第33話 決勝と動く者達
第33話 決勝と動く者達
・コンラット、控室
1時間ほど前に行われていた試合を、水晶越しで見た俺は、予想通りの結果で隊長への尊敬と、相手選手への呆れで、何とも微妙な気分だった。
いや他国の代表は毎回、同じような連中がなって、毎回帝国が勝利するんだが、今年は本当にひどい。
元々他国は、貴族絶対主義で、一応平民身分の兵士はいるが、軍内での出世できるのは貴族と決められている。
しかも出世するのは大抵、議長達の腰巾着。
軍が自分達に逆らわせない為に、都合のいいお坊ちゃん、お嬢ちゃんを選んで、高い位を与えている。
要するにただの操り人形と言う訳だ。
それに加え代表選手も、身分の低い平民なんて以ての外と考え、自分達の人形達から一番強い者を選び大会に出している。
だからなのか、良くて中の上、悪くて下の上あたりの実力しかない人間がなってしまう。
本当の実力者ならば、己と相手の実力を測ることもできるし、何よりその実力に似合う鍛錬を積んでいる為、傲り高ぶる事もない。
物事の良し悪しを理解できる常識人である為、操り人形にもならない。
それに比べ人形達は、子供のころから甘やかされ、『貴族は特別、平民は下賎な物』と言う考えが植え付けられている。
こんなのばかりが軍にいる為、戦力としては最悪だ。
だから他国では、魔物退治、賊討伐などの仕事は幾つかある戦闘系のギルドが行っている。
彼らの働きのおかげで、他国が滅ばずに済んでいると言ってもいい。
戦力的には彼らの方が上の為、暴動が起こるのでは? と思った事もあったが、彼らには政治を行えるだけの知識がない。
それは平民も同じで、貴族以外に政治を任せられない。
他国では貴族以外、学校に通えないのだ。
俺、帝国で生まれてよかったよ。
帝国が平民でも学校に行ける国で、恵まれているとしみじみと思いながらうなずいていると、控室のドアがノックされ、男兵士が入ってくる。
「コンラット副隊長、そろそろお時間です」
ああ、もうそんな時間か。
「分かった」
短く返事をし、木剣を持って控室を出る。
さぁ、気を引き締めよう!
**********
・グラウンド
1時間程の休憩を終えて、再びグラウンドに戻ってきた。
正直休憩を入れる程疲れてもいないから、そのまま決勝戦に入ってもよかったんだけど、そこはまぁ、時間の都合と言っておこう。
早く終わらせすぎた、反省。
ほんの少しだけどね。
「隊長!」
「ん?」
呼ばれて声のする方へと視線を向けると、右手を上げながら爽やかな笑みでこちらに歩いて来るコンラットがいた。
なんだろう、コンラットの肌につやがあるように見える。
きっとさっきのでストレス解消できたのだろう、良かった良かった。
「やぁ、コンラット」
私も右手を上げてコンラットに返す。
自分でやって思うが、これから戦う相手同士がする行動ではないな。
しかし気分がいいのは私も同じ、自然とこうなるというものだ。
内心うなずいている内に、コンラットが指定位置に立つ。
あとは審判が来るのを待つだけ。
ちなみに今回の審判は帝国側の人間だ。
同じ国の人間同士の試合に、わざわざ他国の人間が審判を務める必要はない。
審判を待ちながら、向かい合うコンラットを見る。
彼とはこの半年、ほぼ毎日共に仕事をしているが、訓練でも剣を交えたことはない。
理由はこの半年ずっと、兵の強化に努めていたからだ。
元々の戦力としての帝国軍は、人間の国の中では一位だったが、異世界出身の私から見たらバラバラに見えた。
素人の私だったが、天照様がくれた知識のおかげと、元の世界で身につけざるを得なかった観察力で理解した。
見ていて、少数においてのチームワークは特に問題なかったけど、軍である以上全体がまとまっている必要がある。
なんせ、討伐や巡回、警護だけが軍の仕事ではないからだ。
本当は軍全体をまとめる人間が必要なんだけど、そんな人材いないからな。
当分は各隊長、副隊長で何とかするしかない。
そんな理由の為、今までコンラットと摸擬戦をしたことがない。
それは他の隊長達も同じで、私がまともな手合わせができたのはクロードだけなんだよ。
だからと言って、コンラットの戦法を分析していなかった訳ではない。
予選で戦った隊長達の時も同じだ。
圧倒的に経験がない私は、知識を使い、相手を観察、分析して対策を立てるのがベスト。
ただ力が強いだけでは意味がない。
力に頼らず、経験を積み、頭を使ってこそ私が理想としている事だ。
そして、今回のコンラットとの試合、私にとって最も大きな経験となる。
前回の優勝者にして、元帝国最強と言われた男。
今は私が最強と言われているが、実際剣を交えたことがない為、自分自身ではかなり不満があるこの称号。
特に興味もないし、執着してもいないからどうでもいいけど、彼の上に立つ以上手にしなければならない。
ああ、本当に面倒な立場だよ、彼の上司と言う立場は。
そう思って、アーメットの下で苦笑する。
こういう時、顔を隠す兜は便利だ、相手に変な表情を見せないで済むのだから。
「お待たせして申し訳ございません!」
私が一人考え事をしている時、互いに無言で、しかし気まずい雰囲気では無い中、ようやく審判の青年が到着した。
審判の方を見ると、何とも穏やかな笑みを浮かべ、こちらに走ってくる。
「いや、そうでもないさ」
コンラットが審判に返す。
爽やかな笑みのまま。
「いや~、隊長と副隊長の試合を間近で見れるなんて、俺審判でよかったです!」
本当に嬉しそうに言う審判。
確かに、兵士である以上、上司二人の試合は勉強になるだろう。
しかし、そこまで嬉しそうにする事か?
「おいおい、少し大げさじゃないか?」
私がそういうと、審判が慌てて否定してくる。
「そんな訳ないでしょう! 片や『ファフニール』を倒した英雄! 片や前大会優勝者! こんな手に汗握る試合を誰が興奮しないって言うんですか!!」
と、えらい勢いで迫って力説する審判。
「分かった! 分かった!!」
両手を前に突き出し審判を押しながら言う。
まさかこんなに力説されるとは思わなかった。
前から気になっていたけど、帝国軍内での私の評価ってどうなっているんだ?
コンラットやカイル、隊長組からの評価は分かっているけど、その他はイマイチわからん。
シャルロット・アヴリーヌ副隊長は置いといて、まぁこの半年間訓練を見てきたけど、流石に人の心までは分からないからな。
今考える事でもないけど。
「気持ちは分かるが、程ほどにしろ。それより始めなくていいのか?」
「あ! すいません!!」
苦笑を浮かべながら言うコンラットの言葉に、審判が慌てて持ち場へと向かう。
ホント私が困っている時に助けてくれるコンラットは有能だ。
審判が持ち場に着くのを確認して、私達は木刀と木剣を構える。
構えながらコンラットが声をかけてきた。
「隊長、本気でいかせていただきます」
と、さっきまで浮かべていた笑みを消した、真剣な表情を浮かべながら。
「分かった」
私は一言だけ返す。
これ以上の言葉は必要ないと思ったから。
互いに構えながら号令を待つ。
そして、私達の様子を確認した審判は
「それでは………始め!!」
と試合開始の号令を叫んだ。
号令と同時に私は駆け出し、距離を詰める。
木刀をコンラットに振り下ろす。
それを木剣で受け止めるコンラット。
そのまま押し合いになる。
コンラットの表情を見ると、歯を食いしばって眉間に皺が寄っていた。
どうやら、かなり力を入れているようだ。
成程、これが彼の本気の力か。
ふむ、確かに元帝国最強で全大会優勝者なだけはある。
今私は、半年前『ファフニール』を切るときに入れていた力より、ほんの少し弱い位の力加減で押し合いをしている。
自慢でも自惚れでもないけど、この世界にきてここまでの力を出した、人間の相手はコンラットが初めてだ。
私は少し力を強め木刀を振るい、コンラットを後ろに下がらせる。
彼は少しバランスを崩す。
その隙に胴に突きを入れる。
「ぐっ!」
呻き声を出し、更に後ろへと下がるコンラット。
このままではまずいと思ったのだろう、彼はそのまま距離をとった。
私は木刀を構え、その場で様子をうかがう。
今の突き、次は防がれるな。
まぁ、この帝国において隊長クラスに同じ手は通用しないから、コンラットに限ったことではないけど。
それに、完全に決まってはいない。
さっきの突き、コンラットは咄嗟に自分から後ろに下がって、ダメージを軽減した。
元々決まると思っていない攻撃だったから、驚きはしないが厄介だな。
決まるとは思っていなくても、まともに決まっていたら確実に戦闘不能にさせる威力はあったのだ。
他の隊長達でも、気絶させる程の力加減で放った突きだ。
繰り出した時の速さも、クロードが避けられるギリギリのスピードだった。
実は筋肉兄さんよりも早いクロード。
スピード重視の相手に対する対処法のいい訓練になった。
そのクロードがギリギリで避ける速さに対応できるコンラット。
多分バランスを崩していなければ、完璧に避けていたな。
こりゃ、もう少し本気にならないといけないようだ。
木刀が確実に壊れるけど、仕方がない。
壊れるまでのスピード勝負になるな。
**********
今の隊長の攻撃、まともに喰らっていたら終わっていた。
構えをとったまま動かない隊長を見つめながら、俺は冷や汗をかき、試合開始から俺が後ろに飛ばされる、短い時間でおきた事を踏まえ、今後の出方を考える。
開始の号令の後、気づけば目の前に剣を振り下ろす隊長が現れ、ギリギリで受け止めることができたが、本気の力で押し返そうとしてもビクともしなかった。
しばらく押し合いが続いたが、隊長の一振りによりバランスを崩されたと思えば、突きを放たれ、何とか後ろに飛んでダメージを軽減できたが、腹部がズキズキと痛む。
軽減させてこれか。
隊長の事だから今のは様子見で、本気で終わらせようとした訳ではないと分かる。
さっきの突きだって、体制を崩していなければ、完璧によけられるように加減されていたみたいだ。
あの人の戦い方は常に相手の情報を探る事から始める。
情報を手に入れ、その上で己の持つ力で対処する。
しかもその情報収集能力は、短ければ数秒、長くても一分ぐらい相手と剣を交える間で終わらせてしまう。
恐ろしい事この上ない。
予想だが今のやり取りで、隊長は俺の情報を頭の中で整理している最中だろう。
その場にとどまっているのがその証拠だ。
他の奴ならいい的にしかならないが、隊長の場合、頭を働かせながらこちらの動きを警戒して、構えを解くことはない。
全く隙がない。
ああ、勝てる気がしねぇな。
今までこんな相手に出会ったことも、手合わせしたこともない。
完全に未知の相手だ。
でも、だからこそ隊長には本気の俺を見てもらいたい。
俺が初めて背中を追いたいと思ったこの人には。
息を深く吐き、改めて剣を構え、隊長を見つめる。
まったく動く気配がないところを見ると、こちらが仕掛けてくるのを待っているようだ。
ならば!!
俺は勢いよく駆け出す。
勢いよく剣を隊長に振り下ろす。
それを他愛もないという風に受け止める隊長。
いろいろな角度から、俺が剣を力一杯振り、隊長がそれらすべてを受け止める。
今まで俺の剣を受け続ける人間はいなかった。
やはり隊長は凄いと、俺は笑みを浮かべていた。
血が滾るとはこの事か。
今まで知らなかった、強い相手との戦いはたった数回剣を交えただけだというのに、ここまで滾るものなのか。
ハハ! 今ならセレスティアの気持ちがわかる気がする。
勝てる事は決してないがこの試合、俺の持てる全てでお相手させていただきます!!
**********
あ、あれ?
なんかコンラットの顔が、笑っているのに凶悪に見えてきたぞ?
………。
もしかして私、目覚めさせちゃいけないもの目覚めさせちゃった?
兜の下で、私は顔を引きつらせながら思った。
**********
・???
グラウンドで二人の騎士が激しい戦いを繰り広げる。
俺クロードはとある場所から、チエに渡された携帯用の水晶で見ていた。
ハハ、なんだよこれ?
こんな戦い今まで見た事もねえし、チエとはよく手合わせしてるっていうのに、あいつ全然本気じゃなかったって事か。
いや、知ってたさ、知ってたよそんな事。
チエどころか、コンラットさんの足元にも及ばないって事ぐらい。
俺は前髪を書き上げ、天を仰ぐ。
数秒ボーっとして、フッと口角を吊り上げる。
こりゃ、今より強くならねえと、親友に置いてかれちまうな。
俺は水晶に向き直る。
相変わらず激しい攻防戦が続いていた。
置いてかれねえためにも、親友に習って二人の情報を頭に叩き込むとすっか!!
**********
・グラウンド
試合が始まってもう何分経つだろうか。
私はコンラットと打ち合いを続けながら、整理をしていた。
ここまでで分かった事は三つ。
一つ目はコンラットのスピード。
これに関しては初めの突きを出した時にだいたい理解した。
速さはクロードより少し早いくらいだった。
二つ目は筋力。
これはコンラットが打ち込んできた時に再認識。
やはり『ファフニール』を切った時より少し弱い力加減で受け止められる。
だが逆に言えば、私にそこまでの力を出させる事ができると言う事。
何度も言うがこれは自慢じゃない。
しかし、天照様がくれた魔王同等の力相手に、ここまで力を出させるって、規格外にも程がある。
もし彼が、勇者の剣を手にしたら、どうなっているだろうか?
想像するだけども恐ろしくなってきた。
そして最後の三つ目。
戦闘狂その二である事。
これに関しては今現在、ものすごく楽しそうに剣を振るコンラットを見れば分かる。
だって凶悪な笑みのままなんだよ!!
ホント普段とのギャップが凄すぎなんだって!
いつも紳士的に私のサポートをしてくれている姿からは、とてもじゃないが想像できない。
他の隊長達、特に青長髪イケメンからもそんな話聞いてないし、アリスもそんな事言ってなかった。
てことは考えられるのは二つ。
一つは全員敢えて黙っていたか。
二つは今の戦いで、武人の血が騒いでいるか。
現段階での決定打がないから、どちらもあり得そうだ。
まぁ、どっちにしても負けるつもりなんかないけどね。
なんせ私を上司にと臨んだのは、他でもない彼だ。
そんな彼に負けてしまっては、面目丸つぶれだろ?
コンラットが。
私は打ち合いを終わらせるため、少し本気で木刀を振り上げ、木剣を空高くはじき飛ばす。
驚きで目を見開くコンラットの喉元に、切っ先を突きつける。
数秒後コンラットの後ろで木剣が音を立てて落ちた。
その音にハッした審判が叫ぶ。
「勝負あり! 勝者黒騎士!」
審判の判決を聞いた観客達が一斉に声を荒げた。
さっきまで集中して気が付かなかったが、歓声が止まっていたらしい。
再び観客達の声に包まれた。
私はコンラットのに突きつけていた木刀を放し、それを左手で持ち、右手のガントレットを外す。
そして右手を差し出し言う。
「どうだろう? 私は君の上司として相応しいだろうか?」
と。
一瞬ポカーンとしたコンラットだったが、やれやれという感じで苦笑し
「何を言っているのですか、そんな事当然です。さっきの試合で更に思いました。あなた以外考えられません」
そう言って彼もガントレットを外し、私の手を取る。
その光景にさらに盛り上がる会場。
コンラットとの握手を解くと、左手に持つ木刀に違和感を感じ、視線を向ける。
コンラットもそんな私を不思議に思ったらしく、木刀に視線を向けた。
するとみるみる内に亀裂が入る木刀。
ああ、やっぱり無理させすぎたか。
理解すると同時に『バキッ』と音を立てて真っ二つに折れた。
「ああ、やっぱりか」
「た、隊長?」
驚いて困惑しているコンラットに説明する。
「ちょっと私の力についてこれなかったみたいでな、最後の方は木刀が限界だったから焦ったよ」
兜の下で苦笑しながら言う。
「最初の木刀は予選の最終戦まで持ったけど、二代目も大丈夫だって思ったけど無理だったか。ホントコンラット強いんだから焦った焦った」
たった一戦でもう壊れたと言う。
すると何故かコンラットの顔が赤くなっていった。
「ん? コンラットどうした?」
熱でもあるのかと思い、ガントレットを外したままの右手でコンラットの額を触る。
「たっ隊長!?」
「うーん、熱は無いな」
さらに真っ赤になって慌てるコンラット。
それを不思議に思いながら首をかしげる。
その様子を見て、何故か深いため息をつかれてしまった。
「あ~、この人は…」
「え? 何?」
何でもないとガントレットを嵌めなおすコンラット。
何だか腑に落ちないけど、いいかと思い私もガントレットを嵌めなおす。
この後は閉会式のみの為、退場する必要はない。
他国の二人は出ないだろう。
なんせ一人は恐怖に震え、一人は動けない。
このまま何事もなければ平和に終わる。
そう、何事も無ければだ。
――――「さぁ、祭りは終わりだ! 愚かな者達よ!!」
頭上から雰囲気をぶち壊す声が響いた。
会場にいる者たちは上を見上げる。
其処にはグリフォンにのり、ヘンテコな黒いローブに身を包んだ集団がいた。
さて、今回最後の大仕事と行きますか。
To be continued
あとがき
お待たせいたしました。
第33話いかがでしたでしょうか?
今回新たな一面を見せたコンラット。
ただのヒロインではございません。
普段は紳士(智慧限定)、強敵相手には戦闘狂(智慧並みの相手限定)のヒロインです。
最後にちょこっと出てきた集団相手に、どう対処するのか。
今後の帝国軍の働きにこうご期待です。
最近仕事が増えてしまいなかなか作業が進みませんが、ちょこちょこ進めていきます。
今回も急いで仕上げましたので、後ほど修正していきます。
今後もこの小説をよろしくお願いいたします。




