キス
我の言葉にエルフの老人はビクリと肩を震わすのだが、次の瞬間には強い意思を宿した目で我を睨み返して来る。
「それの何が悪いっ!この国で一番偉いのはこの儂であるのだぞっ!?だというのに元老院の奴等はまるで自分達の方が偉いかの様な振る舞いでこの儂に接してくるどころか、説教までしてくる始末っ!エルフが人間や獣人共より優れているという真実を言っただけで何故儂を王位から引く様な内容の事を言われなければならぬのだっ!」
そしてこの老人は汚くも唾を飛ばしながら自らの思いの丈を叫ぶ。
その姿の実に醜い事か。
「フム、貴様は人間や獣人よりも優れていると申すか?」
「当たり前であろうっ!」
「では何故エルフは獣人よりも身体能力が低く、目や耳、鼻も獣人よりも劣っているのだ?人間は確かにエルフより魔力は低く獣人よりも身体能力は低いかも知れぬが獣人よりも魔力は高くエルフより身体能力は高いと言うのに、何故エルフより劣っていると思えるのだ?」
「そ、それは………エルフは神に選ばれし生き物であるからだっ!」
我の言葉に素早く返せていない時点で自らの考えが破綻しているというのに、その事すら気付かず神などと言う根拠も何もない事を、それがさも当然であるかの様にエルフの老人は声高らかに叫び。
「愚か。実に愚かな考えである」
「な、何だとっ!?」
「ならば今日この時より神に選ばれし生き物は竜である。よって、貴様らエルフを殲滅させて貰おうかっ!」
「そ、そんなのは暴論であるっ!!」
「そうだ、こんな考えは暴論であると分かっているではないか。しかし、そうだな。この考えが暴論であろうとなかろうと我が妻が実行せよと一言申せば我は実行する。夢々忘れぬ事だな」
「ぐ、ぬぬぬ………わ、分かりました」
そう言うと我はエルフ達を部屋から出るように促す。
「あ、そうそう。因みに我妻は蘇生魔術を扱えるぞ?」
◆
「平和ですわねー」
「そうですね、フランお嬢様」
夏休みも終わり、ここ最近メインキャラクターによる半強制イベントなども無く平和に過ごしている。
今日も今日とても自室から満月を観賞していたりするくらいには穏やかな日常である。
コレを平和と言わずに何と言うのか。
我がブラックローズが運営している事業も、今年も武闘大会を大いに活用させて頂き、その宣伝効果も相まって売り上げは止まる事を知らず鰻登りの右肩上がりである。
コレならばわたくしが死亡フラグを回避しても卒業後一人で生きていける分には十分過ぎると言って良いほど十分過ぎるであろう。
あとは死亡フラグをへし折ってしまえば終わりである。
後何本残っているかという問題は考えたくないので考えない。
良いじゃないですか。
メインキャラクター達とも嘘であるかのようにわたくしとの関係は良好そのものですもの。
なるように成りますわ。
「へっくちっ!………誰かわたくしの噂をしているのかしら?」
そんな事ない事くらい分かっているのだが、そこはやはり元とはいえ日本人である故に古典的な事を反射条件的に言っているとアンナがポンチョをそっと肩へとかけてくれる。
「夏が終わり秋になったばかりとはいえ夜風は冷えます」
「ありがとう」
秋に自作した団子に満月、ススキが無いのが残念ではあるものの代わりに今日はアンナさんが側に控えてくれている。
「そういえばアンナは奴隷の育成も任せているのですけれども大変では無いかしら?」
「いえ、コレも全てフランお嬢様の為と思えば誉れで御座います」
「そう。でも頑張ってらっしゃるのでしょう?前々から考えていたのですけれども、奴隷の幹部の皆様には何か感謝の印をお送りしたいと思っているのですけれどもアンナは何が良いと思いますの?なんでも良いからおっしゃてくださらないかしら?」
「な、なんでも………?」
「ええ、わたくしができる範囲ですが」
するとアンナは急に顔を真っ赤にしてもじもじとし始める。
それは普段クールビューティーの仮面(直ぐ剥がれてしまう)アンナには珍しく、まるで誕生日プレゼントを聞かれた幼子を見ているようでとでも微笑ましい光景であり、思わず可愛いと思ってしまい抱き締めたくなるのだがそこはグッと堪える。
「で、では………き、キス………を」
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
ただ今パンチェッタ作りにハマっております。
今回は、いつものハーブ味ではなくシンプルに塩胡椒味と塩味を作っております^^
塩のみは塩豚とも言うらしいですね^^
塩味が意外と楽しみです。




