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10/22

先輩と後輩 1

 

「今回のコンクールの課題曲は『Flame/焔』自由曲は『シンフォニック・ハイライト・フロム・フローズン』です」


 コンサートが終わり、いよいよ夏のコンクールである県大会に向けて、課題曲、自由曲が先生から発表された。


「曲自体の難易度はそこそこ高いものですが、みなさんならなんてことないでしょう、そして、今年も例年通りコンクールメンバーのオーディションを行います、全員参加できる人数ですが、コンクールに出られるレベルに達していないと学年は関係なく出場することはできません」


 オーディション、自分としては正直思い出したくないものを思い出させてくる。

 この部活なら、ここの先輩達なら絶対に大丈夫、わかってはいてもどうしても心に何かがつっかえてきてしまう。


「……どしたの?大丈夫?顔真っ青だよ?」


 玲奈が心配して声をかけてくれた。


「大丈夫、気にしないで……ちょっと思い出しちゃっただけだから……」


「中学の時のこと?」


「うん、けど今はもう大丈夫だから、ちゃんとトランペットだって吹けるし」


「……ならいいけど」


 クマ先生からの曲の説明が終わり、各自パート練習に移ることになった。


「にしても自由曲、難しいねー、美咲先輩吹けますー?」


 教室に戻るなり速攻で練習を始めた玲奈が美咲先輩に尋ねる。


「この曲は初めてやるからちょっとだけならいけるかなー?」


 そう言うと玲奈が練習していた箇所をさらっと吹いて見せた。


「いやー、さすが美咲先輩!恐れ入りましたー!」


「まあ、ここはまだ序盤だしねー、奏ちゃんでも吹けるんじゃない?」


 急に無茶ぶりが自分に飛んでくる、それに何故か周りにいた先輩達もこちらに視線を向けている。


「いや、さすがに無理ですよ、この曲やったことないですしー」


「いいから、吹いてみてよ、どうせ練習するんだし」


「ちょっとだけですよ」


 無理だとは言ったものの、譜面を見ると序盤だけならなんとかなりそうな感じだった、美咲先輩や玲奈ほどは上手く吹けないかもしれないが。

 実際に吹いてみると若干テンポにズレはあるものの、そこそこ上手く吹けた。


「……マジ?」

「……凄くない?初めてやる曲だよね?」


 周りで聞いてた2年の先輩達や同級生達の小声が聞こえた。


「さっすが、奏ちゃん!言った通りブランクなんかもうどっか行っちゃったね!」


 玲奈は嬉しそうにはしゃいでいた。

 美咲先輩も何故かニヤニヤしている。


「奏ちゃんは上手だねー!あ、もちろん玲奈ちゃんもだけどね?さっすが私の妹たちだよ、お姉さん嬉しい」


「妹ですかー?えーあたし先輩がお姉ちゃんなら良いですよー」


 いや、なんで玲奈は嬉しそうなんだよ、とツッコミつつ、素直に褒められたのは嬉しかった。


「妹じゃないですけど、ありがとうございます」


「奏姫はやっぱりノリが悪いなー、可愛くなーい」


「姫でもないですっ!」


 本当にこの先輩の相手は疲れる、こんなに美人なのに見た目とのギャップが凄い人だ。


「まあ良いや、とりあえずある程度吹けるようになるまで練習するあるのみ、みんな一週間後には一通り吹けるようにしててね!トランペットは全員でコンクール出るよ!」


「美咲先輩、全員は出れないですって、先生の話ちゃんと聞いてました?」


「そうなの?聞いてなかった」


「そうですよ、今年は人数も多いからパートごとに人数区切ってるって言ってたじゃ無いですかー、この曲はトランペットのソロもあるので目立つように配置するらしいですけど定数は6人までです、というかちゃんと聞いててくださいよー」


「あーなんかそんなこと言ってた気がするー、けどあくまでも予定ね、実力が伴えば関係ないよそんなもの、全員基準以上吹ければ問題ナッシング!」


「まあ、そうなんですかね」


 トランペットは3年生3人、2年生5人、1年生5人の合計13人とかなり人数が多いパートだ、そのうち出れるのは6人、となれば必然と半分は出れなくなる可能性が高い。

 そう考えるとなんだか不安になってきてしまった、オーディションに受かるかどうかではなく、自分が仮に受かったとしてその時出られなかった人が自分をどう思うのかがだ。



 コンクールに向けての練習が始まってあっという間に一週間が経った。

 予定通り全体練習も兼ねてとりあえず合奏してみることとなったのだが、結果は美咲先輩を除いた3年と1年がとりあえず吹けたレベル、2年の先輩達は夢先輩以外、正直全然だった。

 というのも、1年は全員経験者、それもある程度強豪だった中学から進学してきているのに対し、2年生は夢先輩以外は高校から吹奏楽を始めたらしいのだ、それでもさすがは全国まで出ているということもあり、高校から始めたにしては全然吹けているレベルだと思うのだが。


「まあ、こんなもんでしょ」


 美咲先輩は予想してた通りだという顔をしていた。

 つい最近まで自分が一番下手くそだと思っていたのだが、たった何週間かで実力的に殆どの人より上達していたことに成長を嬉しく思ったものの、オーディションで半分以上が出られない、しかも恐らくこのままいけば先輩達の殆どが出られないことは明白だった。

 自分が出ることになれば先輩の誰かは出られない、そう思うと、中学の時のトラウマが蘇ってきた。

 自分のトランペットはまた誰かを傷つけてしまうのではないかと考えるようになってしまった。


「玲奈ちゃん、そこのところもうちょっと強めに吹けない?」


「すいません、もうちょっと強くですね」


 数日後の練習で美咲先輩が全員の演奏にアドバイスをしていた。


「で、それよりも花咲奏っ!その気の抜けた演奏は何?ちゃんとやる気ある?」


 まあ、予想していた通りの言葉が飛んでくる。

 ただ、合奏をした日からなかなか集中できていないのは事実だった。

 できる限り考えないようにしてはいるものの、いざ練習に入るとどうしても先輩達が気になってしまう。


「……すいません」


「最近おかしいけどなんかあったの?」


「……ちょっと、考え事してました」


「もー、オーディション来週だよ?奏姫は出たくないのー?」


「……姫じゃないですって」


 空気を察したのか、誰かに聞いて知っているのか、それとも単純に興味が無いのか美咲先輩は自分が不調の理由の言及はしなかった。

 いつも通り練習が終わり鍵閉めをしていると夢先輩に声をかけられた。


「花咲さ、今日用事ある?」


「……えっと、無い、……ですけど」


「良かったー、今日ちょっと付き合ってくんない?」


 どことなく強引な感じがした、なんとなく玲奈に感じが似ていて断りづらい。

 とはいえ、こうして先輩に誘われるというのは初めてだったし夢先輩は自分にとっても信頼できる先輩というか普通に好きな先輩だったので断る理由もない。


「ま、まあ良いですよ」


「誘うの遅くなってゴメンねー、下駄箱のとこで待っとくから」


 そう言って夢先輩はいつもの玲奈のような笑顔で走って行ってしまった。

 玲奈に先に帰るよう言うと笑顔で頑張ってとだけ言われた。何を頑張るのか不明だが、とりあえず下駄箱へ向かう。


「じゃ、行こっか」


 そう言うと夢先輩はどこか覚悟を決めたような表情で前を歩いて行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 音楽ものを読むのは初めてでしたが、楽しく読むことが出来ました。 また、私は吹奏楽のことをあまりいやほとんど知りませんが吹奏楽ってこんな感じなんだ~と読みながら思いました。 次回の更新を楽し…
2020/05/05 10:13 退会済み
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