友情と恋愛 3
パート練習の教室から先に戻った3年の先輩達の会話が聞こえてきた。
「流石にあたしら1年に負けてるとは思わないんだけど」
「あの二人、先生となんかあるんじゃない?元々知り合いだったみたいだし」
自分と玲奈は入るタイミングを完全に見失ってしまった。
「あなた達本気でそう思ってる?先生が贔屓目したとか」
どうやら美咲先輩もそこにいるようだ。
「逆に美咲はどう思ってるの?あたしらより本当に1年2人の方が上手いと思うの?」
「あのねぇ、あたしにそれを聞いてどうするの?文句があるなら陰口とかダサいことしてないで先生のとこ行ってきたら?」
「それもそうだね、納得できないしあたしらちょっと行ってくる」
そう言うと自分達のいる方へ向かってくる、そして勢いよくドアが開いた。
「あ、あー…あと…えと、お、お疲れ様…です」
「お疲れ様」
「おつかれー」
かなり動揺してしまい挨拶がたどたどしくなる。
先輩たちは何事も無かったかのように明らかに作った笑顔で挨拶を返してくれた。
その笑顔が心に刺さる、玲奈はその間なにも言わなかった。
「奏ちゃん、個人練いこ?」
「そ、そうだね……」
明らかに怒っている様子だった。
とりあえず自分も落ち着かなかったので美咲先輩に伝え教室を後にした。
いつもの中庭についた途端、玲奈はトランペットをそっと置いて大きく息を吸い込んだ。
「ほんっとに!むっかつくわああああ!」
出会ってから初めて聞くぐらいの大きな声で叫んだ。
学校全体にまで聞こえるのではないかと思うぐらい大きな声だった。
「なんなのアイツら!あたしより下手なくせに裏でグチグチグチグチ、作り笑いとかいらないから面と向かって言ってくればいいのに!」
玲奈は叫んだ反動で顔を真っ赤にしている。
「奏ちゃんもそう思わない!?」
「え?あ、うん……そ、そうだね……」
勢いに押されて思ってもない返事をしてしまった。
「奏ちゃん、思ってないでしょ」
「……そうだね、正直あたし的に思うのは3年の先輩達と比べてあたしは実力的に負けてると思う、あ、けどそれはあたしだけね?玲奈は上手いからわかんないけど」
「やっぱり奏ちゃんは奏ちゃんだね」
「いや、意味わかんないし」
「あのさ奏ちゃん、そろそろ自信持ちなよ、自分の演奏に」
昔の自分にようやく並べた程度では自信なんか持てない。
それが今の本心、だからこそ先輩達に実力で勝っていると思えない。
「今回は仕方がないから特別にあたしがちゃんと言ってあげる、奏ちゃんは3年の先輩たちより上手いよ、これが真実で結果としてこうなってる」
「そうかな、まだそこまで自分に自信ないよ、ようやく昔の自分より上手くなったかなーってぐらいだよ」
「前にも言ったけどさ、奏ちゃんは凄いんだよ、トランペットに本当に愛されてる、多分あたしがどれだけ練習してもその音は出せない」
「それを言うなら玲奈の音の方が凄すぎて出せないよ」
「あたしの音は努力すれば到達出来るよ、奏ちゃんのは多分無理、美咲先輩でも夢先輩でも」
「そんな違うかな?」
「そんなに違うんだよ、普通の上手いのとはちょっと違うんだけどね」
「なにそれ、余計意味わかんないよ」
「そうだね、あたしも言っててわかんないや」
自分の音はそんなに違うものなのか、言われないとわからない。
自分からしてみれば玲奈の音も美咲先輩の音も練習して出せる気は正直していない、でもどことなく2人の音は似てるところがある気はする。
「ソロパート練習しよっか、先輩達に見せつけて認めさせてやるんだ」
玲奈は決意に満ちた表情だった。
「奏ちゃん、絶対に2人でソロパート勝ち取ろうね!」
「そうだね、やるからには全力でやんないと、せっかくあたしの背中を押してくれた2年の先輩たちに顔向けできないよね!」
そうして2人でソロパートの練習を始めた。
数日後の日曜日、珍しく部活が休みということで誰か誘って出かけようと思ったのだが、仲のいい3人は用事があるらしく仕方なく1人で買い物に出ることにした。
近くの大きなデパートに楽器屋があったのでとりあえず入ってみる。
「あれ?奏?」
声を掛けてきたのはなんと香澄だった。
「香澄じゃん!なんでいんの?」
「今週末ちょっと身内で用事があってこっち来てるんだー、奏は1人?」
「友達誘ったんだけど用事あるみたいで暇だしブラブラしてたとこ」
「そっかじゃあさ、あたしの買い物付き合ってよ」
そうして2人で買い物に回ることにした。
「香澄さ、コンクールメンバーだよね?」
「ん?そだよー」
「実はソロ吹いたりとかしたりする?」
「まだわかんないけど可能性はあるんじゃない?」
「そうなんだ、流石だね」
「奏もでしょ?美咲に聞いたよ?」
「……美咲って誰のこと?」
「美咲だよ、山崎美咲、先輩でしょ?」
「美咲先輩のことかー、っていうか知り合いだったの?」
「あ、言ってなかったけ?美咲はあたしの従姉妹なの」
「あーなるほどー……って、ええーっ!?」
「そんな驚くー?そもそも美咲があたしの話してるもんだと思ってたのに」
「香澄の話はちょっとだけされたことあったけど、あの人話の本質をいっつも隠しながら話すから正直意味わかんないんだよねー」
「まあ美咲だからねー、あの人ちょっとおかしいから」
身内から見てもやはりおかしい人なのかと呆れてしまった。
「あ、それでさ、香澄ってソロ吹くのに先輩に気を使ったりするのかなー、なんて……」
「気を使ったりは無いけど先輩達いい人ばっかりだから正直やりにくいとこはあるかな、それにソロに選ばれるかどうかはわかんない、けどね、手を抜く気も譲ってあげる気も一切ないよ」
「……やっぱそうか、そうだよね」
「なんかあったの?」
「ウチってさ3年の先輩達すっごい上手いの、美咲先輩もだけど他の人も、なのにソロのオーディション選ばれたの3年は美咲先輩だけであとは2年の先輩とあたしと玲奈なんだよね」
「うん、それで?」
「玲奈はわかんないけど単純な実力なら多分先輩達の方があたしより上手いのに選ばれたのはあたしだった、それで3年の先輩があんまりいい気がしないみたいでさー」
「あたしは状況を聞いてるだけだからわかんないけど、全国目指すならソロは上手い人が吹くものじゃん?それで3年の先輩が選ばれなくて1年の奏と最上さんが選ばれてるのは二人の方が単純に上手いからじゃないの?」
「それはどうなんだろ、誰かを贔屓とかする先生じゃないとは聞いてるけど」
「だったら尚更そうなんじゃない?あんま気にせずとりあえずソロパート取っちゃえ!」
「そうなのかなー、ま、けど結局ソロは美咲先輩が吹くことになりそうだけどね」
「まあなんにせよ頑張って!お互い全国でソロ吹けるようになったらいいね!」
香澄はそういうと気になる洋服を見つけたのか店に入りたいと言って買い物を続けることになった。
夕方になり買い物も終わり、香澄とも別れて帰り道歩いていると前に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
少し悩んだが、一応同じ部活の仲間なので声を掛けることにした。
「葉加瀬くんお疲れー、偶然だねー」
「おお花咲じゃん、お疲れ、帰り?」
「ちょっと買い物しててその帰り、葉加瀬くんは?」
「俺もツレと遊んでてその帰りだよ」
「そか」
ふと空からの頼み事を思い出した。
聞くなら今かなりチャンスなんじゃないかと思い聞いてみることにした。
「そーだ、あのさ……」
「ん?」
「葉加瀬くんて好きな人とかいたりするのかなー……なんて……」
完全に聞き方を間違えた気がするが、如何せんこういうことを男子に聞くのは初めてだったので顔に熱が籠る、普通に恥ずかしい。
「え?好きな人?なんで?」
「なんでって言われるとちょっと答えに困っちゃうんだけど……」
空のことを正直に話すわけにもいかないので、どうすればいいかを考えるがいい案を思いつかない。
「ええーっと、そだ!あれだよ!葉加瀬くんってモテそうじゃん?だからちょっと気になっちゃって!」
「気になるって……は!?」
「あー!あたしが気になるとかそんなんじゃなくって!えっとー、そのー……」
完全にやらかした、空に聞けなかったと普通に謝るしかなさそうだ。
そう思ったが葉加瀬は少しニヤついていた、そして予想外の質問が飛んできた。
「まあ、なんかわかんないけどさ、それは答えなきゃダメか?」
「……へ?」
「その好きな人がいるかどうかっていうやつ」
「……できれば答えてくれると嬉しいかな」
「……気になってる奴はいなくは……ないかな……」
なんとなく予想してた答えが飛んできた。
問題はそれが誰なのかを聞き出せるのかにあるのだが、自分にはその交渉材料がない、それでもここで引くわけにはいかずダメもとで聞いてみる。
「それは……誰かなー……とか聞いてみたり?」
「流石にそれは教えないかな」
「えー、教えてよー、それかなんかヒントないの?」
「ヒントなー、吹部の人とだけ言っとくわ、それ以上は秘密」
それ以降何を聞いても葉加瀬は答えてくれなかった。
挙句自分の好きな人はいないのかと聞いてくる始末になり、話がややこしくなりそうだったので、その日は撤退した。
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いつも更新遅くてすみません……。
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