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5.この世界はわたくしの知ってる世界

『アリアドネに花束を』。


 RPG専門、と言っても過言じゃない程にRPGばかりをプレイし続けた前世のわたくしが唯一、手を出した乙女ゲーム。

 攻略キャラは、隠しキャラ・二周目以降を合わせて10人以上。そのキャラの多さを売りにしていたゲームだ。ただし、最初に攻略の選択ができるのは5人。第一王子殿下のアレイスター様、第二王子殿下のジェイド様、そして、お兄さまとヴィクターと……あと一人は…うん、どっかの使用人だったはず!!なんか、忠義心が厚すぎて『良いお友達』で終わったからそんなに覚えてないや。


 舞台となるのは、我が国、ビスティア王国の王都にある学園。『剣と魔法の世界』であるこの世界では人は皆、総じて魔力を持っている。けれど、『魔法』という形で大々的に使うことができるのはほんの一握り。その一握りに入るのは貴族が多い傾向がある。そのせいで、貴族は13歳になると6年間、王都の学園に入学することが義務づけられている。


 主人公は所謂、田舎と呼ばれる地域を治める男爵家の箱入り娘。あまりの箱入り故に中々に非常識なところがあるが、可憐で明るくて真っ直ぐな良い子である。そんな主人公は学園で様々なしがらみやトラウマに囚われて心を閉ざしてしまった攻略対象たちと、時にぶつかり、時に寄り添い、身分の差を超えた大恋愛を展開するのである。……現実的に考えると超が付くほど有り得ないストーリー。


 そんな中、わたくし、フェリシエンヌは攻略対象たちに多大な影響を与え、尚且つトラウマを植え付けるという役回り。一応、弁明させてもらうと、別にフェリシエンヌは悪女でもなんでもない……が、異様なまでに運がないのである。どれくらいかと言えば、ゲーム開始時点で死んでしまっているくらいには運がない。


 フェリシエンヌの人生にはそこら中に『死』の運命が転がっている。

 まず最初の死因。それがこの度の馬車の暴走だ。

 ジェイド様ルートではフェリシエンヌはこの時即死。自分を庇ったことでフェリシエンヌが死んでしまった、と己を責めるジェイド様はその現実を嘆き、心を病んでしまう。

 そして、この事故はジェイド様ルートのみならず、全てのルートでのフェリシエンヌの死の布石となっているのだ。


 お兄さまルートでは、一命は取り留めたが、これをキッカケに病床生活を強いられる。そして、そのフェリシエンヌの看病に疲れた使用人の一人が、フェリシエンヌの飲み水に毒を盛り、殺害。自分本位だった己を恥じ、自分にも他者にも厳しいストイック人間と化す。


 ヴィクタールートでは、お兄さまルートと同様に一命は取り留めるものの、体に障害が残ってしまう。本人は周囲に何ともないように振る舞うが、ある時溜まりに溜まった心労から、自ら首を吊ってしまう。大好きな姉の変化に気付かなかった上、目の前で命を絶たれたヴィクターはシスコンを拗らせて大変なことに…。


 アレイスター様ルートでは、体に障害が残ってしまったフェリシエンヌに、王家が責任を取るという形で二人は婚約。責任問題から始まった婚約関係だったが、二人は着実に愛を育み、いつしかラブラブに。けれど、アレイスター様が学園に入学する直前、フェリシエンヌが流行病に倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまった。最愛の人を亡くしたアレイスター様はその苦しみから愛情を拒絶するようになってしまう。


 と、まあこんな感じで……つまるところ、わたくし、フェリシエンヌは攻略対象たちのトラウマ製造機であり、どう足掻いても死んでしまうような、モブ中のモブ。作中でも「妹が…」、「姉様が…」、「婚約者が…」、「彼女が…」と名前すら登場しなかった。


 そして、このゲームを一通りプレイした側から制作会社に言いたいことがあった。プレイしてる時にも思ったし、フェリシエンヌになった今だからこそ、余計に思うことが。

 わたくし、あなた方に何かしましたか!!?なんでそんなにぽんぽこ死ななくちゃいけないわけ!?生かしてよ!前世でも今世でも成人する前に死ぬなんて絶対にイヤ!!

 わたくしは生きる!!ゲームの知識なんて殆ど覚えてなくて役に立ちそうにないけど、あった方がマシだし!



「お、お嬢様…!どうされました?!」

「あえ?」



 両手で軽く握りこぶしを作り、よしっ、よしっ、と意気込んでいると、不意にマーサの心配そうな声が聞こえる。

 ……あっちゃー…やっちゃったよ。マーサがいることをすっかり忘れてた。

 そうよね。いきなり目の前で貴族の…それも公爵家の娘が、突然乙女らしからぬ奇妙な叫び声あげて、落ち着いたら握りこぶし作って何か息巻いてる……あ。わたくしだったら即刻退職願を叩きつけているところね。


 とりあえず、奇声を発したこと、両手の拳、マーサに話しかけられて浮かんだマヌケ顔など…色んなものを誤魔化したくて軽く咳払いをした。



「マーサ。ちょっと眠れないから、何か温かい飲み物を頼めるかしら?」

「…………承知しました」



 ってことで、ティーブレイクと洒落込みますか!

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