氷漬け
眼下に広がる光景を目にしてルネは筋肉だるまの化け物へと全力でもって急ぎ向かうと、筋肉だるまはその巨大な腕を振り上げており、その下にはエルフの男性の姿が見えた為そのまま氷魔術で筋肉だるまの右半身ごと氷漬けにして動きを止めると翼を使ってゆっくりと地面へと降り立つ。
「いつも私に偉そうな態度で虐めていたくせに、何も出来ないどころかバカにしていた私に助けられた今の貴方の気分は今どんな気持ちか参考までに教えてもらえないかしら?」
そして私は開口一番助け出したエルフの男性へ向けて嫌味を放つ。
私は聖女ではないし、フラン様の様に女神様の様な出来た人間種ではない。
積年の、それこそ数百年もの恨みを全て無しにしてやれるほどの器など無い。
嫌味の一つや二つ出てしまうのは仕方のない事であろう。
そして、記憶にある男性エルフからすれば間違いなく激高して私に暴力を放って来ると思っていたのだがいつまで経ってもエルフの男性は激高する事なく、私を少し上気した表情で見つめるばかりである。
「何バカみたいな顔で呆けているんですか?」
そう私が問いかけると、エルフの男性は電気が走ったかの様に一瞬ビクンと跳ね、やっと意識を取り戻したみたいである。
「お、お前は………あの汚物汲みの牛エルフなのか?」
「当たり。気付くのが遅すぎるんですけど」
「す、すまない」
「ふーん。あっそ」
しかしエルフの男性は私に向かって激高する訳でもなく、しかも謝罪まで口にしてしまう始末である。
結局、この数百年意識していたのは私だけで加害者の一人であるこのエルフの男性は私にした事など少し経てば私ごと忘れてしまう程度であったのであろう。
その事実を目の当たりにして怒りよりも虚しさが一気に胸を満たしていく。
「オマエハ エルフニシテ ハ キカクガイノ ムネヲ シテイルナ 。 ドウダ? ワタシ ノ ハンリョト ナラヌカ ? ミヨ ワレノ キンニク ヲ 。 エルフデハ トウテイ テニイレル コトノデキヌ ウツクシサヨ 」
「……………バカですか?何事にもやり過ぎは美しくない。貴方は筋肉の美しさなど微塵も分かっていない。筋肉なら何でもいい、そういう浅い考えが貴方のその化け物へと遂げた醜い身体を見れば透けて見えますね。あの世で懺悔してください」
「キ、キサマッ…………………」
そして私の返答を聴き、エルフの男性と違い激高した筋肉だるまの化け物は残った左半身で殴りかかろうとしてきたので間髪入れず筋肉だるまの化け物を氷漬けにしてしまう。
「むぅ、思ってた以上にしぶとい」
ルネとしては殺すつもりで、手加減一切ない魔術を放ったのだが、それでも筋肉だるまの化け物はしぶとく生きている様である。
「お、お前………氷魔術などという失われた魔術を一体どうやって………」
その光景を見たエルフの男性はルネの神々しさにより頭に入って来なかったのだが、そういえば自分を助けてくれた魔術もまた氷魔術である事を思い出す。
「あなたには関係ない事では?私はこの国ではエルフではなく胸が醜い牛女の汚物汲みなのでしょう?私を蔑んできた人に教える訳が無いでしょ?しかし、こんな巨大な化け物、放って行く訳にはいかないでしょうし、どうしましょう」
そして私はエルフの男性へ言い返すと、もう興味は失せたとばかりにこの氷漬けの化け物の処理を考える事にする。
「ルネっ!!気持ちは分かるけど単独行動はダメってローズ様より厳しく言われているでしょうっ!!」
「それにこの化け物は自然の摂理を無視して、呪術により作られた化け物だからその呪いを解呪しない事には今のところ倒せないようですよ」
「ごめんなさい、つい感情を抑えきれなかったみたい。しかし、その話が本当であればとんでもない呪術ですね」
「分かってくれれば良いのです。先ほども申しましたがルネの気持ちも痛い程分かりますので。それでは、この化け物を封印してローズ様の元まで持って行きますわよ」
「はいっ!」
私が化け物の処理に頭を悩ませていると、エマとポーニャが遅れてやってきて私を軽く叱った後二人で化け物を封印し始める。
そして、叱ってはいるもののなんだかんだ言って私の事を心配してくれているという事に、私の心には温かな気持ちが満ちていく。
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
休日は実家の手伝いに急遽駆り出され、へとへとでございます。
今回、ご報告が二点ございます。
まず一点でございますが、来月よりバドミントンが木曜日へ変更となりましたので、木曜日(厳密には金曜日)の更新が難しくなります(*'▽')
そしてもう一点は、ラストに向けて日常シーンまたはコミカルなシーンが少なくなってくるかと思いますので、コミカルかつ日常シーンを書けないストレス発散及びモチベーション維持の為後書きが長くなってしまう場合があります(*'▽')一応千文字前後で抑えるつもりではございます。
ブラックリスト云々につきましてはまた後日(*'▽')
何卒。




