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食欲と月見の秋

月見と言ったらこれですね。短いです。




「月見パイがなくなってしまいました……」


 仕事を終えて帰宅すると、悲壮な顔をしたルークからそんな出迎えを受けた。


「え? 何?」

「あんことバターともっちの月見パイです……」

「ああ……そういえばハマってたね」


 ルークの説明で、某ハンバーガー店で秋に出る期間限定商品を思い出した。

 こちらの世界を満喫している異世界の魔術師は、特に食べ物に目がない。

 夏は日本の高温多湿な気候に初めはバテていたけれど、少しずつ慣れて元気になると、希望していた海の家でかき氷と焼きそばを食べ、夏の味を堪能していた。

 そして秋、月見シリーズというものを知った。

 秋のお月見の時期になると期間限定で販売される、卵の黄身を月に見立てたあのメニューだ。

 最初は某有名ハンバーガー店だけで販売していた気がするけれど、今では色んなところから出ていて、ちょっとしたお祭り状態な気がするのは気のせいだろうか……。

 ルークは、その中でも特に月見パイにハマっていた。


「今日買いに行ったら、販売終了しましたと言われました……」

「今日も買いに行ったんだ」

「まさか先週が最後になるなんて……」


 月見パイにハマったルークは、週三の頻度で通っては食べていた。

 よく太らないね。

 確かに美味しいけれど、私の分も買ってこようとするのは、ありがたいがお断りした。

 美味しさとカロリーは大体比例するものだから。


「あんこの甘さと、少ししょっぱいところが奇跡の組み合わせで、生地もパリパリしていて本当に美味しかったです。さらにもっちを入れるなんて……レシピを考えた料理人は天才です」


 何かいきなり食レポが始まった。


「なのに、どうして終了してしまったんですか……」


 まるで今生の別れのように肩を落としている。

 本当に食べることが好きな魔術師だ。


「まあ、期間限定商品だから仕方ないよ」

「あんなに美味しい物は定番にするべきだと思います」


 ルークは納得できないという顔でそう言う。


「春には期間限定でさくらのソフトクリームとかあったじゃん。その時期だけ食べることができるからさらに美味しいんだよ」

「でも月は一年中出ているので、期間限定にする必要はないはずです」

「確か……に……?」


 ルークの理論に一瞬納得しそうになったけれど、やっぱり違う気がして語尾が疑問形になった。

 まあ、販売期間は確かに短いから、気づいたら終了している寂しさは分からないでもないけれど。


「次の秋にもまた発売されるから、来年も食べよう」

「はい……。来年を楽しみにします」


 月見パイとの別れにしょんぼりしているルークがあまりにも不憫だったので、頭を撫でて元気づけた。

 また来年の楽しみにしよう。

 来年もきっと出るから。



 その後、新たな三角形のチョコパイにハマって、ダンスまで完璧に覚えた魔術師が誕生した。




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