とは比べ物にならないくらい知能を持ったあなたを捕獲できたのだから幸運ですわね」
「なるほど。それで俺を、いや、俺たちを捕まえて何を知りたいのか分からないのだが、我らが神が作り出した使徒をこのような方法で捕獲しまるで実験動物化の如く扱いをするなど、それこそまるで神を愚弄するかのような行為である。例えこの俺を倒したとしても神の怒りは避けられぬぞ。我らが神は全知全能であり、貴様の様な人間の小娘一人でどうこうできる相手で………は────」
俺はこれ以上言葉を続けることが出来なかった。
何故ならば俺は今件のドリル娘に頭を掴まれ、その青色に輝く双方の瞳に、俺の瞳を至近距離で覗かれているのだが、その瞳は青色であるはずなのに底が見えぬ深淵の様に感じた。
そして感じてしまう圧倒的恐怖。
言葉で等表せる様なレベルではないすさまじい恐怖が暴風の様に俺の心の中に入ってくる。
我らが神を前にしたとき以上の恐怖を感じ、俺は鯉の様に口をパクパクと動かす事しか出来ない。
そしてドリル娘は今なお俺の眼をその深淵を宿した両の眼で見つめながら口を開く。
「ねぇ、今何と申しましたの?【神】という言葉が聞こえたのですけれども?その【神】とやらを詳しく教えてくださらないかしら?」
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