蟲毒
故に、性の喜びを知っている俺こそがエルフで最も真理に近い存在と言えよう。
その為性とは真逆であり死に対して執着している、暴虐に喜びを感じるムカデ女なんか持っての他である。
性に対して余りにも失礼極まりない思考であるのだが、何故そのような思考を持ってしまったのか研究するくらいの価値はあるだろう。
言い換えれば彼女にはそのくらいの価値しかないのだが、だからと言って殺してしまうのはそれこそ彼女と同じ穴のムジナである。
殺すのではなく改心させてこそであると俺は思う。
さて、どのように彼女を改心させようかと思考を巡らせるのだが、彼女の使役しているムカデをどう対処しようかと考えている時、気持ち悪い何かを感じ取った。
確か、彼女のあのムカデは蟲毒という手法で作り上げた最高傑作であると自慢げに話している事を思い出す。
当時は虫と言えど命を無駄にしているとしか思えない、蟲毒を作り出すその方法に嫌悪感しか思えなかったのだが、今この状況と蟲毒の作り方に背筋がざわつくのが止められない。
「気付いてしまいましたか」
「そうか、すべてはお前等の掌の上で転がされていたという事か」
先程まで気配すらなかったというのに人間の男性が一人、俺の部屋へ現れており話しかけてくる。
気配を察知できなかった恐怖や人間に見下されている状況による怒り、そしてやはり俺の考えが正しかったという事実による緊張を悟られまいと、自身の感情を何とか押し殺す。
「いつからだ」
「そうですな、憎しみや怒り、そして欲望や嫉妬に優越感等は膨大なエネルギーとなると知った時からとでも申しましょうか」
俺の問いかけに件の人間はあざ笑うかのようにはぐらかすのだが、恐らくこの七賢者を集めたのがこいつらであるとするのならば、七賢者が出来上がる前から裏で操っていたという事は間違いが無い。
それは即ち、こいつら人間は世代を跨いで我々エルフを裏で操っていたという事であろう。
「既に前教皇により実験は最終段階へと移行しているのですよ。彼は実に素晴らしい実験結果を我々に与えてくれた。人の身でありながら、しかも瀕死の状態でああも強大な力の暴力へと変化したのだから。しかし、さすがに良い感じに皆さま育って下さいましたね。最初は人間で実験していたみたいですが、所詮は人間。どうしてもこの実験が終わる前に寿命で死んでしまう。その点エルフは寿命で死ぬ事は無い。欲が強いが短命な人間か、欲は弱いが長寿なエルフか当初は悩んでいたみたいですけどね、所詮はエルフも人間種。環境さえ整えてあげればその欲に歯止めがきかなくなるみたいですね。言うなればこれは、貴方も感づいた様にエルフ版の蟲毒という事ですなっ!!」
「今から俺たちに殺し合いをさせるというのか?」
「何をバカな事を仰っているのですか。蟲毒と言うのはあくまでも殺し合いをさせるのではなく同じ場所に閉じ込める事が重要なんですよ。殺し合いはその結果生まれた現象にしかすぎませんが、結果一匹に絞られるのですから効率的な方法と言えるでしょう。それに、虫と違いエルフであるのならば知能が高い故に閉じ込めずとも近くに似て非なる考えを持つ者を集めれば勝手に互いを意識してその欲の感情が刺激され、様々な負の感情が沸き上がって来たでしょう。それこそ同種であるエルフに対してよからぬ事を皆が考えてしまう位には。しかし蟲毒と違い一匹に絞れないのがデメリットと言えばデメリットですが、そんなもの、全員同じように生贄にすれば問題ないでしょう。一人減っているみたいなのですが、その分酷育っていると信じてますよ」
人間の言葉に反論しようとするも体の自由は奪われ発する事も出来ずしまいには倒れてしまうのだだが、それでもお構いに無しに人間は言葉を発し続ける。
「人間の、いや、これから神となるお方の餌として十二分に育ってくれた事だけは感謝しますよ」
恐らく人間の言い分から他の者達も全員、既にこいつらに捕まっているのであろう。
「殺してやる………っ!!」
「あはははハハハハハっ!!良いですねぇっ!!あなた自身の美学はどうしたのですかっ!!そんな美学などどうでもよくなってしまう程私が憎くて憎くてたまらないのですかっ!?それこそ、本来では口すら動かせない状況であるというのに、その怨嗟の言葉を口にしてしまう程にはっ!いやぁ、実に気分が良いですねぇっ!」
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