第35話 二体の怪物と解決
第35話 二体の怪物と解決
・グラウンド
『ベヒーモス』、約3メイト程の大きさで、鋭い牙に4本の歪な角、猛牛のような体は黒い毛で覆われて、まさしく悪魔にふさわしい姿をしている。
『キメラ』、役2メイト程の大きさ、獅子の頭にヤギの胴体、蛇の尾をもつ、合成獣。
両方とも本来、5、6人編成で討伐するような魔物だ。
それも一体に対してで、二体同時に相手にすることはまずない。
しかし、
「コンラット、カール。『キメラ』の相手を頼む」
「はっはい!」
「分かりました」
私は二人に指示を出す。
この場において、戦闘できるのは四人。
そして相手は二体。
なら二手に分かれ、相手をするしかない。
一体を相手にしている間、待っていてくれる訳がないからな。
「クロード、とっとと終わらせるぞ」
「了~解」
クロードがいつもの調子で、返事をする。
それを聞いて、今度は外にいる魔導士達に指示を出す。
無論、二体から目を離さない。
「魔導士隊、私が二体の距離を取らす。離れたら私達は二手に分かれるから、間に壁を作れ!」
———「了解!!」
その返事を聞いて、私は駆け出し、二体の間に入ってすぐさま『キメラ』を蹴り飛ばし、『ベヒーモス』を殴り飛ばす。
二体とも壁まで吹っ飛び、苦し気に吠える。
「今だ!」
私の合図で魔導士隊が魔法を使い、岩の壁が現れ、向こうの様子が分からなくなる。
「相変わらずの馬鹿力」
「うっさい」
茶化すように言うクロードに返す。
好きでこうなったんじゃないつうの。
「行くぞ」
「はいはい」
軽口をたたきながらと、緊張感のまるでない中、二人で『ベヒーモス』に向かっていった。
**********
隊長が二体を吹っ飛ばしてすぐ、あちら側が見えなくなったが、向こうは問題ない。
もちろんこちらもだが。
「副隊長、援護は任せてください」
そういって、自分の武器である『ダイヤ』と『スペード』の石が付いた杖を構える、カール。
その姿を見て、こいつはずいぶん頼もしくなったものだと思った。
頼もしくなったのはカールだけでなく、全帝国兵士にも言えるが。
「ずいぶん頼もしい事が言えるようになったじゃねぇか」
『キメラ』から目を離さず、カールに言う。
すると照れくさそうに返してきた。
「へへ、そりゃそうですよ。騎士隊長達にいつも鍛えられていますから。半年前の俺達と比べたら、強くなって当然です!」
本当に嬉しそうに話すカール。
しかし、『でも』と言って、
「『鬼ごっこ』だけは勘弁してほしいです」
と、暗い雰囲気でいった。
顔を確認できないが、多分真っ青になっているだろうな。
こんな環境で部下とこんな会話するなんて、半年前の俺は考えもしなかった。
何だかいいな。
「さて、そろそろやるぞ。あっちは今すぐにでも飛び掛かってきそうだ」
「分かりました。騎士隊長の『鬼ごっこ』に比べれば、『キメラ』なんて可愛いものです!」
まだ青い顔で言うカールに、そんなに怖いのか? と思ってしまった。
俺は基本、騎士隊の訓練を見ているから、魔導士隊の訓練を見たことなかったが、今度見学するか。
考えてから、俺は『キメラ』に向かって突っ込んだ。
手始めに軽く剣を胴体めがけて振り下ろす。
『キメラ』は、剣が胴体に届く前に、蛇の尾で受け止めた。
流石に固いな。
俺は後ろに飛んで、『キメラ』から距離をとる。
すると今度は、獅子の頭を此方に向け炎の玉を、俺に向かって放ってきた。
「『ブロック!』」
後ろのカールが叫ぶ声が聞こえ、俺の前に岩が生えてきて、炎を防いだ。
「『シルフカッター!』」
今度は見えない刃が『キメラ』を切りつける。
痛みに悲鳴を上げながら、カールを睨み、駆け出した。
「そっち言ったぞ」
「はい!」
カールに向かって警告する。
カールはギリギリまでひきつけ、
「よっと!」
右によけた。
半年前なら、危なかったな。
魔導士は接近戦に向いていない。
その為、敵から離れた後方支援を得意としていて、接近されては命に係わる。
それに体力や反射神経が鈍く、どうしたものかとエイミーが頭を抱えていた。
だがこの半年でだいぶ改善され、接近されても対処できるようになって、大分頼もしくなったものだ。
「本当に頼もしいな。やはりあの人は凄い」
俺は『キメラ』に向かって走りながら呟く。
今あの人はクロードと『ベヒーモス』を相手にしている。
『キメラ』を倒すころには終わっているはずだ。
俺達もノンビリしていられないな。
早急に倒さなければと、『キメラ』剣を振るいながら思った。
**********
・皇族専用観客席
「何とも、脅威の筈の魔物のなのだが、全く恐れを抱かない日がこようとは」
「はっはっは! レイズ、お主もだいぶ慣れてきたな」
「黒騎士が来てもう半年になります、慣れない方がおかしいでしょう」
レイズと共に四人の戦闘を見ながら、緊張感のない会話をする。
「おい皇帝! 何を呑気な事を申している!」
「そうだ! 今すぐにこの場を離れなければ!」
左右の国王と聖王が、顔を真っ青にし、叫んでいる。
王国側と聖国側の使用人達もアタフタしている。
しかしな、
「今この場において、一番安全なのはここなのだが」
「そうですね、この場以上に安全と言える場所はありません」
儂とレイズがそう言うと、おかしな顔をする王国側と聖国側。
「な、何を言っている!? 魔物は直ぐそこにいるのだぞ!」
国王が叫んでいる。
そんなに叫ばんでも聞こえておる。
「何を言っているとは、こちらの台詞だ。お主達はあれを見て、そんな事を言うのであれば、もう少し目を養う事を進めるぞ?」
「なぁっ!?」
顔を真っ赤にする国王。
本当にこやつは分かりやすい。
しかし、今目の前で行われている戦闘を見て、どう恐怖しろと言うのだ。
片や『ベヒーモス』を速さと剣で圧倒。
片や『キメラ』を魔法と剣で圧倒。
どちらも圧倒している光景に、危機感など何処かにいってしまった。
レイズも、帝国側の使用人達も同じで、使用人に関しては茶の準備をしている。
「まぁ、見ておれ。我ら帝国がどのように、この脅威を退けるかを」
**********
・グラウンド(黒騎士、クロードサイド)
私とクロードは『ベヒーモス』の突進を避けながら、攻撃をしている。
一応こっちが優勢だが、ちょっと面倒くさい。
なんせ相手は『悪魔』である為、聖的な対策をしていないクロードの武器の効き目が薄いのだ。
その為攻撃は私が担当。
クロードにはその身軽さと素早さで、相手を撹乱してもらっている。
別に『ベヒーモス』相手であれば私一人でも、簡単に倒せるけど、せっかく二人で戦ってるんだから、同時攻撃した方が楽なんだよな。
主に私が。
「おいクロ、お前楽したいとか、面倒くさいとか思ってるだろう」
『ベヒーモス』を撹乱させながら、クロードが私の考えている事を当てた。
「何故ばれた?」
「お前態度に出てんだよ」
マジか。
以後気を付けよ。
しかしな、
「とは言っても、そろそろ決着つけないか? この後、事後処理とか事情聴取とかが待ってるんだ」
「あ~、確かに。俺には関係ないけど」
「ぶ~、羨ましい」
思わずぶすくれる。
確かにクロードの立場では関係ないけど、なんか羨ましい。
「はいはい、ふてくされない。今度おごってやるから、頑張れ」
「……クレープで」
「了解。で? 早く終わらせんだろう、どうする?」
戦闘中とは思えない会話をしながらも、動きを止めないクロード。
器用なことでと思いながら、クロードの問いに答える。
「少し距離を取る。しばらく足止めしてくれ。合図するから、私の方へ走って『ベヒーモス』を私に突進させろ」
「分かった」
私が何をするかを聞かずに、『ベヒーモス』を足止めする。
やっぱり、クロードとの戦闘が一番やりやすい。
私は走って離れる。
二手に分かれてグラウンドが狭くなったとは言え、十分な距離はとれる。
この位かと言うところまで離れ、『朔夜』をベルトの鞘に納め構える。
「いいぞクロード!」
私が合図を出すとクロードがこっちに向かって走り出し、クロードに気を取られていた『ベヒーモス』が追いかける。
よしよし、いい感じ。
『ベヒーモス』の突進の速度も上がってきて、急には止まる事はできないだろう。
クロードが駆け、すれ違ったと同時に私が踏み込む。
私が目の前に来た事に『ベヒーモス』が驚いた顔をしたが、もう遅い。
『朔夜』を鞘の中を滑らせ、魔力を込め、突進してくる『ベヒーモス』を切り裂く。
『ベヒーモス』は私の後ろを数歩走った後、ゆっくりと血だまりの中に倒れた。
『びちゃっ!』と音が聞こえ、私は刀に付いた血を振り払い、鞘へと納刀した。
**********
・グラウンド(コンラット、カールサイド)
「せい!」
俺は剣を力いっぱい振り、『キメラ』の尾を両断する。
悲鳴を上げ、俺を踏みつけようと蹄を上げる。
だが、カールの魔法で俺の前に岩が生え、攻撃を防ぐ。
岩の上に飛び乗り、『キメラ』の獅子の頭の前に立ち。
「相手が悪かったな」
と言い、獅子の頭に剣を思いっきり突き刺す。
悲鳴を上げる『キメラ』から素早く剣を抜き、後ろに下がる。
『キメラ』の悲鳴が収まると、ゆっくりと巨大な体が倒れ、動かなくなった。
「ふぅ~」
俺が一息付いていると、俺達と隊長達を隔てていた岩の壁が消えた。
どうやらあちらも丁度終わったらしく、隊長が剣に付いた血を振り払って、鞘に納めるところだった。
———ワァァァァァア!!
観客席から声援が上がり、俺は辺りを見渡す。
今まで目の前の敵に気を取られ気が付かなかったが、どうやら観客達は避難せず、俺達の戦いを見ていたらしい。
観客に紛れ部下達の激励の言葉まで聞こえてくる。
「おいおい、避難誘導はどうしたんだあいつら」
「つうか皇帝陛下も逃げてねぇぞ」
「あ本当だ。こっちに手振ってる」
『ベヒーモス』を倒した後だというのに、余裕を残している隊長達が普段通りの会話しているのが聞こえた。
隊長達が言っているように、陛下がこっちに手を振って、レイズ閣下も満足そうな笑みを浮かべてる。
左右の国王と聖王は信じられないと言う顔で、俺達を見ていた。
俺そちらに向かって会釈をした後、緊張が解けたのか、へたり込んでいるカールの元へ向かう。
「よう、大丈夫か?」
「はぁ、はい、何とか…」
気の抜けた返事をするカール。
「何だ? 疲れたのか?」
言いながら隊長とクロードもやってきた。
「当たり前ですよ~、エイデン副隊長と一緒だったと言っても、『キメラ』相手にしたんです。正直死ぬかと思いました~!」
うえ~、と情けない声を出すカール。
その姿に思わず苦笑する俺達だった。
**********
・皇族専用観客席
「し、信じられない」
そう言ったのは聖王。
普段、見下す事でしか人を見れない男が、珍しい反応をする。
国王も同じ反応だ。
その様子に笑みを浮かべながら、茶を飲む。
さて、頃合いだな。
「ところで、いつになったら我が国の民を帰国させるのだ?」
以前より抗議文を送り続けていたが、無理だという返事しか返ってこなかった話題を出す。
「な、何を突然?」
国王がいきなりなんだと言う。
「まったくだ。そもそも見つけるのは困難だと、文にも書いているはず。諦めよ皇帝」
聖王が、呆れたように言った。
だがその反応を我らが予想しない訳がない。
その為に用意していたのだ。
「ああ、その事なのだがな、レイズ」
「はっ、こちらに」
レイズから、二枚の筒状の紙を受け取る。
それを国王と聖王に渡す。
「ん? なんだこの紙は?」
首をかしげながら眺める二人。
それに儂とレイズの口角が上がる。
「それはな被害者が、どこの誰に買われたかを、まとめた物だ」
「何!?」
急いで内容を確認している二人。
二人を見ながら儂は続けた。
「以前から文と共に送っていたのだが、どう言う訳か紛失しているらしかったからな。この機に儂が直々に渡そうと思い、どうせならもっと詳細にまとめておいたぞ。良かったではないか、これで捜索の手間を省けるぞ」
ニヤける顔を隠さず話す儂に、顔を歪める二人。
ハハハ、いい気味だ。
「だ、だがな」
それでも渋る国王。
む、ならば。
「おや、まだ無理だと言うのか? なれば仕方がないな、今後王国が魔国の攻撃を受けようと、手助け出来ぬな」
儂が言った言葉に目を見開く国王。
「どう言う意味だ皇帝!?」
焦りで声を荒げる国王に儂は答える。
「どう言う意味も何も、我が国の民を保護しないような国に、手を貸すなどもっての外。幸い帝国は人材に恵まれている。そなた達も見たであろう? 先の戦いを。彼らが先頭に立ち、軍を指揮してくれるのだ。これ以上頼もしい存在は居ない。半年前の事と言い、魔族の動きも注意しなければならない今、警戒するに越したことがないからな」
そう言うと、真っ青になり理解した国王。
かの国の軍に、魔国と渡り合える力はない。
流石に国王もそれを理解している。
聖国も同様。
そんな中、帝国軍の力を借りられないのは、二国にとって避けなければならない筈だ。
魔族の介入があった半年前。
なおさら避けたい筈と考え、最後の切り札として提示した。
「…我らを脅す気か?」
聖王が声を震わせながら言う。
ああ、まさに脅しだ。
だがな
「儂はただ、国民を故郷に返してやりたいだけだ。帰国させるだけで、そなたらの国を手助けしようと言うのだぞ? これ程安い話は無い」
儂が言い終わると二人の王は手を握りしめる。
しばらくして
「分かった」
「早急に探索させ、帰国させよう」
王達は了承した。
返事を聞いて儂は空を見上げた。
もうすぐ日が沈む夕焼け空。
それを、嘗て無いほど清々しい思い出見上げた。
こうして三国武道大会は幕を閉じ、奴隷オークション事件は完全に終結した。
To be continued




