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32.兄と妹の対話⑵

ご無沙汰しております!私生活がやっとこさ落ち着いてきましたので…。GW中に何話か投稿する予定だったのに……。完全なリハビリ話ですので、おかしなところもどうぞ生暖かい目で見逃してください…!

「はぁーあ…いやぁ、すみません。もう、お二人がおもし…愛らしくって、愛らしくって。笑いを堪えきれませんでした」



 目尻に溜まった涙を拭いながらジャックリーンが言う。なんか色々誤魔化しきれてない気がするけど…まあ、気にしないでおこう。だって我が家だし。新しく人を雇う度に、「使用人と公爵家の人間との距離が近過ぎない?」って困惑されちゃう我が家だし。

 お客様が来てたり外だったりしたらアレだけど、家の中だったら気にしてたらキリがない。


 前世の――一般市民の記憶を思い出したわたくしとしてはこう…使用人との距離があまり無いっていうのはありがたいと思うけど、公爵家としてはどうなんだろう?

 普通に考えたら不味いよね。領地経営に関して言えば領民の声が直に聞けるって面があるのかもしれないけど……ぶっちゃけ、そんなん関係ないし。だって、お父さまが治めるこの領地には『目安箱』が役所のような場所に設置されてるから。領民の声はいつでも受け止めますよ!って体制がバッチリ整っている。お父さまもお母さまもどんな些細なことでも真摯に受け止めるから、領民も安心して意見やら何やらを投函してくれるらしい。やったね。


 って、そうじゃないわ。

 わたくし、お兄さまとお話ししに来たんだよ。なんでお兄さまがジャックリーンにお説教してるところ見せられてるの?……いやあれ、お説教?

 お兄さまはたしかに顔真っ赤にして怒ってるんだけど…ジャックリーン、なんか笑ってない?



「だから、お前は何でいつも余計なことを……!」

「だって……ふひっ…ひゃろん坊っちゃん……くひひ…」



 うん、笑ってるわ。そんで釣られたブラッドが後ろで爆笑。お前、後でメアリーとマーサからダブルで説教な。

 そんなわたくしの考えが伝わったのか、ブラッドの笑い声はぴたりと止んだ。マジかよ、マーサ強し。きっとメアリーだけじゃこうはならなかった。


 閑話休題。


 お兄さまの小さな憤怒の声とジャックリーンの独特な笑い声をBGMにして魔法を嗜むこと早十数分。これがバラエティー番組なら、真っ黒な画面に白地で『数分後…』のテロップとぽっぽー、ぽっぽーという鳩の鳴き声が流れていただろう。…というか、わたくしの頭の中は現在進行形でそうだ。



「一体、いつになったらお話できるのかしら…?」



 わたくしが『上の空タイム』で創り出した『氷魔法』で生み出した氷の鳥を羽ばたかせて小さな声で呟く。手のひらサイズの氷の鳥は想像以上に滑らかに羽を動かしてわたくしの頭上を旋回する。

 …まあ、ぶっちゃけ、風魔法で動かしてるんだから羽を動かす必要はないんだけど。でもやっぱり、氷の鳥とか、炎の鳥とか、ファンタジーの定番じゃない?RPGオタクの血が騒ぐっていうか……あっ、ここは乙女ゲームの世界でしたね。


 くるくる指を回して氷の鳥を操りながら、次はどんな魔法を作ろうか、と想像を巡らせる。

 この世界の魔法には火・水・土・風・光・闇・無の七つの属性がある。火・水・土・風・光は魔法陣を介して自然に干渉する魔法だけど、闇の魔法は人の精神に干渉するもの。無はこのどれにも当てはまらない魔法―――例えば、身体強化や回復魔法など―――になる。

 今回、わたくしが創り上げたらしい魔法はこの七つには入らない、名付けるなら『氷属性』と『雷属性』、『音属性』の魔法だ。って言っても、既存の魔法をただ組み合わせてみただけなんだけど。

『氷属性』は水と火、『雷属性』は風と光と火、『音属性』に至っては風魔法をちょこぉっといじくっただけだ。

 それでも魔法として確立できてしまうのだから、この世界は本当に凄いと思う。


 氷の鳥をくるくると飛ばしながら、どうやったらもっと綺麗な形になるのか、と鳥の形を調整していく。気になるところを削ったり増やしたりを繰り返して何とか納得のいく形にする。

 まるっともちっとした文鳥あたりの鳥をイメージしていたのだけれど…どうやらわたくしは不器用らしく、何とか形にできた氷の鳥はスマートなツバメのような姿をしていた。……まあ、これからよね!これから練習すれば良いんだもんね!?



「わぁぁ……ねーさま、アレなに?キラキラしてる…!!」

「…一応、小鳥のつもりよ。氷で作ってみたん……?」



 柔らかく引かれた袖と、弾んだ声にちょびっと嬉しくなりながらも答えて首を傾げる。だって、お兄さまの部屋にあの子がいるはずないもの。

 そう思って上に向けていた顔を下に向ければ、わたくしの袖を引っ張って、目を輝かせて上を見上げるヴィクターの姿。……うん、なんでお兄さまの部屋(このへや)にいるの、この子?

 って思ったら、どうやらブラッドが部屋に招き入れたらしい。ドヤ顔でサムズアップしてきやがった。

 いやいやいやいや!!部屋主に断りもなく何してんの!?え?ブラッド、大丈夫!?主に頭の方!かなり使用人達の自由も許される我が家だとしても、そんなことをするのはあんたくらいだよ!!



「……ヴィクター、お兄さまの許可をもらってからお部屋に入って来なきゃ駄目でしょう?」

「でもブラッドが、シャロンさまはたぶん聞こえてないからいいですよって……」



 ブラッドェ…。

 幾らお兄さまの耳に届いてないだろうからって、自分の判断で部屋に入れたらマズイでしょうに…こう、マナー的に。コレはメアリーとマーサへの報告案件だな、うん。なんて心の中でため息を吐き出してヴィクターに両手を出すように言う。素直に従うその小さな両の手に滑らせるように氷の鳥を着地させれば、一層目をキラキラさせていろんな角度から氷像を眺める。姉バカかもしれないが、その姿の可愛らしいこと!!今すぐにでも飛びついて愛でたい衝動を律し、羽繕いをするような動作をさせてみる。それがよっぽど面白かったのか、ヴィクターはまた嬉しそうに笑う。こんな可愛い笑顔を見せるこの子が将来、ヤンデレ化するだなんて…。ずぇったい、何かの間違いだよ。

 楽しそうにはしゃぐ我が弟の姿がこれ以上ないくらいの眼福で。幸せな気持ちでだらしなく頬を緩ませていると不意に視線を感じた。何事かと顔を上げてみれば、こちらをじっと見つめるお兄さまの姿。



「お兄さま、もうよろしいのですか?」

「え?あ、えと…ごめん……」



 ジャックリーンとの口論も終わりを迎えたらしいお兄さまに問えば、バツが悪いといわんばかりに目を伏せる。そうして紡がれた謝罪の言葉に、気にしないでください、と首を振る。でも…とか、だって…を口の中でモソモソ呟くお兄さまに、そういえば…と話を切り出す。



「失礼ながら…お兄さま、何か良くないものでも召し上がりました?」

「は!?」

「ふぶっ……!」

「笑うな、ジャックリーン!!」



 さすがに「頭、大丈夫ですか?」なんて聞こうとは思えなくて、自分の中で最も有力な拾い食い説を押してみる。尋ねた瞬間、目をまん丸にしてこちらの正気を疑うように凝視してくるお兄さま。そして、すっかり冷めたお茶を取り換え、さらにヴィクターの分のお茶を用意しつつも吹き出したジャックリーン。結構、自信があった拾い食い説はどうやら外れたらしい。無念。



「……で、どうしてそう思ったの?フェリ」

「だってお兄さま、わたくしのこと好いてはいらっしゃらないでしょう?」

「んなっ!?そっ…ばっわっ!?」



 ―――――なんて?

 ため息と共にお茶で口を潤して、呆れたように問うたお兄さまに答えれば、口に入れたお茶が変なところに入ったのか、咽るように奇妙な言葉を吐き出す。聞き取りにくさのあまり、思わず前世の頃のように聞き返してしまうところだった。令嬢らしさをかなぐり捨ててる口調だ。寸でのところで言葉を飲み込んで小首を傾げて先を促そうにも、何故だかお兄さまは項垂れている。ごめん、誰か通訳してくれない!?



「んっんん…僭越ながらフェリシエンヌお嬢様。シャロン坊ちゃんは『なんで!?そんな馬鹿な!嫌ってるわけないだろう!!』と仰ったのかと」



 わたくしの祈りが通じたのか否か。わたくしのよく知る、クールビューティーな方のジャックリーンが通訳を買って出てくれた。その言葉にフムフムと頷きながらも、何故お兄さまがそんな思考に至ったのか、とさらに首を傾げてしまう。



「………わたくし、お兄さまに嫌われているだなんて思ったこと、ありませんわ」

「いや、誤魔化さなくていいよ、フェリ。これは自分で招いた結果だ。…自業自得、だから…」

「誤魔化してなんかいません。お兄さまに好かれているとは思っておりませんが、嫌われているとも思っておりません」



 段々と尻すぼみになり、自分で言った言葉に自分で傷ついたらしいお兄さまにキッパリ言い放つ。これは事実である。というのも、わたくしの自論ではあるが、本当に嫌いな人に対して突っかかったりはしないと思うから。本当に嫌いな人って、関わるのもめんどくさいっていうか…揉め事を起こしたくないって思うから不自然になりすぎない程度に距離を置くものじゃないかな…?その点、お兄さまはわたくしのような可愛げのない妹は好きになれなかったでしょう。けれど、顔を合わせれば嫌味を言ったり、わたくしを見かける度に回れ右で猛ダッシュしてあからさまに逃げたりする程度には嫌ってないでしょうね。そう、思ってたんだけど…どうやらこれも違うらしい。お兄さまって、予測できない生き物なんだなぁ……。

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