閑話五──信者◆
試合が終わるとメリッサが俺に、何故魔剣術を使わなかったのかと聞いてくる。
「ああ、それは俺が相手が素人だと舐めてかかったというのもあるが、結界魔術もちだという事が分かったからな。普通に剣を振るのも魔剣術を振るのも結界魔術で止められてしまっては意味がない。同じ意味が無いのであれば魔力を消費しない方を選ぶまでであるからな。それにこれは殺し合いではなくてあくまでも試合であるならば魔剣術だろうとそうでなかろうと、剣筋を急所に当てさえすれば俺の勝ちだしな」
「なるほど………勉強になりました。ありがとうございます」
「それは俺のセリフだ」
そして彼女と言葉を少し交わしたあと帰り支度をする。
こんな素人に負けてしまっては自分の売り込みなど出来ようはずもない。
「あら、奴隷志願の竜殺し、ドラゴンスレイヤーがいるとジュレミアの伝言を奴隷メイドから聞いたのですが貴方ですわよね?もう帰ってしまわれるのですか?」
そんな俺に声をかけてくる女性の声が聞こえた為、声のする方へ振り向いてみるとそこには見事な金色のドリルを二本頭に携えた、仮面をつけた女性が立っていた。
その姿を見て俺は思わず身震いしてしまう。
見ただけで理解させられてしまう。
彼女にはどう足掻いても勝てないと。
「お初にお目にかかりますわ、ドラゴンスレイヤー様。わたくしがここの長であるローズという者ですわ」
「ご丁寧に長自ら訪れて頂きありがとうございます。私はアレクサンドラ・エレキネストという者でございます。確かに巷ではドラゴンスレイヤーと呼ばれてはおりますが、しかしながら私はそちらに居られる女性にすら勝てなかったのです。故に奴隷になるのを諦めて帰らせて頂くところでございます」
「良いでしょう、貴方に奴隷となる強き意志があるのならば奴隷として我がブラック・ローズへ迎え入れて差し上げますわ」
「………え?」
「ですから、今ある全てを捨てて奴隷になる勇気があるのならば、奴隷にして差し上げますわ」
そして俺は自分の不甲斐なさを理由にこの地を去る旨を伝えたのだが、帰ってくる言葉はこの俺を迎え入れても良いという意外な内容であった。
「この者に負けたと貴方は仰っておりますが、逆に外での戦闘となればあなたが一方的に勝利を収めていたでしょう。この立ち回り方法とはあくまでも整理された平らな床での戦闘に特化された立ち回りなのですわ。この立ち回りは極めれば極める程床に凹凸がある外では突っかかってしまい直ぐにコケてしまうでしょう。これはあくまでも室内勤務である奴隷メイド用の立ち回りでしてよ。それで、貴方は奴隷となる勇気はおありですの?」
均された平らな床専用の立ち回りという事に、驚きを隠せずにいるのだが、今はそんな事よりもローズ様への返答である。
答えなど、悩む必要などあろうはずがない。
元よりそのつもり来たのだから。
「しかしながら、失礼ですが一つローズ様へご質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「よろしくてよ。申してみなさいな」
「ドラゴンスレイヤーと巷で呼ばれ、男爵の地位も頂いた私が、ローズ様の元で奴隷となりたいと言う事を疑問には思わないのでしょうか?」
「そうですわね、一つは貴方が巷で呼ばれている通りドラゴンを討伐できる程の実力であり、その実力が真であるからこその爵位を陞爵させて頂いたのでしょう。それは言い換えればそれほどの高みに上ってしまう程の剣術バカという事でもありますわ。好きこそ物の上手なれって事ですわね。そしてそんな剣術バカの視力が日々奪われていっているとしたら、最初は左目から、最近では右目にも視力の低下が現れてきているとすれば、まことしやかに囁かれている噂を頼ってしまいたくなった。違いまして?ああ、大丈夫ですわ。貴方の視力低下の原因は白内障という物でその原因と治療方法は存在いたしますわ。勿論、わたくしの奴隷となればですけれども」
そしてこの日、また一人の熱心なローズ(フラン)信者が誕生するのであった。
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
長々と書いてしまった閑話もやっと完結致しました。
文字数的にはその他閑話と同じくらいなのですが、(*'▽')てへ
それに伴いお詫び、と言えるほどでもないのですが本日もオススメアニメの紹介をさせて頂きます。
作品名
ストレンジドーン
このアニメに関しましてはストーリー、特に最終回は「これで良いの?」と煮え切らない内容となっているのですが、『なんの能力もない普通の女子高生が異世界に飛ばされた』という事に関してはリアル(星が違えば人型と言えど同じであるはずもなく、習慣が違えば常識も違う)に描写されていると思います。
今の異世界ものに飽きてきたという方は箸休めとして観るのもいいかもしれませんね(*'▽')
ただ、ストーリー重視の方にはあまりお勧めできないかもです(*'▽')よしなに
あらすじ
ある日、異世界に飛ばされてしまったふたりの女子高生・ユコとエリ。
強い日差しの下、奇岩が立ち並ぶ荒野をあてどもなく歩き、川で休憩してるところへ突然、小さな生き物が襲ってくる。
それはこの異世界での「ヒト」であったのだ。シャルと名乗る辺境警備隊隊長によって助けらた二人はシャルの村に案内される。村では「魔人」と呼ばれ、救世主扱いされ村人総出の歓迎の祭が開かれるのだった。
そんな折、魔人が村にやってきたという情報を得た他部族が村に侵入して戦いが始まり、ユコとエリたちはそこに暮らす小人たちの戦争に巻き込まれてしまう。




