第22話 各隊と予選・2日目、弓兵隊
第22話 各隊と予選・2日目、弓兵隊
・軍人関係者専用観客席
「「補強魔法が掛かりすぎていた!?」」
私とアホ剣士の声が珍しくハモった。
予選2日目、現在私、コンラット、エイミー、アホ剣士、筋肉兄さんと『軍人関係者専用観客席』にいる。
なぜ私とアホ剣士がハモっていたかと言うと、眠そうなコンラットと観客席に来たとたん、いきなりエイミーが謝って来て、何がなんだか分からなく困っているところに、アホ剣士と眠そうな筋肉兄さんも加わり、エイミーとコンラットと筋肉兄さんに説明をされ、先刻の状態になったと言うことだ。
コンラットと筋肉兄さんが眠そうだったのは、エイミーと一緒に『補強魔法』を掛け直すのに付き合っていたからだそうだ。
「それで、昨日カイルやディーンの鎧が凹んだのか……」
私は顔を引きつらせながら聞く。
「え? ディーンの鎧が凹んだ?」
アホ剣士が初耳だと言う表情で私に聞いてきた。
そう言えばコイツ、ディーンの様子確かめずに退場したっけ。
「あのな、自分が吹っ飛ばした相手なんだから、普通心配で様子見に行くだろう?」
呆れながらアホ剣士に言った。
心なしかコンラット達も呆れた様子で、アホ剣士を見ていた。
その視線にたじろぎながら
「ち、ちょと! 何なんだ君達!?」
アホ剣士は言った。
その反応にますます私達のアホ剣士への視線は、冷たい物へとなった。
と、そこへ
「あ! 剣士隊長ここに居た!」
何やらアホ剣士を探し回っていたらしい、剣士隊所属の男が駆け寄ってきた。
「ん? 何だい? そんなに急いで」
アホ剣士が剣士隊の男に聞く。
ホントにどうしたのだろう?
「『何だい』じゃありませんよ! ディーン副隊長が肋骨骨折して、入院する事になったんですよ!」
「「「「「えっ!?」」」」」
この報告には、私達全員が驚かされた。
エイミーにいたっては、顔が真っ青である。
剣士隊の男は
「後でちゃんと見舞に行ってください!」
そう言って、去って行った。
しばらく私達は黙ってしまった。
「エイミー、元気出して」
現在、弓兵隊の予選を観戦しながら、落ち込んでしまったエイミーを慰めている。
エイミーは気が弱いが責任感があり、それが長所なのだが、今回はそれがマイナスに働いたようだ。
「………」
シュンとして俯くエイミー。
どうしようますます落ち込んじゃった。
「たっ確かに、補強魔法が掛かりすぎてて、強化魔法並になっちゃったのは反省しないと駄目だが、怪我させたのはアホ剣士なんだし。後でこのアホと一緒に見舞い行けば良いって」
「おい! アホ言うな!!」
エイミーを慰めていると、アホ剣士が横から抗議してきた。
「しょうがないだろう、実際怪我させたのはお前だアデル」
筋肉兄さんがアホ剣士を落ち着かせようとする。
その言葉にアホ剣士はムスッとした表情で黙った。
やれやれ、ガキか此奴は。
「そっそういえば隊長。昨日はアリス達と一緒に剣士隊の試合を観戦したそうですね」
突然コンラットが話を変えてきた。
場の空気を変えようとしているらしい。
ありがたい、できれば明るい話題の方がエイミーも気が晴れるかもしれない。
さすがコンラット、仕事ができる男。
「ああ、クロードと待ち合わせしていたんだが、アリス達に偶然出会ったらしくて、どうせだから一緒に観戦しようと言う事になったんだ」
「成る程、そうだったんですね」
コンラットが納得して頷くなか、意味が分からないといぶかしげる3人。
「おい、誰だクロードって?」
筋肉兄さんの質問にエイミーとアホ剣士が頷く。
なんだ、此奴ら知らなかったのか。
帝国・隠密捜査官としてのクロードは秘密だが、プライベートでよく商店街に遊びに行くから、結構有名なんだけど。
「私の親友だ」
とりあえず、説明が面倒だから簡単に答えた。
ほかにも戦友やら悪友やら色々呼び方はあるけど、生まれて初めての対等な友達だから、親友と言う言葉を使った。
「親友って、お前友人いたのか?」
筋肉兄さんが驚いた顔をして言った。
なんか失礼な言い方だな。
「あのな、私にも友人くらいいる! …………まぁ、帝国ではあいつ一人しか居ないけど」
――――………………。
筋肉兄さんの問いに答えたが、クロードしか友達と言える人物がいないと言う現実に悲しくなった。
気のせいだろうか、先刻まで兵士達も五月蠅いほど騒いでいたのに、静かになっているような……。
「あ~その、なんだ………すまん」
落ち込んでいる私に謝罪する筋肉兄さん。
やめて、余計に悲しくなる。
つうか、周りもそんな哀れみを含んだ目で私を見るな!!
特にアホ剣士にまでそんな目で見られたくねぇよ!!
居心地が悪い静かな雰囲気になってしまった軍人関係者専用観客席。
この居心地の悪さは、弓兵隊の決勝戦、開始まで続くのだった。
**********
・弓兵隊決勝戦のグラウンド
現弓兵隊副隊長であるシャルロット・アヴリーヌと向き合い、俺は開始の合図を待っていた。
なんか、軍人関係者専用観客席の方がやけに静かだが、何かあったのか?
異様にどんよりとした暗い空気が、あそこだけ漂っているみたいだが……。
「……隊長、余裕ですか?」
俺が軍人関係者専用観客席を見ていると、シャルロットの不機嫌そうな声が聞こえ、そちらを向く。
水色の腰まで伸ばした髪をポニーテールにし、つり上がった青い瞳が印象的な凛々しい顔立ち。
背は160クアメイトと至って普通の身長。
白いシャツの上にレザーアーマーを装着し、濃い茶色の革製パンツに黒のロングブーツを履いている。
弓兵隊の2番手であり、俺の補佐……なんだが。
「まったく、貴方という方は。対戦相手に対して全く興味が無いような態度で、相手の神経を刺激するのが本当にお得意ですね。それとも何です? 本当に興味が無いのですか? ああ、そうでしたね。貴方は普段からそんな態度でしたね。書類整備の時もつまらないと言う理由で逃走し、帰ってくるのは次の日の朝だったり、気の乗らない任務は適当にすまそうとするし、何ですか私達部下に対しての嫌がらせですか? そうなんですか?」
シャルロットが不機嫌な態度を隠そうともせず、ストレートに不満をぶちまけた。
その言葉に胸を、グサグサと矢が突き刺さる感覚がするのは気のせいだろうか……。
普段からシャルロットは俺に対して嫌みを言うが、今日のは普段の倍の酷さだ。
「はぁ~」
「隊長、聞いてるんですか?」
うんざりしてため息を吐いたのが間違いだった。
これ以上嫌みを言われてはたまらんと思い、俺はシャルロットに話しかけた。
「シャルロット、何故今日に限ってそんなに不機嫌なんだ?」
「……何故…ですって?」
…………あれ?
もしかして聞く質問を間違えたか?
聞いた瞬間、シャルロットの周りに黒いオーラが出てきたのは気のせいか?
シャルロットは握りしめた拳をプルプル震わせながら静かに……地をはうような恐ろしい声で答えた。
「怒らない訳無いでしょう、今週締め切りの書類を予選までには仕上げてくださいとあれほど言ったのに。それなのにまだ一枚も目を通していませんよね? と言うか、遊びほうけていませんでした? いましたよね? 城内では女性兵士を、街でも女性を口説いていましたよね? さすがに使用人達は恐ろしかったみたいですが、仕事をほって何をしているのです貴方は……」
シャルロットの言葉を聞いて冷や汗が流れた。
やべ、書類のこと忘れてた。
「はぁ~、何で弓兵隊の隊長はこんなんなの……。黒騎士様の様な、まじめで仕事熱心で、部下の事を考えて、自分の地位を悪用せず民や国のために尽くす方だったらよかったのに」
――――ピクッ
シャルロットの言葉を聞いて、頬が反応した。
何で此奴、黒騎士の野郎と俺を比べるんだ?
つうか何で黒騎士?
他にも隊長は4人……アデルバート以外の3人いるだろう。
「…何で比べる対象が黒騎士なんだよ?」
今度は俺が不機嫌になった。
付けられたあだ名は良い物だが――初めは意味不明だった――。
それがきっかけで初日に抱いた嫌悪感は無くなり、今では普通に接している――今思えば、俺らの態度が悪かった――。
コンラットが尊敬する騎士だから、確かに最高の騎士だと認めざるを得ない。
得ない……がっ!
黒騎士と比較されるのはしゃくだ!!
俺が心の中でそんな事を考えているとは知らないシャルロットは、先刻までの不機嫌さが嘘の様に、上機嫌で答えた。
「それはあのお方が、隊長として最高の人物だからに決まっているからです。自分の隊だけでなく、他の隊の兵士の訓練教官を務め、魔物、盗賊討伐任務では戦いの戦況を見ながら的確に指示をくださいますし、書類も締め切りを守りきっちり仕上げる。」
――――グサッ!
最後の言葉で、またも矢が突き刺さった感覚を味わった。
先刻の態と言った嫌みと違い、悪意は無かったが、今のが一番効いた……。
シャルロットはさらに続けた。
「それにあのお方は素敵です。私がオーガに遅れを取り、もう駄目だと思った瞬間! 颯爽と黒い一角獣に跨り、駆けつけて来てくださいました。あ~、今思い出してもなんと美しい。オーガを倒した後も、動けない私を見て、わざわざ一角獣から降りて気遣ってくださり、私を抱えて本陣まで歩いて運んでくださいました」
話しながら頬を染め、クネクネしだしたシャルロットを見て俺は思った。
此奴誰だ!?
目の前にいるのは俺の隊の副隊長のはずだ!
美人だが性格がきつい仕事女のシャルロットのはずだ!
長いこと此奴の上司やってきたが、こんな恋する乙女な姿を俺は見たことがない。
シャルロットの性格は都でも有名で、誰しも知っているし、俺同様恋する乙女な此奴の姿は誰も見たことが無いはずだ。
その証拠に、直ぐ近くで会話を聞いている審判が、驚きながら引いている。
まじで此奴シャルロットか?
「あ、あの~ぉ。そろそろ始めても、よろしいですかな?」
流石にこれ以上観客を待たせる訳にはいかないと思ったのか、それともシャルロットの未だ嘗て見たことのない姿でこれ以上混乱したくないのか――おそらく両方――、審判が話しかけてきた。
「今すぐ始めてくれ」
俺は即答した。
これ以上混乱したくない。
俺は左手で持った弓を握りしめ戦闘態勢を取る。
シャルロットも我に返ったのか、同じく戦闘態勢を取った。
すっかりいつものシャルロットに戻ったようだ。
さて、正々堂々と勝負といこうぜ!!
「それでは……始め!!」
合図と同時に俺達は距離を取り
「作り出すは氷の岩『アイスブロック!』」
「大地よ盛り上がれ!『ノームブロック!』」
互いに得意の属性魔法で、幾つもバラバラの位置に作り出した、氷岩と大岩に身を潜めた。
俺達弓兵は遠距離攻撃を得意とするため、接近戦には向かない。
弓矢も急所を狙えば生き物を殺す事はできるが、動いている物相手に当てるのは技術がいる。
何より大型モンスター相手には効果は薄く、扱いにくい武器でもある。
そのため俺達弓使いには技術と、足りない物を補う魔法が必要不可欠だ。
たとえば今俺達が作り出した氷岩と大岩。
今回は互いに遠距離攻撃を得意とする弓兵のため、矢避けが必要であり、グラウンドには身を隠す物が無いため作り出す必要があった。
実戦でも平地でよく使う手だ。
流石に大型モンスターや接近戦を得意とする物には向いていないが、これで大抵の攻撃は回避できる。
しかし、何時までも隠れている訳にもいかない。
俺は氷岩に隠れながら駆け出す。
シャルロットも同じように動き、こちらに少しづつ近づいている筈だ。
俺は背負っている矢筒から一本引き抜き弓に掛ける。
本来ならここで殺傷能力を高めるため、矢に魔法を掛けるのだが、試合でそれをしてしまっては反則負けになる。
一応試合用の矢に補強魔法が掛かっているが、あくまでそれは補強であり強化では無いため、痣はできても殺傷力は無い。
頭に当たったとしても瘤ができる程度だ。
これで大体分かると思うが、この試合で命を奪うことは失格対象なのだ。
そして、試合用の弓とは言え、魔法で強化をしてしまうと殺傷力が生まれてしまう。
だから、弓に魔法を掛けると言うこと、すなわち殺意があると言うことだ。
俺は気配を探りながら駆け、弓を引き、シャルロットとすれ違う瞬間
――――バッ!
弓を射た。
*********
・軍人関係者専用観客席
「流石、隊長と副隊長の試合なだけあって、レベルが違うな」
筋肉兄さんが、青長髪イケメンとシャルロットの試合を見て言った。
何故か試合が始まる少し前に、悪寒を感じたような気がするが何だったのだろうか?
決勝戦を見ながら、試合開始前の2人を思い返してみた。
何時もの様にシャルロットが青長髪イケメンに嫌みを言っていたのだが、途中から上機嫌になっていたような。
弓兵隊副隊長シャルロット・アヴリーヌ。
年齢20歳。
彼女とは3ヶ月前、オーガ討伐の時に一緒になった事がある。
何時もと同じように数名の部下達と向かったのだが、1つだけ何時もと違っていた。
その日、何時も副官としてコンラットが着いてくるのだが、彼は別の任務に出向いていて、代わりにシャルロットが副官としてついてきた。
そして事は起こった。
コンラット以外、副官として同行させたことが無かった私は、ついコンラットが居るときと同じように動いてしまった。
分かりやすく言えば、コンラットとシャルロットのレベル差を考えずに部下に指示を出してしまったのだ。
結果シャルロットは、オーガの攻撃で足を負傷してしまう事態になってしまった。
離れた場所で別のオーガを相手していた私は、その光景を見て血の気が引いた。
そして自分の過ちに気づき、目の前のオーガを倒し、幸いハヤテに乗っていたため、全速力で駆けさせ、ハヤテが高くジャンプすると同時に『朔夜』を振り、シャルロットに襲いかかっていたオーガの首を刎ねた。
着地したハヤテから降り、急いで彼女の元に駆け寄って、足の応急処置をして謝罪。
馬に乗せて本陣に戻った方が良かったのだろうが、間の悪いことに騎士は私だけで馬がいなかった。
ハヤテは私以外絶対に乗せない為、やむを得ず彼女を横抱き――つまりお姫様だっこ――で本陣に向かった。
まさか自分がお姫様だっこを、してもらうでは無く、する側になる日がこようとは思わなかった。
私はそこまで思い返して、改めて試合を見る。
弓兵隊の試合ルールは、他の隊と少し違っている。
矢に強化魔法が使えない為、威力が低く、試合用の矢では戦闘不能状態にすることが出来ない。
その為、この試合では戦闘不能ではなく、矢が頭もしくは左胸――つまり心臓がある位置――に当たるか、降参で勝敗を決める。
それは予選最終日の各隊の代表戦でも同じだ。
中にはこのルールに対して、直ぐに終わってしまうと思い不満を持つ者もいるらしいが、私はすごく面白いと思う。
試合ごとにそれぞれの得意魔法で、戦闘環境が作られ、同じ環境になることが無い中での戦闘は、見ていてとても興奮した。
そして、矢に当たらないように動き、何時当たるか分からない緊張感!
まぁ途中から落ち込んでしまって、微妙な思いで観戦していたが、やはり弓兵同士の戦いは、手に汗を握った。
特に現在の試合はとても面白い。
環境もそうだが、何より2人の技術力、瞬発力、判断力が他とは比べものにならないほどレベルが高い。
相手からの攻撃を回避しながら考え、反撃する。
見ている方は簡単に思うだろうが、本当はすごく難しい。
特に弓矢は、接近武器と違い、遠くから狙いを定めなければならない。
近ければ命中率は上がるが、剣や槍などと違い攻撃を受け止める事ができない。
弓が鉄で出来ていれば別だが、生憎このエルドア《世界》では木で出来ている。
中には剣や槍、打撃武器に耐えうる物もあるのだが、やはり弓は射る物であり、遠距離武器である。
だからこそ弓兵にとって、実戦では技術力、瞬発力、判断力は強化魔法と同じくら重要なのだ。
まぁこれも全部、知識で分かったのだけど。
さて、試合に集中するかな。
戦況は互いに強者と言うだけあってレベルは高いが、勝つのは青長髪イケメンだろうな。
彼奴の方が数倍レベルが高い事は、見ていれば何となく分かる。
でも試合は見て損は無い。
予選最終日に、対戦相手で当たる可能性もあるしな。
**********
・決勝戦試合中
「さて、そろそろ行きますか」
俺は、氷岩の影に潜み、弓を握りしめる。
そろそろシャルロットの弱点が出てくる頃だ
。
まぁ、弱点と言っても最近解消されつつあるんだが。
俺は、シャルロットがいる方向へ駆け出す。
シャルロットは弓矢を構え、荒い息を整えている最中だった。
よし、予想通り。
シャルロットの弱点は、スタミナが俺より少ない事だ。
つっても俺限定の弱点なんだがよ。
それに
「シャルロット、今回は随分ともったじゃねえか」
以前よりも体力が上がっていた。
「あ、当たり前です! 日々鍛錬は欠かしたことはありません!!」
そう言って俺に向かって矢を射た。
「ヘッ」
俺は笑いながらその矢を避け、お返しに矢を射た。
当てるつもりが無い矢だった為、息が上がっている彼奴でも簡単に避けられる矢だ。
て言うか、本命の位置に誘導するための矢で、まんまと引っかかってくれたよ。
「!?」
シャルロットは、自身が踏んだ地の異変に気づいた様だが、もう遅い。
――――ピキピキピキッ!
シャルロットの足下に仕掛けていたトラップ魔法が発動し、シャルロットの下半身を氷らせ、地上に縫い止めた。
これも俺達弓兵が使う戦術一つ。
素早い相手で的が絞りにくい時に使う事が多いが、今回の様に疲れた相手ほど誘導しやすいため、トラップをいくつか仕掛けていた。
疲れている相手ほど焦りが出てきて隙が出来るからな。
「たく、足下がお留守なんだよっと!」
俺は言いながら、唖然としているシャルロットに向かって矢を射た。
その矢は真っ直ぐシャルロットに向かい
――――トンッ!
左胸に当たった。
毎回思うが、情けないなこの音。
「勝者、アドルフ・アディンセル!よって弓兵戦優勝者はアドルフ・アディンセル!!」
――――ワァァァァァァァア!!
風の結界を張って、俺達の試合を見ていた審判により勝者を言われ、観客席から歓声が響き渡る。
俺達は魔法で出した氷岩、大岩、トラップを消し互いに向き合う。
「はぁ~、やっぱり負けました」
ため息を吐いて肩を落とすシャルロット。
「ハハッ! 当たり前だ。お前に負けてやる気はさらさらねぇよ!」
俺は上機嫌でシャルロットに言った。
それを聞いたシャルロットは、ぶすくれた表情になったが前々怖かねぇよ!
俺達は形式的な礼をした。
「そんじゃ俺はコンラット達の所へ行くとすっか」
「は? 何言ってるんですか?」
俺の言葉に、何時も通りのシャルロットの声で言われた。
やべっ、このまま何事も無くコンラット達の所に行こうとしてたのに。
「これから書類整備に取りかかるに決まっているでしょう。今日中に終わらせていただきますからね」
そう言って俺の襟首を掴んで歩き出した。
「グエッ! お、おいやめろ! 苦しい!!」
「こうでもしないと、貴方は逃げるでしょう」
チッ、ばれてやがる。
仕方ねぇ今日は書類整備するか。
だが、その前に
「分かった分かった! だが一度、軍関係者専用観客席に行くぞ。コンラットに試合が終わったらそっちに行くっつってたんだよ」
「はぁ? そんなの部下に伝言を頼めば良いことでしょう」
まぁ、確かにそうなんだが。
「それだけじゃねぇよ! 黒騎士と予選終了以降の訓練の打ち合わせがあんだよ!!」
――――ピクッ!
「黒騎士様と?」
黒騎士と言う言葉に反応するシャルロット。
頬が赤く、ゆるんでいる様に見えた。
………おい、お前やっぱり。
「それは重要事項です! 行きましょう! 直ぐに行きましょう!!」
またも恋する乙女になったシャルロットは、俺の襟首を離し軍関係者専用観客席へと向かった。
その様子を見て俺は思った。
黒騎士、お前とんでもない女に惚れられたな…。
と、シャルロットのめんどくささを知っている俺は、初めて黒騎士に同情した。
俺はため息を吐きながら、シャルロットの後を追いかけた。
**********
・軍関係者専用観客席
「あぁ~、勉強した!」
アドルフ達が退場した後、隊長がそう言った。
「ん? 黒騎士、お前は今まで勉強していたのか?」
ブランドンが隊長に向かって、不思議そうに聞いた。
「ああ、今後の弓兵隊の訓練方法をどうするかの為のな。これから青長髪イケメンと打ち合わせがあるんだ、筋肉兄さん」
「……筋肉兄さん言うな」
隊長が言ったあだ名に抗議するブランドン。
無駄な事だと、この半年で分かっている事だろうに。
「ハァ~、まぁいい。それより腹が減ったな。黒騎士は用があるみたいだから、ここで待ってろ。コンラットも副隊長として一緒にいるだろうから、買ってきてやるよ」
そう言ってブランドンが立ち上がり
「行くぞアデル!」
「ちょっ! 何で僕までー!?」
アデルバートを担いで行ってしまった。
「そ…それ…じゃ、わた…しも」
その後をエイミーが追って行き、俺と隊長は2人で待つことになった。
「それにしても本当にすごい戦いだったな、決勝戦!」
隊長に話しかけられ、楽しんだ後の興奮が抜け切れていない様子に頬がゆるむ。
「はい、流石アドルフとシャルロットです」
そう答えながら、俺は隣の隊長が楽しんでいた事に喜んだ。
自らの容姿を隠さなければならない隊長は、常に鎧を着て、窮屈な思いをされているだろうと何時も思っていた。
まだ17歳で、故郷ではまだ成人していない事実を知ったときは、俺は隊長に重荷を背負わせてしまったのではないかと後悔したこともあった。
だがそんな想いとは裏腹に、隊長が常に一生懸命、国を良くするために奮闘している姿を見て、この人の下について良かったと実感することの方が大きい。
それに隊長には日常や仕事面で支えになってくれる親友…クロードがいる。
彼と話すときの隊長は、本当に楽しそうだ。
その事に嫉妬する事もあるが、感謝もしている。
他国出身の隊長は、時々寂しそうな表情をして、空を見上げる。
もう二度と帰れないと言っていた故郷を思っている事は、この間知ったばかりだ。
そんな隊長がクロードがくれば直ぐに嬉しそうにするんだ。
対等の親友と話すときの隊長は、本当に生き生きしている。
俺やアリスではそうはいかない。
信頼されているとはいえ、俺とアリスは部下。
友人と部下では、やはり違う。
だからこそ、俺はクロードの事を信頼し、アリスとの事を応援しようと思えたんだ。
隊長同様、どこから来て何をしていたのかは分からない。
しかし、隊長を寂しさから救ってくれる彼は、必要不可欠だ。
当然俺もクロードに負けない様に、隊長の心を支えるつもりだ。
それに、俺は隊長のそばにいて護りたいとも思っている。
俺は隊長を尊敬し、この人の元で生きていきたいと思っている感情と、同時にある感情。
この感情がなんなのか分からないが、俺にとって特別な物だ。
その思いがあるからこそ、俺は隊長のそばに居たい。
隣で未だうきうきしている隊長を見て、改めてそう思った。
**********
「よぉ~、待たせたな」
私は声が聞こえた方向に目を向けた。
そこには青長髪イケメンと、何故かシャルロットがいた。
「ああ、お疲れ様」
とりあえず、そう答え彼らがこっちに来るのを待つ。
「黒騎士様、コンラット副隊長、ご機嫌よう」
にっこりと笑って、私達に挨拶をするシャルロット。
流石上流貴族出身者、動作一つ一つが優雅である。
「ああ、こんにちはシャルロット副隊長」
そう、挨拶を返す。
だがそのとたん、頬を染めもじもじしだしたシャルロットに首をかしげた。
「あ~ぁ、黒騎士様本当に凛々しいくて素敵です」
言いながらコンラットの前を通り過ぎ、私の左隣に座ると、私の左手を両手で包み込み、胸の高さまで持ち上げられた。
シャルロットは目をキラキラさせ頬がピンクに染まっている。
その表情を私はよく知っていた。
勇介に群がっていた女達と同じ表情だ。
え? ちょっとまさか……。
「黒騎士様、お伺いしたいことがしたいことがあります」
「え? あ、な、何?」
ドギマギしながら私は言った。
「黒騎士様は、恋人はいらっしゃいますか?」
――――ブッ!
その言葉に、この場にいる兵士達が吹いた。
「い、居ないが」
「じゃ、お慕いしている方は?」
――――ザザザザザッ!
今度はコンラットと青長髪イケメン以外が、私達から離れた。
出来ることなら私もこの場から離れたい。
「そっそれも居ないが」
――――パァー!
私がアーメットの下で顔を引きつらせながら答えると、シャルロットの表情は輝いた。
この表情を見て私は確信してしまった。
そして思った。
何でこうなった!?
「……おい、隊長が困っているだろ。とっとと離れろ」
私が混乱していると、コンラットが私とシャルロットの間に入り、引き離して私を背後に隠すように立った。
助かったと思ったのはつかの間、コンラットとシャルロットに不穏な空気が流れ出す。
「何をなさるのです? コンラット副隊長」
「それはこっちの台詞だシャルロット副隊長。隊長が困っているのが分からないのか」
それから二人は火花を散らし、言い争いを始めた。
私は青長髪イケメンの所に向かって声をかけた。
「えっと、認めたくない現状を全力で否定したいが、現状確認のため聞かせてくれ。シャルロット副隊長どうしたの?」
私は現状を否定してほしいと思いながら、しかし無理だと理解した上で聞いた。
「状況を理解した上で、逃避したい気持ちは分かる。だがあえて言おう、今目の前にあるのは現実だ」
予想通り、帰ってきたのは現実を見ろと言う答えだった。
私はその場で両手両膝をついてうなだれた。
そんな私の肩に手を置き、青長髪イケメンが言う。
「気持ちは分かるが受け止めろ。シャルロットは完全にお前に惚れている。安心しろ、俺はお前とシャルロットをくっつけようとか思ってねぇよ。コンラットも全力で回避させようとするだろうし、セレスティアとエイミーも手伝ってくれる筈だ。だから元気だせ」
どういう風の吹き回しか、青長髪イケメンが私を同情している。
普段なら、熱でもあるのかと疑ってからかう所だが、そんな気分にもなれない。
何で
「何でこんな事に……」
しばらくして、お昼ご飯を買ってきた3人が戻って来て、未だ言い争っているコンラットとシャルロットを見てポカーンという表情をした。
現状を聞くために部下の一人に聞き、その部下が手足を地に付けている私と、それを慰める青長髪イケメンをみてまたもポカーンとしたのは、約10分後の事だった。
To be continued
あとがき
皆様お待たせいたしました!!
第22話がようやく完成しました!!
誠に申し訳ございません。
言い訳をさせていただきますと、戦闘シーンで詰まり、映画やゲーム、参考資料で勉強しておりました。
私生活で余裕が無かった事もありますが、私の勉強不足です。
本当に申し訳ございませんでした!
さて、今回は弓兵隊がメインのお話でした。
いや~、弓兵同士の戦いをいざ書こうとしたら、『あれ? 弓兵ってどういう風に戦うの?』と問題が発生してしまい、資料を見ながら、私なりに考えたエルドアでの戦術を考えたら、あっという間に時間が過ぎてしまった事にびっくりです。
いかがでしたでしょうか?
初登場のシャルロットは今後、智慧の苦手人物として登場する予定です。
そしてコンラットの、智慧に対する思いは今後どうなって行くのでしょうね(フフフッ)。
今月は出来るだけ更新する予定です。
今後とも『勇者より最強な黒騎士』を、よろしくお願いいたします!




