異変
オズウェルの決意を聞き驚いているのは俺だけであり、ノア様を含めて皆それ程驚いていないようである。
むしろその程度の事はして当たり前であるかの雰囲気に思わず俺は息を飲む。
「では、早速始めましょうか。まずはこの世の理から大まかに説明いたしましょう。何故ブラックローズの方々は強大な力を得る事ができたのか。それは即ち世界の理をフラン様によって教えられた結果と言えるでしょう」
そして、自身のこれからの立場など些細な問題であるというような態度で流し、オズウェルが話し出す。
その内容はフランの事を天才という言葉で表現するには生温い程の内容であった。
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聖教国、その首都アンデルスブルクにあるキーリ教教会、その地下に六人のエルフが運ばれていた。
「んー、ついに僕が神と成る時が来たのですね」
床に魔方陣が書かれ、その周囲に均等に並べられたエルフを眺めながら恍惚とした表情で現教皇、シューベルト元聖教皇の弟であるシュバルツ聖教皇は誰に問いかけるでもなく口を開く。
「どうですか?自分たちが今まで見下して来た人間が神へと至る為の餌でしかないと知った感想は?」
しかしエルフ達はシュバルツ聖教皇へ怨嗟の籠った視線を向けるだけで口を開こうとしない。
「あぁ、そうでしたね。貴方たちは今奴隷契約で眼以外は動かせないよう命令されていたのですね。実にお似合いじゃぁないですかっ!!」
そしてシュバルツ聖教皇は両手を広げて横柄な態度で喋り続ける。
「それに名誉な事ではありませんか。なんといってもあなた方はこの私、神の生贄として選ばれたんですからっ!!それと、使うのは命ではなくてあなた方の贓物ですのでご心配なく。私も鬼ではございませんのでね、あなた方の命までは奪いませんとも。その代わりと言っては何ですが化け物には成ってもらいますけどねぇっ!!大丈夫ですよ。その為の奴隷契約ですので例え自我を失ったとしてもしっかりと使いッ潰してあげますよっ!!」
シュバルツ聖教皇はそう言い終えるとまるで盗賊のような下品な笑い声を上げ、その笑い声が教会の地下室で反響し、響き渡るその笑い声はまさに悪魔の笑い声の様である。
「あぁ、早くあなた方の腹をかっさばき早く贓物を見たいですねぇ。一体どんな綺麗な色をしているのでしょうか?想像するだけで興奮してしまい、思わず果ててしまいそうですよっ!我が兄の贓物もなかなか良い色合いでしたが、エルフともなると数百年分の欲望が溜まっていますからねぇっ!!さぁ、もう待ちきれないので始めましょうかっ!!」
そしてシュバルツ聖教皇は再び悪魔の様な笑い声を上げるのであった。
◆
最初に異変に気付いたのは太陽が沈み始め、空が紫がかった帝国の、南側に位置する黒の大森林にいる冒険者ランクSSSである獣王ガイルであった。
獣人は各感覚が高く、特に聴覚、視覚、嗅覚に優れている者が多いのだが、獣王ガイルはそれらの各感覚が通常の獣人よりも数百倍も高く感じ取る事が出来、それによって最高ランクであるSSSまで上り詰める事が出来たといっても過言ではないだろう。
その為嗅覚一つとっても戦闘では相手の体臭により、相手の心情を読み取り、繰り出す技がフェイントであるか、大技であるか小技であるか、使い慣れた技かそうでないか、攻撃を繰り出すタイミング等、様々な情報を得る事ができる。
故に彼には奇襲など、当然の事ながら通用しない。
「ふむ、久々の奇襲が化け物とは実に興味深い。一体誰の指示を得て動いているのか」
そう化け物の首に浮き出ている奴隷をしめす模様を見ながら言うとガイルは半身横にズレ、次の瞬間にはガイルの左半身があった箇所を下から上へ薙ぎ払うかの様に赤い閃光が通り過ぎていくと、一拍遅れて地面が抉れ衝撃で木々が揺れる。
「当たればいくら俺でもひとたまりも無いだろうが、しかしそんなに感情的になっては当たる物も当たらないという事すら分からないのか。力だけを手に入れた三流めが」
そう言うとガイルの身体はみるみる変化していき、まるで二足歩行の狼の様な、身の丈二メートル程の巨躯へと変わって行く。
「恨むんならテメーのご主人様を恨むんだなっ!」
ガイルはそう声高々に叫ぶと攻撃された方角へと一気に跳躍し、鋼すら簡単に切り裂く己の爪に魔力を纏い、斬撃を二度飛ばす。
「オオオオォォォォォオオオオっ!!」
「ふむ、これは実に面妖な………」
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
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評価ありがとうございますっ!
久しぶり友達と遊んできました(*'▽')




