第14話 会議と突入前
第14話 会議と突入前
・裏町、廃墟周辺
表町と違い、昼でも暗い裏町。
そこは、法的に禁止とされている商売を行う者、犯罪集団闇ギルドの集まる所。
同じ商店街とは、とても思えない。
名前の通り、商店街の裏の顔。
その中、裏町の住人でも近づこうとしない場所がある。
城壁を背にするように建つ、とある小さな屋敷だった廃墟。
かつて此処には、商店街を取り締まる貴族が住んでいたらしい。
その貴族が死んだのは、もうだいぶ昔の事。
その貴族は跡取りに恵まれず、屋敷は主を失った。
元々下級貴族だったその貴族には、ほんの数人しか使用人がおらず、彼等も故郷に帰ったそうだ。
残った屋敷は、誰も住まなくなった事により徐々に寂れて、今では人を寄せ付けようとしない雰囲気の廃墟になっている。
ホラー映画に出てきそうな屋敷と言ったら、分かりやすいと思う。
その廃墟の周りには闇に隠れるようにして、帝国軍の軍人達が待機していた。
魔導師数十人による、厳重な『姿隠し』の魔法で気配が漏れないようにして。
「騎士隊長、弓兵隊・槍兵隊・闘士隊・魔導師隊の包囲網が整いました」
剣士隊に所属している男が、小声で報告に来た。
「分かった。それぞれ待機をし、気を引き締める様に伝えてくれ」
「ハッ!」
同じく小声で剣士隊の男に指示し、彼は去って行った。
もうすぐ、オークション会場に突入する。
今回の作戦を考えたのは、クロードに調査を依頼し決定的証拠である現場を、正確に突き止めた3日前の事だった。
・3日前の軍会議室
軍の会議室の中に私を含めた隊長達、それにコンラットが集まっていた。
なぜこの中にコンラット以外の副隊長が居ないかと言うと、コンラットは隊長の証であるマントを特別に着けることを許されており、私の部下ではあるが、他の隊長達と同じ地位となっている。
これは彼の今までの功績によるものだ。
今回の会議は、軍の最高位である隊長達による緊急会議だ。
丸い大きな机を囲むようにして、席に座っている。
「急に緊急会議を開くと言う事は、ついに動くんだな黒騎士」
青…アディンセル隊長が真剣な表情で聞いてきた。
その言葉に頷く。
「その通りだアディンセル隊長」
私が答えると何故かコンラット以外、引き締めていた顔が、驚いた顔になる。
「どうかしたのか?」
「いや…君、今彼の事あだ名で呼ばなかったじゃないか。何時も直そうとしなかったのに」
そう言ったのはアバークロンビー隊長だった。
なんだその事か。
「今は真面目な時だアバークロンビー隊長。ふざけている場合ではない」
「そ、そうだね……」
私の言っている言葉に、戸惑いながら言うアバークロンビー隊長。
『仕事モード』を彼等に見せるのは、今日が初めてだ。
普段がふざけている態度な為、驚くのも無理はないだろう。
「さて、本題に入らせていただく」
その一言に全員が再び顔を引き締め直した。
「全員知っていると思うが、先日とある情報屋から有力な2つの情報が手に入った。一つは闇ギルドの本拠地。2つ目はとある廃墟に怪しい集団が出入りしていたと言う情報だ。まず闇ギルドについての報告を、コンラットにしてもらう」
私はそこまで言うと、右隣に座っているコンラットに視線を向ける。
コンラットは私に頷き、全員に説明した。
「闇ギルドに付いては現在部下に見張らせている。その中である部下が、ローブを被った怪しい人物を確保し、身元を特定。取り調べで、隊長の暗殺を依頼をした事が判明した…」
全員の視線が私に集中する。
心配そうな顔をしていた。
「問題無い。普段はコンラットが補佐の為、付いている。まぁ、以前の休暇でガルドと遭遇したのは予想外だったが、ゴブリンを嗾けられただけで何もない」
この事は彼等全員に話している。
さすがにクロードの事は秘密だが。
聞かせた後の質問攻めには本当に参った。
「コンラット、続きを」
私はコンラットに指示する。
「分かりました。確保した人物はアクロイド議員と闇ギルドの仲介屋をしている男と判明。この男はアクロイド議員に雇われ、本人の代わりに闇ギルドへ依頼をしていた様だ」
この男もやはり金に釣られたらしい。
取り調べの時も、ビクビクしながら包み隠さず、べらべら喋った。
私の暗殺依頼はもちろん、誘拐依頼や証拠の隠滅なども。
「この男には今回の事は不問とするのを条件に、今後アクロイド議員が依頼内容を伝える事があれば、我々軍に報告するように言っている。この男の場合、闇ギルドと接触はしたが、本人自身の依頼では無い為、特に問題ないだろう。今後同じような事をしたら、容赦なく裁くと脅している事だしな」
その言葉に全員が納得した。
取り調べで顔面蒼白にして頷く男を思い出す。
取り調べを行ったのはコンラットで、私は見ているだけだったが、あの時のコンラットはまさに鬼だった。
背筋が凍る程の恐怖とはこの事だろうか?
「以上俺からの報告は以上だ。隊長お願いします」
「ああ。有難うコンラット」
コンラットにお礼を言って、再び視線を隊長達に向ける。
「続いて2つ目の情報、裏町にある廃墟の事だ。これに付いても裏が取れた。次にオークションが行われる日もな。すぐにでも出撃隊の選出をしたい」
「……気になったんだが、何時の間に調べたんだ?」
アダムズ隊長が聞く。
それは私とコンラット以外同意見だった。
「なに、ちょっとな……」
含みを込めた言葉で誤魔化す。
クロードの事はコンラットとアリス、陛下以外に言うつもりはない。
その方が彼にとって動きやすいだろうし。
「……ハァ~、分かった詮索はよそう」
溜息を履いてアディンセル隊長が言った。
心の中でホッとする。
「それじゃ、各隊の配置決めだな。俺達弓兵隊は周囲の建物に潜んで包囲網を作る」
「俺達闘士隊も同様だな。建物の中では打撃武器での戦闘は正直きつい」
アディンセル隊長とアダムズ隊長の言葉に頷く。
「それならば槍兵である我が隊も、外部で待機させていただきます」
「了解した。アーノルド隊長、魔導師隊には他の隊の者達に付いていてもらいたい。気配がばれては意味が無いからな」
「了…解。『姿…隠……し』の…魔……法…で……何と…かし……ます」
エイヴァリー隊長とアーノルド隊長も自分達の隊のポジションを確認した。
「突入部隊は我々騎士隊と、アバークロンビー隊長率いる剣士隊で結成する。構わないだろうか?」
「……構わない」
少しの間の後に、了承するアバークロンビー隊長。
彼が私を気に入らないのは知っているから、別に気にしない。
私も彼を許していないから。
「突入部隊の指揮は私が行う。外部部隊は誰が指揮を?」
流石に隊長全員が出撃する訳にはいかない。
せいぜい私ともう一人、弓兵隊・槍兵隊・闘士隊・魔導師隊の誰かだ。
この時点でアバークロンビー隊長は城で待機と決まっている。
「俺が行こう」
そう言ったのはアディンセル隊長だった。
「俺が指示を出す。俺達弓兵は遠距離攻撃型だ。上から相手の出方を見て部下達に指示をする」
彼の言葉に全員が頷き、後は出撃隊を選抜するだけだった。
その後、時間が無い為、大急ぎで適任の者達を選出し、手筈のチェックや準備をしていると、あっという間にオークション開催日になった。
辺りはすっかり暗くなり、周囲の建物に身を潜める。
この時周りが暗い事や、鎧で全身を隠していて良かったと思う。
今の私は緊張で、心臓の動きも早くなっている。
心の中は不安でいっぱいだった。
………。
駄目だ手が震える。
私は、部下達に見えないように腕を押さえる。
こんな所見られたら、皆が不安になる。
私は、一旦此処から離れて落ち着こうと思い立ち上がる。
「隊長、どちらへ?」
此処から離れようとした時、コンラットが声をかけてきた。
そうだ、彼には一言言っておこう。
「ちょっと気分が高ぶってるから、冷ましてくる」
私は彼だけに聞こえる様に言った。
「…分かりました、お気を付けて」
察してくれた様だ。
やっぱり彼は大人だと、改めて思った。
私は今度こそ、待機場所から立ち去った。
「フゥ~」
私は城壁に大きく息を吐きながら、凭れかかるように座り込む。
心構えをしていた積りだったけど、駄目だな私…。
緊張して鼓動が速く、胸に違和感を感じた。
手だけじゃなく全身が震える。
如何しよう…。
もし失敗したら如何しよう。
そう思うと更に不安な気持ちで、いっぱいになってしまった。
いくら魔王と渡り合える程の力を与えられていたり、この世界の知識があるからと言って、私はやっぱりただの女子高生だ。
私に与えられている知識は、常識、戦闘、政治、歴史、伝説。
これらの知識はエルク神が知っていた内容を、そのまま植え付けられたものだと、この身体に入った時に分かった。
その知識は膨大で、大きな図書館にある資料並み。
天照様が作ったこの身体だから、収まった内容だ。
歴史については、現在から4年間の物は入っていない。
おそらく、勇介が召喚されない未来を作らせないためだ。
それに勇介が召喚されないと、私がこの世界に来れない。
天照様が今の時代に送ったのは、飽くまでも戦闘経験を積ませるため。
送られる前にも、説明されている。
もしかしたら、私をこの世界に送る事を考えた時に、思ったのかもしれない。
私が4年後の、勇介が召喚される未来を作るかもしれないと。
「ハァ~、参ったな~…」
深いため息を吐き、思った事を低い声で呟く。
今そんな事考えるんじゃなかった。
重いよ~ぉ…。
全身に重りが伸し掛かったような気分だ。
この世界に来て今日まで、世界の知識とか地球のアニメや漫画、ゲームやニュースを元に駄目だと思った事は言ってきた。
そうでないと、ただの女子高生の小娘である私に、陛下を納得させる意見が出来たり、軍の指導なんて出来る訳ない。
ましてや隊長になったり、公爵の地位何て与えられる訳がない。
皇族に気に入られたのも…。
全て本当の私の力じゃない。
考えれば考える程、ネガティブ思考になって行く。
アーメットの下の顔は、情けない表情をしているに違いない。
「…何しょぼくれてんだよ、黒騎士」
「!? …クロード?」
行き成り声をかけられ、驚いた。
クロードの声がしたのは、私が腰をかけている場所の右側に建っている、空き家と城壁の間からだった。
見ると城壁に凭れかかり、両腕を組んで立っていた。
鼻と口を何時もの黒いスカーフで隠している。
本来だったら、夜で更に影になっているそんな所、見える訳ないが、アーメットの魔硝石でハッキリ見えた。
クロードの呆れている横顔も。
「…気配隠すの上手いな~。気配には敏感のつもりだったのに」
『仕事モード』の喋り方ではなく、普通の喋り方で言った。
本当に気が付かなかった。
元の世界でも気配には敏感だったし、この世界に来てからは、気配を殺している相手も分かる様になっていたのに。
「バ~カ、お前がそんだけ無防備だったんだよ」
「ハハッ…」
クロードの言葉に自分を笑う。
返す言葉もなかった。
「…如何したんだよ? 何時ものお前らしくもない」
「…何時も…か」
彼の言っている、何時もって何だろう。
女の私?
黒騎士の私?
「何時もの私って…どんなんだ?」
「はぁ?」
「いいから答えろ…」
私が聞いた言葉が、おかしかったらしく、顔をしかめるクロード。
そんな彼に、答えるように要求する。
「…そうだな~」
クロードは目を瞑り考える。
私はドキドキしながら待つ。
「無茶苦茶で、怪しくて、容赦なくて、変な所でお人好しの、馬鹿な奴」
「………」
私は無言で近くにあった小石を、クロードに投げる。
それを身をかがめる事で避けたクロード。
本気で投げた訳ではないが、内心舌打ちした。
「あっぶねぇ! 何すんだよ!?」
再び立ち上がったクロードが文句を言う。
「やかましい! 貶したアンタが悪い!」
あまり大きな声では無いが、お互いに怒鳴り合う。
聞いたのはこっちだが、そこまでボロクソに言われて怒らない訳が無い。
「何だよ! 落ち込んでると思ったら、急に元気になりやがって。ホントお前、鎧着てても着なくても変わんねぇな!」
「え? 変わ…らない?」
思わずキョトンそしてしまった。
兜の下は、鳩が豆鉄砲を食った様な顔をしているだろう。
「何キョトンとしてんだよ?」
「あ、いや…自分じゃ違うと思ってたから」
クロードの言葉に、驚きながら答えた。
「ハァ? 何言ってんだよお前」
呆れながら、クロードが続ける。
「そりゃ始めは、鎧付けてんのと付けて無いのとでは、違うと思ってたけどな。ここ数日間で違ってんのは声と喋り方で、それ以外全然全く同じだと思ったんだよ。最近じゃ喋り方も統一されてきてるしよ」
言われてここ数日の口調を思い返してみた。
確かに鎧外している時も、声は女だけど男口調になってきた事に気が付く。
鎧外して普通に喋るのは、コンラットとアリスとクロードだけだったから、気にも止めて無かった。
「全然気付かなかった…」
「今気付いたのかよ…」
クロードの言葉に頷く。
彼は呆れ顔で私を見下ろす。
「そっか…変わんないか…」
私は確認するように呟く。
不思議な事に、先刻まで抱えていた悩み事が如何でもよくなってしまった。
「お前変だぞ?」
そんな私を見て訝しげに眼元を歪めるクロード。
「あぁ~、実はさ、先刻まで悩んでたんだよ。失敗したら如何しようって」
「………」
私の話を無言で聞くクロード。
「今回これが初任務だからさ、此処まで調べて失敗したらって、怖くなったんだ。それに私の地位の責任も伸し掛かってくる感じがして、余計に不安になって。何考えてんだろうな、陛下は」
一気に、今まで溜めていた想いを言う。
「まぁ地位については、何か狙いがありそうだな」
「やっぱりそう思う? いくら前隊長・副隊長の推薦でも、それだけじゃ無いよな…」
同意する様に言ったクロード。
いくら考えても全然答えが出ないから、最近は考えない様にしてきた。
それに、相談に乗ってくれる様な知り合いが、居なかったのもある。
コンラットは部下で誰よりも信頼はしているけど、上司と言う立場からか、相談しにくかった。
何と言うか、みっともない所を見せられないと言う、想いが強かったのかもしれない。
アリスは、こんな私に仕えてくれていて頼りになるけど、私の地位に対して疑問にも思ってなくて、むしろ嬉しそうだったから、相談しにくい。
それに比べて、クロードにはすんなり相談出来た。
やっぱり上司と部下、主と使用人の関係と違って、友達は気軽に接する事が出来る。
元の世界にも相談できる友達は居なかった。
そう思うとクロードは、とても貴重な存在だと改めて思った。
「悪いな、こんな話聞かせて」
私は立ち上がりながら言った。
随分長居してしまった。
そろそろ戻らないと、突入の予定時間になってしまう。
「黒騎士、お前はお前の思う通りにすればいいんじゃねぇか?」
不意にクロードが言った。
私はクロードに顔を向ける。
「思う通り?」
首を傾げながら聞く。
「俺の時もそうだったけどよ、無茶苦茶な理由でも何でもいい。とにかく何時もみたいに、お前が正しいと思った事をしろ」
真剣な目で私を見ながら言った。
確かに、クロードの言う通りだ。
「分かった」
今更くよくよする訳にはいかない。
何時もみたいに、胸張って自分が正しいと思った事を貫こう。
それが私に出来る唯一だから。
「クロード、ホントに元アサシン? そんな事言う何て、普通の暗殺者じゃ考えられないよ? 」
私はクロードに聞いた。
友達にはなれたが、彼の経歴は知らない。
私も教えていないから、相子だ。
「ウルセェよ。俺も色々あったんだ」
「そっか」
不機嫌そうに言ったクロードに、小さく笑いながら呟く。
「それにもう俺は『暗殺者』じゃなく、『隠密捜査官』だからな」
「まだ(仮)だけどな」
得意げに言ったクロードの言葉に付けたす。
正式な手続きがまだなため、(仮)だ。
「だからウルセェよ」
またも不機嫌になるクロード。
「ハハッ! この事件が終わったら、正式に手続きする。それまで待ってな」
笑いながらクロードに言った。
「ハァ~、頼むぜ。俺結構この役職名、気に入ってんだ」
クロードが溜息を吐きながら言う。
この役職名は私が付けたのだが、本人は物凄く気に入った様だった。
多分クロードは暗殺何て事、本当はしたくなかったんだと思う。
何故そんな事をやっていたのかは知らないけど、役職の名前と仕事内容を話した時、嬉しそうにしていたのを覚えている。
その時初めてクロードと言う本当の彼を見た。
私はそう思う。
「了解。その時はクロードも一緒に陛下に会いに行くんだから、シャキッとしろよ」
「言うなよ、こっちは既に緊張してんだから」
ゲンナリとし、胸に手を当てて言うクロード。
無理もないか。
「悪い悪い! 今度アリスの誕生日聞いといてやるから」
「マジか!?」
目を見開いて聞いてくる。
よっぽど知りたいらしい。
「サンキュー! やっぱり、持つべきものはダチだな!」
「現金な奴だなお前」
嬉しそうに言ったクロードに、苦笑する。
「それじゃ、そろそろ行くよ」
「おう! 俺は今回手伝えないから頑張れよ」
私達は手を振り別れた。
クロードと…友達と話せて良かった。
震えも、不安も治まった。
後は私の出来る事をやるだけだ。
突入まであと少し。
私は軍が待機している場所へ戻って行った。
To be continued
あとがき
第14話お送りいたしました。
今回は智慧の弱い部分を出し、それをクロードが励ますと言ったお話でした。
これで二人の友情が一歩深まったと思います。
次回ようやく本拠地に突入です。
今後も『勇者より最強な黒騎士』をお楽しみください。




