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彼女の名前は

ようやく3話目です。先は長いですね(笑)とりあえず新キャラ1名投入です!

「亜季、おはよ」



私が勤めているのは市内の総合病院。そこの医事課が入社以来の私の指定席。


病院の地下にある女性用の更衣室で制服に着替えていると、隣のロッカーを開けながら、同期入社の大竹おおたけ 憂有紀ゆうきが声をかけてくる。



「おはよう、ゆうき」 



そちらに視線をやりながら、挨拶を返すと憂有紀は呆れたようにため息をつく。



「なによ、朝から人の顔みてため息つくなんて失礼な!」


「あんたってば、相変わらず女捨ててるのね。せめて口紅くらいしたらどうなのよ?」


「だから、何度も言ってるでしょ?口紅つけるとあっという間に唇の皮がぼろぼろになちゃって、

 かえってみっともないんだってば。」


「今どき色つきのリップだってあるんだから、亜季のは単なるものぐさでしょ。」



いっそ清々しい程に一刀両断されて、ぐうの音も出ない。

でも、いいんですヨ。

誰になんと言われようと、今の時点では現状の自分に納得しているし。

その結果が「女捨ててる」発言なら、甘んじて受けようじゃない!―――決して認めたりはしないけど



朝から厳しい一言を投げつけてくる憂有紀は、その辛辣な物言いからは想像出来ない様な、小柄で可愛らしい容姿の持ち主だ。髪は亜麻色。肩につくかつかないか程の長さでふんわりウェーブがかかっている。見るからに柔らかそうな髪に縁取られる顔は本当に小さくて、そこに全てのパーツがバランス良く配置されている。小柄だが、出るところは出、引っ込むべきところは引っ込む、素晴らしいプロポーションの持ち主で、同じ女の私でもたまに見惚れてしまうほど。





そんな彼女との出会いは入社式。

見た目もさることながら、看護師として受けた採用試験の成績も抜群だった彼女は新入社員代表として壇上にあがった。その可愛らしい容姿に、凛とした表情を浮かべて、澄んだ声での挨拶に「おぉ~、美人さんだ!」と内心一人でひどく興奮してしまったのはナイショである。


外見ではなく、一本筋の通ったその姿勢こそが人を惹きつける。そこに抜群の容姿があわさって、より一層感嘆させられるのだ。


憂有紀との距離が急接近するきっかけは、それからすぐのこと。

5日間にわたる新人研修の最終日。親睦会と称した飲み会の席が用意されていた。


「飲み会」、それは時として酔っ払いによる傍若無人な振るまいが、ある程度許容されてしまう理不尽な空間のことを指す。今なら「酒+おやじ=酔っ払い+美人さん=セクハラ」の公式が容易に想像出来てしまうが、当時は成り立てほやほやの新社会人。―――あの頃は若かった、うん。セクハラという言葉自体はもちろん知っていたが、なんていうか、現実として認識できていなかったというか。


そして、本人にとっては気の毒なことに憂有紀はまさに「美人さん」の項目に当てはまってしまったのだ。


適当に割り振られた席で各々気ままに盛り上がりを見せる中、斜め向かいに座した憂有紀の表情が冴えない事にはすぐに気がついた。憂有紀の隣に座っているお偉いさん(名前も役職もその時は全く覚えていなかったけど)がやたら接近してるなぁ、やな感じ!とは思っていたんだけど………


たまたま「ちょいとお花を摘みに……」なんて立ち上がった瞬間、とんでもない光景を目にしてぎょっとした。まさかまさかのセクハラ行為が目の前で巧妙に隠されながらも確実に行われていたのだ!!



「大竹さん!ちょっと外の空気でも吸いに行かない?」



セクハラ親父など視界の隅にも入れず、にこやかな笑顔で半ば強引に声をかける。その瞬間心の底からほっとしたような、泣きそうになるのをぐっと堪えるような、そんな表情をした憂有紀に声をかけてよかったと、つくづく思う。


それから約1時間後の親睦会終了まで、席には戻らずに他愛もない話をし続けた。最初は少し萎縮してしまっていた憂有紀も、少しずつ緊張が解れると思いがけない素顔を見せて。


……まぁ、つまりは包み隠さずの物言いとか、打たれ強さとか、ちょっとした腹黒さとかなんだけど


でもそれが逆に、所謂美人さんに感じがちな取っ付きにくさを取っ払って、彼女との打てば響くようなやりとりにいつの間にかどっぷり浸ってたんだよね。


多分、憂有紀も同じように感じてくれたんだと思う。私たちはその日人生の新たな友人を手にいれたのだ。





そんなこんなで、今年で7年を迎えるこの関係は、より一層遠慮ないものとなってはいるものの、それ以上に私にとっては間違いなくかけがえのないもので。


憂有紀のことは親友、イヤ親しいだけじゃ収まりきれない「真友」だと思ってる。

―――憂有紀がどう思ってるかは、また別のはなしだけどね?




「亜季、今週の金曜の夜は空いてる?何も予定がなければ久しぶりに飲みに行かない?」


ぼちぼち着替えも終わり、ロッカーの扉を閉めながらの憂有紀の提案に、一も二もなくうなずく。

忙しい看護師の憂有紀と違って、事務職の私にはレセプト請求時期以外に残業はない。


「行く行く。久しぶりだよね。お店はいつものところでいいの?予約入れとく?」


「そうね、お願い。」


「了解。一応6時に予約しておくね。変更あったらメールしておくから。」


「よろしくね。じゃ、そろそろ行かないと。またね。」


「うん。仕事がんばれ~」


「あんたもね。」


最後の言葉に苦笑を滲ませながら、ひらひらと手を振って去っていく後姿に、こちらも苦笑で応える。

―――全くだ。がんばれ、なんて人のこと言ってる場合じゃないよね。



「よし、行くか。」



少しだけ気合を入れなおして、私はいつもの日常へと足を踏み出した。


















拙い作品を読んでくだっさた皆々様、本当にありがとうございます♪4話目投稿目指してがんばります!!

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