第10話 訓練と指摘
第10話 訓練と指摘
・演習場
「えぇ~、昨日はお騒がせしてしまいまして、誠に申し訳ございませんでした」
誘拐事件の話し合いの次の日。
現在私は、演習場で他の兵士さん達の前で挨拶をしていた。
「改めまして、騎士隊長兼皇族専属騎士に任命されました、黒騎士です。新参者ですが、今後ともよろしくお願いします」
そこまで言って頭を下げる。
上げて周りを見ると、
―――ポカーン
兵士全員、呆気にとられた顔をする。
「コンラット、私変な事したか?」
不安になり、右隣りに居たコンラットに尋ねる。
「……まぁ」
しかし、帰ってきたのは曖昧な返事だった。
何が変なんだよ?
「黒騎士様、彼ら全員部下なのですから、上司らしく振舞うべきだと……」
困ったように左隣に居たセレスが言った。
そう言われてもね…。
「いや、こう言うのは行き成り偉そうにしたら、私の印象が悪くなると思うんだよ。そもそも、こんな怪しい格好してるんだから、中身はまともな人間であることを表現しないと」
兵士達「(自覚してるんだぁ……)」
この時、兵士の心の声がシンクロしていた事は誰も知らない。
「隊長……少しは偉そうにしていただく方が…」
コンラットが困ったように言った。
「う~……じゃぁ」
私は改めて兵士達を見る。
兵士達と両隣りに居るコンラットや隊長達が、息をのむ音が聞こえた。
「…………よろしく~」
―――ズテンッ!
全員ズッコケました。
数分後、周りが訓練を行っている中。
「何やってるんですか! 隊長!!」
現在コンラットに怒られています。
「だって偉そうにッて言われても、具体的に如何すればいいか分からないから」
少し拗ねたように言う。
私は悪くないよ~。
「フンッ! 所詮はし「「黙れアホ剣士!」」おい!セレスとコンラットまで何故その呼び方なんだ!?」
セレスとコンラットにセリフの最中に遮られるアホ剣士。
「アホ剣士。そのままじゃないか」
コンラットがアホを見る目で言った。
「ピッタリではないかアホ剣士」
セレスも容赦なく毒を吐く。
どうやらこのあだ名に大賛成なようだ。
二人の情け容赦ない言葉に両膝と両手を地面に着け、項垂れるアホ剣士。
ざまぁみろ。
「落ち込むなアデル。俺は筋肉兄さんだぞ……」
アホ剣士を励ます筋肉兄さん。
「お前らは意味が分かっているだけマシだ!俺なんて意味の分からないあだ名だぞ!! 」
青長髪イケメンは落ち込む二人に訴える様に言った。
あ、そう言えばこの世界に『イケメン』なんて言葉無かった。
「おーい、青長髪イケメン!」
「だから! それを「『イケメン』て私の国の言葉で『素敵・カッコイイ男』て意味だぞ」……フン、お前ら災難だったな」
「「この裏切り者!!」」
私が説明すると機嫌を直し、アホ剣士と筋肉兄さんから少し離れたところに居た私達のそばまで移動し、二人を見下しながら言った。
それにアホ剣士と筋肉兄さんが激怒する。
この青長髪イケメン単純だな。
「黒騎士。さすがに先刻のあれは無いだろう」
青長髪イケメンが何事もなかったように、むしろ上機嫌で私に話しかける。
「アンタ私が嫌いじゃなかったっけ?」
「ハハッ! 何の事かな?」
「「「「「「………」」」」」」
コイツの変わり身の早さに呆れる私達。
昨日は『ムカつく』とか言ってたくせに…。
「アドルフ……」
コンラットが青長髪イケメンの名前をぼそりと呟く。
「ハァ~、話を戻しましょう」
溜息をつきながら話を戻すコンラット。
「貴方はこの国で最高の騎士である事を自覚してください!」
「興味ないんだけど」
「貴方はまた!!」
コンラットが頭を抱える。
言われましても、興味が無いものは仕方ないじゃん。
「じゃぁ、聞くけど。皆が想像してる最高の騎士って何?」
これが全くピンッと来ないんだよ。
「そうだな……。強くて、カッコ良くて、威厳がある騎士か?」
青長髪イケメンが言う。
アンタいつの間にかフレンドリーね…。
「それ、コンラットに一番当てはまるじゃん」
私はコンラットを指しながら言った。
「そんな事ありません!」
ハッキリ否定したのはセレスだ。
エイミーも『コクコク』と頷いている。
「………でもさ本当に威厳がある人って威張らないよな?陛下が威張る所想像できるか?」
私が皆に聞く。
私には想像できないよ。
むしろ、気軽に民と話しているイメージが湧いてきた。
「「「「………(確かに!)」」」」
声には出さないが、四人供同じ意見のようだ。
「それにさ、下手に威張ったらアホ剣士と同類じゃん」
「「「「「あぁ~……」」」」」
「何だい! ブランドンまで!!」
筋肉兄さんもどうやら同意見だったらしい。
アホ剣士が吠えた。
「…しかしですね、隊長」
コンラットが渋い顔をしながら言う。
私がアホ剣士みたいに威張っているところを、想像しているのだろう。
凄く嫌そうだ。
「いいんだよ、このままで。いざという時は『仕事モード』に切り替えるから」
「……ハァ~、分かりました」
コンラットが渋々ながら了承した。
アホ剣士と筋肉兄さん以外苦笑を浮かべる。
「(本当に、困ったお人だ)」
「それよりさ、訓練っていつも自主練習?」
話をしながら周りの様子を窺っていた私は、コンラット達に聞く。
「ええ、いつもこの様に」
セレスが答えた。
それを聞いて、私はもう一度訓練をしている兵士達を見た。
それぞれが自分が考えたであろう訓練を行っている。
ハッキリ言ってこの訓練、効果は薄いと思う。
この世界の知識の中に戦闘知識が入っているせいか、彼らを観察していてよく分かった。
こんな訓練方法で強くなれるのは、ごく少数だろう。
「……よし」
私は、ある事を決めた。
「訓練方法変えるぞ」
「「「「「「は?」」」」」」
私が言った言葉に訝しげな顔をするコンラット達。
そんな彼等を無視して、
――――パンッパンッ!
と、2回手を叩き兵士達の意識を私に向ける。
「は~い、一旦訓練止め! 注もーく!!」
私は演習場全体に聞こえるように大きな声を出す。
この演習場、よく声が響くな。
全員がこっちを見た事を確認して私は口を開く。
「単刀直入に言う! お前らの練習方法は効果が全く出ない!!」
その一言に一瞬静まり返る。
その後、非難の声が上がった。
「お前! 何い「黙れ」……」
青長髪イケメンが抗議しようとしたが、黙らせる。
その声が聞こえたらしく、その場で騒いでいた連中も押し黙る。
「例えば……おい! そこの弓兵くん!」
「お、俺?」
私は弓兵の若い男に声をかける。
茶色い短髪で、大人しそうな草食系男子がピッタリな顔立ち。
瞳は茶色で、身長は170クアメイト位。
茶色いガンベゾンに、薄い茶色の皮パン。
黒いロングブーツを履いている。
彼は緊張しているみたいで、固くなっているのが見て分かる。
弓兵君のいる所は弓矢の練習をする所で、数十メイト先に的がある。
私は歩いて、弓兵君の近くまで行った。
「ちょっと弓矢を引いてみて」
「? はい…」
弓兵君はいぶかしげな顔をしながら弓矢を引く。
「そのまま止まって」
「はい」
私は彼にそのままの体制をとらせ、肩を少し落とさせたり、腕をほんの少し上げさせたりした。
その光景を周りは珍しそうに見ている。
「よし、この体制であの的のど真ん中狙ってみろ」
「ええ!? いや、俺無理です!」
何故か無理と言う弓兵君。
「そいつじゃ無理だぜ!」
後ろから野次が飛んできた。
声のする方を向くとガラの悪そうな、如何にも不良だと分かる弓兵が数人集まり、嫌な顔でニヤリと笑っている。
「そいつはなぁ、今まで一度も的に当てたことすらねーんだぜ」
不良のリーダーらしき弓兵が言った。
「そうそう、才能ねーくせに、何で弓兵隊に入隊したのかわかんねーよ!」
――――ギャハハハハッ!
不良Aが言った一言に、他の不良たちが笑う。
そんれを聞いて弓兵君は、歯を食いしばって悔しがっているが、反論する勇気がないようだ。
顔付きが、呆れめていると言っている。
弓兵君が、弓矢を構えるポーズを解く。
「やっぱり「無理だと思うから無理なんだ」…え?」
諦めの言葉を言おうとした彼の言葉を遮り、私は言う。
そんな私の言葉に不良連中の野次が飛んできた。
「アンタ俺達の話聞いてたのかよ!」
「そいつには無理「黙れ雑魚共」……」
野次を遮るように、私は地を這うような低い声で言った。
昨日も思ったが、声を変えているとはいえ、自分がこんな声を出せるとは思わなかった。
殺気も出ていたようで、不良達はもちろん、周囲の人間は真っ青な顔をしている。
私は、周囲と同じく青い顔をしている弓兵君に言う。
「いいか、先刻私が治した体勢で、集中して狙え。そうすれば絶対当たる」
兜越しに彼を真っすぐ見て、言った。
彼はしばらく私を見る。
「周りが何言おうが気にするな。君は、君のするべき事をしろ」
「………」
私の言葉を聞き、顔を引き締めコクリと頷く弓兵君。
彼は再び、的を真っすぐ見て、弓を引く。
先刻治した姿勢を保って。
周りの兵士達は彼のに注目する。
静まり返った演習場内に弓が撓る音がよく聞こえた。
彼は的に狙い定め、手を離す。
矢は、真っすぐ的へと一直線に飛んで行き………………………ど真ん中に当たった。
「………………嘘」
そう漏らしたのは誰だろうか。
周りも信じられない顔をする。
――――トントン
私は呆けている彼の肩を叩き
「ほら、当たったろ」
と、彼にそう言った。
「は……はい!」
私の言葉に、嬉しそうに返事をした弓兵君。
「ど、どうして!?」
不良リーダーの弓兵が信じられないと声を上げた。
「どうして? お前分からないのか?」
不良の弓兵に向かって言った。
「いいか、彼は弓を持つ手が少し下がっていたり、力が入りすぎて射る方の肩が上がっていただけなんだ。そこさえ治してやれば、矢は真っすぐ飛んでいくなんて当たり前じゃないか?」
「………」
不良の弓兵達は、ばつの悪そうな顔をする。
「彼の様に治さなきゃいけない奴は他にもいる。なのに自主練習なんかして、個人個人の練習しかしないから、何処が悪いのか分からないし、治せないだろ」
全員がそこまで言って気付いたようだ。
「それに、他人の練習を見て何処が悪いのか指摘するのも立派な訓練だ。如何してそこまでしないんだ?アンタ等帝国軍の兵士だろ? 国を護る人間が、こんなバラバラな訓練していたら、実戦でも同様バラバラになる。分かるよね、コレって命にかかわる事だ」
私は彼等に訴えるように言う。
「私達軍人は重大な責任がある。私達が確りしないと国の状況が悪くなる! 今がその状況だ!!」
全員がハッとする。
帝国の今の状況がどうなっているのか、この国の人間なら誰でも知っている。
「だからこそ、軍がまとまらないといけないんだ。なのに訓練ですでにバラバラだ! だから、訓練の方法を大幅に変更する!」
まずは武器を持っている兵士達に声をかける。
「騎士隊、剣士隊、槍兵隊、闘士隊は、各自素振り千回! まずは基礎からだ!」
――――ハイ!
武器を持つ兵士達は勢いよく返事をし、十分なスペースを取って素振りを始めた。
彼らの顔付きにはやる気が窺えた。
「弓兵は2人ペアを組め。互いに何処が駄目かを指摘しあえ!」
――――ハイ!
同じく、力強く返事をする弓兵。
「最後に魔導師隊! 一番問題なのはアンタ等全員だ!! さっきから見ていて、魔法の練習しかしてないじゃないか!いいか、魔法には確かに魔力と精神が必要不可欠で、体力は必要ないように思えるだろうが、私の国の言葉に『精神を鍛えるには、まず肉体から』と言う言葉がある。つまり! 肉体を鍛える事で、精神も鍛えられる。魔法ばかり練習するんじゃなくて、体力つけろ! 身体の筋を伸ばしたら走り込みするからな!」
――――えぇ~!
あからさまに嫌だと声を上げる、魔導師隊。
――――ブチッ!
「グダグダ言わずに、とっとと始めんか―――!」
――――ハッハイ!!
ブチ切れた私の叫びに恐れをなし、ストレッチを始める魔導師隊。
まだ何人かは、納得できていない兵士もいるみたいだけど、皆がやる気を出してくれた。
よし! まずはこの軍の纏りづくりを頑張るぞ!
**********
「「「「「「…………………」」」」」」
隊長の行動に呆気にとられた俺達は、各隊の兵達が隊長の指示通りに行っている訓練をただ見ていた。
「あの黒騎士すげ~」
最初に声を漏らしたのはアドルフだ。
コイツ、隊長につけられたあだ名の意味を聞いてから、急に態度を変えやがって。
現金な奴。
「はぁ~、認めるしか無いようだぞアデル?」
ブランドンは隊長を認める事にしたらしく、アデルバートに言う。
「………」
アデルバートは不機嫌そうに顔をしかめ、走っている魔導師隊の後ろを、ついて行く形で走っている隊長を睨みつけている。
子供か、こいつは?
いったいどうやって剣士隊長になったんだ…。
「アデルバート、もう分かってんだろ?」
アドルフが、アデルアートに言う。
「あの黒騎士にはかなわねぇよ。陛下とコンラットの判断が正しかった。俺達の負けだ」
「君の場合は、黒騎士につけられた呼び名で、黒騎士の側に付いてんじゃないか!!」
アドルフに反論するように叫ぶアデルバード。
確かに、こいつの言ってる事はもっともだ。
本当に認めたのか分からない。
アドルフは苦笑いを浮かべながら言う。
「アレか? アレはただの口実だ。………ホントはな、黒騎士に剣を付きつけられた時に分かってたんだよ。コイツは俺なんかじゃ絶対敵わないって」
アドルフは続ける。
「その後の黒騎士の推理を聞いて、なんでこんなスゲェ奴に喧嘩吹っ掛けたんだって後悔したよ。コンラットが認めたような騎士を疑った俺が馬鹿だったんだ。まぁ、からかわれたのは癪だがな」
苦笑するアドルフ。
「悪かったなコンラット。お前の敬愛する黒騎士を侮辱して」
「……今回だけは許す」
アドルフの謝罪に、許すことにした。
分かればいいんだよ。
「………僕は、まだ認めない」
「アデル、お前は………」
セレスティアが呆れた声を上げる。
それは俺達も同じだ。
なにガキみたいな事言ってんだよ。
コイツ変にプライド高いんだよな…。
「まだ認めない! 認めるのは、昨日話し合った誘拐事件を解決してからだ!!」
その言葉に言葉を聞き、俺達は驚いた。
コイツがこんな事を言うなんて、思ってもみなかったから。
「……分かった。解決したら、隊長に謝罪しろ」
「了解した」
ムスッと顔で返事をする。
それが可笑しくて顔が少し笑う。
「おい―――ぃ! お前ら座り込むな―――ぁ!!」
遠くから隊長の声が聞こえて、視線を向ける。
そこには、息を切らせて地面にへたり込んでいる魔導師隊の連中を、怒鳴りつける隊長の姿があった。
「ハハハッ! 気合入ってるな黒騎士は」
「鬼が居る……」
それを見たブランドンが笑い、アドルフが顔を引きつらせながら言った。
「エイミー、ストレッチなどしてどうしたのだ?」
セレスティアの声を聞きエイミーを見ると、一生懸命筋を伸ばしていた。
「わ…たし……も…はし…る」
そう言った後、隊長の元に駆けて行った。
「大丈夫か、エイミーの奴?」
アドルフが心配そうに言う。
「ム、私も!」
セレスティアが素早く体操をした後、エイミーの後を追った。
よっぽど隊長が好きなようだ。
「セレスティアまで……」
アデルバートが寂しそうに見送る。
お前は捨てられた動物か?
「さて、俺は部下達と訓練するか」
アドルフはそう言うと、弓兵隊の元へ歩いて行った。
「俺も素振りするか。お前等は?」
「俺も混ざる」
「……仕方がない、混ざってやってもいいぞ」
「何だよそれ?」
アデルバートの言葉に苦笑しながら、俺達も部下達の元へ向かった。
向かいながら思う。
あの人の御蔭でバラバラだった軍が一つになろうとしている。
それが出来る隊長がどれほど凄いか、あの人は自覚していないだろう。
でも、だからこそ皆があの人に惹かれて行く。
この国……いや、この世で最も素晴らしい騎士であるあの人に。
会ってまだ3日目だが、これから先ずっと、あの人のそばで働きたい。
そう、強く願っている。
To be continued
あとがき
第10話をお送りしました。
前回更新した日のユニークアクセス件数が、1日で千人超えました!
こんなにこの小説を読んでいてもらえて、私は幸せです!
お気に入りに登録してくれている皆様、またそうでない皆様も誠に感謝しております。
今回は訓練をテーマにさせていただきました。
今回で殆どの兵士の心を掴んだ智慧。
今後も、あらゆる人を惹きつけて行く智慧の活躍に、今後も見守って行ってあげてください。




