同じ狼の血
ガイルの攻撃により生じた土煙が晴れてくると、奇襲を仕掛けて来た敵の姿が見えてくる。
その姿は、二人の身体に二つのエルフの顔、そして背中には天使の様な羽が生えているのだが、その身体のいたるところに肉の色をした触手が絡みつき蠢いていた。
そして、その二つのエルフの顔は爛れ、エルフ特有の美しさは無くなっていた。
「ふむ、異界の世界から我らの世界へとやって来たと言われても信じてしまいそうな容姿だな。しかし、化け物を見てしまったからには討伐しなければならない。それが人に害をなす思考が駄々洩れであればなおさらであろう。何故そなたらがそのような姿かたちへと変わったのか、何故そのような憎悪を人へ向けるのか、その原因にあるそなたらの歩んできた道を知ってやりたいと思うのだが、幸か不幸かそなたらは少しばかり強くなり過ぎたみたいである。その為手加減など出来ぬ故、そなたらの過去を聴けぬ事を謝罪しよう」
ガイルはそう言うと手を合わせ、合唱する。
「参る」
初めに動いたのはガイルであった。
どうやら目の前の化け物は先ほどガイルが放った斬撃によるダメージで動けないみたいである。
その隙に攻撃する等、本来であれば騎士道精神に外れる卑怯な手段という考えから相手が持ち直すまでガイルは待っているのだが、今回の敵は相手が回復するのを待っている余裕など無いとガイルの勘が警告を鳴らす。
己のプライドでこの化け物に負ける、又は逃がしてしまうなど起きてしまうぐらいならば、そんなプライドは野良犬にでも食わせておけばいい。
「氷爪」
「炎爪」
「雷爪」
そんな考えを思考の端に追いやり様々な属性を付与して攻撃し、敵の弱点を探って行くのだが、これといった手ごたえは感じ取れない。
それどころかガイルが攻撃した箇所は触手が覆いかぶさるように傷を回復していき、回復していくにつれ敵の姿がエルフの姿から崩れていき、より化け物らしく変化していく。
「ふむ、もしや攻撃を受ける度に強さを増して行っているのだとすれば、力を出し惜しんでいる余裕は無いようであるな」
その光景を見て分析していくガイルは、一旦攻撃の手を止め、両の足でしっかりと大地を踏みしめ右半身を後ろへ、左手は伸ばし指先で相手を照準を合わせる。
そしてガイルは腰を下げ、一拍溜めた後一気に化け物へと跳躍すると、次の瞬間には化け物の身体を貫き、その巨躯に大穴を空ける。
「奥義・狼槍」
その爪で貫ける物無し、その牙で砕けぬ物無し、その耳で聞き取れぬ物なし、その眼で捉えられぬ物なし、その鼻で潜める物なし、その足で追いつけぬ物なし、故にこの槍を放ったが最後相手に死を。
狼人族に古くから伝わる奥義、それは自身の身体そのすべてを極限まで高めた者だけが扱う事のできる、まさに一撃必殺技である。
「恨むならそんな身体にした者を恨んで………なっ!?」
化け物を見下した等、そんな事は無かった。
常に最悪の事を想定して立ち回ったつもりである。
しかし、ガイルは目の前の化け物が文字通り化け物であるという事を理解していなかった。
生き物、特に脊椎動物であればどんな生き物であろうが、それが例え竜種であろうとも己の腹に背骨ごと風穴を開けれられては立つこともできず絶命する。
そのSSSランク故からくる経験が、ガイル本人に決してしてはいけない油断を生んでしまった。
気が付けば化け物の触手が無数に地面に張りめぐらされており、ガイルの足に絡まっていたのである。
自身の爪による斬撃で地面に張り巡らされた触手を切り刻むのだが、足に巻き付いた触手は切り裂かれてなおその面積を増やしていき、更にガイルの足に絡みついていく。
生き残る為には己の両足を切り落とすしかないと判断したガイルは、次いでその後に逃げ切り生き延びる手段が思いつかず、SSSランク故に分かる己の未来予想をし、そして諦める。
SSSランクにしては実にあっけない最後であった。
「SSSランクと言われていてもこの程度ですか」
それもまた武人らしい最後であると、そう思った時、空の上から女性の声が聞こえてくる。
「全く、この体たらく、同じ狼の血を引いているとは思いたく無いですね」
そして次の瞬間にはガイルに絡みついていた触手や地面に張り巡らされた触手は勿論、あの化け物ごと見えない刃で形がなくなる程切り刻まれいた。
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
今回の化け物の描写で「ん?これはあれか?」と思った方、そうです。アレをパク………参考にさせて頂きました(*'▽')




