本人が思っている以上に落胆する
「す、すまん。しかしお主らに聞きたいことがあるのだ。構わなければ答えてくれぬか?」
「はぁ、何でしょうか?先ほども言いましたが急いでいますので手短にしてくださいよ」
少し苛立しげに答える獣人の娘なのだが答えるだけで良いならば、と言った雰囲気を隠そうともせず口を開く。
その態度に、冒険者ランクSSSに対する敬意や羨望等、憧れ等と言った感情等は一切感じられず、普段周囲から向けられる態度との差、特に獣人であれば尚の事敬意や羨望、憧れ等の感情が一気に高まる傾向にあるが故に、目の前の獣人の冷めた態度に思わずガイルはひるんでしまう。
しかしそんな事でプライドを傷つけられたと怒ってしまう様な未熟な者は、冒険者ランクC前後で命を落とすか冒険者を引退せざるを得ない深手を負い、引退して消えていった人物をガイルは何人も見て来たし、ガイル自身そんなくだらないプライドなどとうの昔に捨て去って久しい。
故に、当初こそひるみさえしたガイルであったのだが直ぐに立て直して目の前の獣人へと言葉を発する。
「ではお言葉に甘えて、お主は今結婚しておるのか?または恋人はおるのか?」
「………は?」
そしてガイルの言葉で沈黙が訪れる。
「ち、ちちちち、違うのだっ!!初めて美しと思える女性と出会えたとか、その圧倒的な力に惚れたとか、良い匂いがするであるとか、そういった事など微塵も思っておらぬからっ!!」
そして自らが発した言葉の意味を一拍置いて理解したガイルはなんとか取り繕うと必死になって弁解していくのだが、弁解しようと口を開けば開くほど三名の視線がより痛くなって行っている事にガイルは気付けないでいた。
今まで恋愛など無用、武こそが我が伴侶であり、異性に現を抜かすなど言語道断である。
そう思い、そしてそれに疑いもせず過ごして来たガイルは、言い換えればこと恋愛におけるスキルは皆無どころかマイナスに等しく、故に口を開けば墓穴を掘っている事には気付けないのである。
むしろ気付けない方が、彼女たちがドン引きしている事を知らないままの方が彼にとってはある意味では幸せなのかもしれない。
「それで、そんな戯言を聴きたいのでしたら私たちは帰らせて頂きますけど?」
「す、すまん」
そして尚も墓穴を掘り進めていくガイルに対して獣人の娘が帰っても良いかと汚物を見るかのような目線で聞いてくる。
その、今まで向けられたことのない目線にガイルは感じた事のない感情が胸の奥でくすぶり始めている事にガイルはこの時気付けずにいた。
「あの化け物は一体何なんだ?君たちはまるで初めから知っていたかのようであったが………差し支えなければあの化け物について話して大丈夫な部分だけで良いのでこの俺に教えて頂きたい」
「あれは人間種をベースにした化け物。今回はエルフが媒体であると思われる。そして元の媒体であった者の怒りや憎悪、恐怖や恨み等と言った負の感情が強ければ強い程強力な化け物となって姿かたちを変えていく呪い。だからあなたが攻撃するたびに、痛み、怒り、憎悪等の感情が膨れ上がりより強化されて行った。しかしながら強化される条件として化け物の身体が未成熟であるという条件が必要であると思われます」
ガイルはあの触手が新種の化け物の正体であると思っていたため獣人の娘の言葉に驚きを隠せないでいた。
特に、あの化け物は完全体ではなく未成熟であったという点においては今更ながら恐怖をすこし感じ始めていた。
身体に体毛が無く、発汗機能のある種族であったのならば、ガイルの身体は汗に塗れていたであろう。
「い、一体誰がなんの為にあんな化け物を………」
「申し訳ございませんがそれについては私たちも未だ分かりません。ただ言える事は、あの化け物を作った者達こそ我が主の真の敵であるという事です」
その言葉を最後に獣人の娘は言い残して、二人の呪術師と共に姿をくらます。
「ふむ、パートナーの有無を聞きそびれてしまった………」
このガイルでもって匂いで追えないという事に、ガイル本人が思っている以上に落胆するのであった。
◆
その夜、帝国は複数の新種の化け物によって攻撃され、そして聖教国から宣戦布告を受けた。
それら新種の化け物達は高ランク冒険者達が討伐に向かっているのだが今だ化け物を倒したという報告は上がってきていない。
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