貸し一つ
「あ、ありましたわ。魔力の乱れをこの壁から感じますねぇ」
そして私は目に魔力を集め、部屋の中の魔力の乱れを目視していくと、一か所だけ魔力に乱れが生じている壁を見つける。
しかしながら、部屋の中は無駄に豪華な造りになっており、目を見張る程のシャンデリアは勿論高価そうな壺や絵画、国王の肖像画に正に国王の椅子といった背もたれの長い白亜の椅子などなど、目が眩むほどの豪華絢爛具合なのだが、魔力の乱れがある壁の箇所だけ不自然に何も飾っていなかった。
そして私はこの二つをもってこの先に奴がいると確信すると氷魔術をぶっぱなし壁に人一人が入れる程度の大穴を空ける。
「なぁぁあああああっ!!!???何をやっておるかぁぁぁあああああっ!!!???お主は死にたいのかっ!?この偉大なるエルフの国を亡ぼすつもりであるかぁぁぁあああっ!?」
「あ?うるさいんだけど?」
「ひぃぃぃぃいいいいぃ!!!!!????」
そして開けた穴の中へ入ろうとするとエルフの国王が涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔で私の歩みを止めようとしてくるためその顔面目掛けて氷魔術を打ち込むのだが、身体と違い顔面ともなると的が狭まってしまう為エルフの国王の頬を掠めるだけで終わる。
その結果を見て、まだまだ練習をして命中率を高めなければと思うものの、うるさいエルフの国王は静かになったので良しとする。
何だか膝から崩れ落ちた国王の股から金色の液体が流れだし、つんと鼻を突くアンモニア臭がし始めるのだが、それはそれで懐かしさと共に私の、エルフに対する初心を鮮明に思い出させてくれる。
そして私はこの世の終わりの様な国王と複数人いる国王の家臣件護衛達を置き去りにすると開けた穴の中へと入って行き、お目当ての人物を見つけると開口一番怒鳴りつける。
「スサノオっ!!あなたはここで何をやっているのよっ!!あなたがここにいながら何で私があの筋肉だるまの化け物をわざわざ倒しに行かなければならないのよっ!?言い訳があるなら言いなさいっ!!」
「「「「「ひひひひいいいいいいいいい」」」」」
そして私の怒鳴り声を聞き後ろにいるエルフ達が一斉に悲鳴を上げるが、相手したところで時間の無駄なので無視する。
問題は目の前に仰々しく椅子に座っている、現在人間族の成人男性に化けているこの大バカ者である。
「そうは申されても我はフランの夫でありそれ以下でもそれ以上でも無い。エルフの国王だか、エルフの国の危機だか言われても我は知らぬわ」
「ふーん。ではスサノオはこの、筋肉だるまの化け物にめちゃくちゃにされ、最早廃墟同然と化した国をフラン様へ貢ぐつもりだったのですか?」
「えっ!?いや、そんな訳なかろうっ!!」
「でも、私たちがあの化け物を処理しなければこの国はただの瓦礫のゴミ山となっていましたよね?それは言い換えればフラン様へゴミの山を貢ぐつもりだったのでしょう?」
そして何が悪いのか全く分かっていないこのトカゲに事の重大さを説明すると、それを理解したのか顔を真っ青にしたスサノオが汗をダラダラとかきながら慌てふためきだす。
「そ、そうだっ!!このエルフの爺が無駄に偉そうな口を叩くものであるからな、あんな化け物など簡単に倒すと思っておったのだっ!!」
「はぁ、まぁ分かりました。フラン様にはそれとなくつじつまが合う言い訳を考えて報告してあげますよ、まったく」
ほんと図体ばかりでかいだけで使えない。こんなんでよくフラン様の夫であるなどと大口を叩けたものよ。どう考えても出来の悪いペットじゃない。
とは思うものの口にはしない。
「おお、それは助かるっ!恩にきるぞっ!!」
「貸し一つ」
「…………は?」
「貸し一つ。それもとんでもなく大きな貸しだからね」
そして私は目の前のトカゲに対して大きな貸しを一つ背負わせることが事が出来たのであった。
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