31.兄と妹の対話
ご無沙汰しております。
約一ヶ月ぶりの投稿です。お待たせしました。
投稿が遅くなり、申し訳ありません。
突然、舞い戻った我が家の日常はとても賑やかなもので、自然と口元が綻んだ。
「あら、今日はフェリちゃんの好きなものがいっぱいね」ってなんですか、お母さま。あたかも今気づいた、みたいな反応ですけどどう考えてもわざわざ揃えてくれてますよね。間違いなく、お母さまの指示ですよね、ありがとうございます。
お父さま、「そろそろ、シャロンの婚約者を本格的に探さないとな…」とか何の前触れもなく呟かないでください。食事中なのにお兄さまが逃亡を図りますので。っていうかお兄さま、まだ決まっていらっしゃらなかったんですね。
お兄さま、さり気なく今日の予定を教えてくださったのは大変助かりました。ただ、お話できる時間帯を教えてくださろうとしたんでしょうけど、話の導入があまりにも流れるようで危うく聞き逃すところでした。どこで培ったんですか、その話術。今度教えてください。
と、まあそんなこんなで談笑しながら、両親や兄弟達とのゆったりとした食事を大いに楽しんだ。ええ、そりゃもう。何であんな悩んでたのか分からなくなるくらいには楽しかったよ。
そして、そんなご飯を終えた後、一度部屋に戻って身支度を整えてから、今日はお昼まで自由時間だと仰ってたお兄さまのお部屋に向かう。
……あれ?なんかタイミング良すぎない?普通、少しお話しませんかって言ったその日に、都合よく自由時間がたっぷりある?
……ま、まさかね…。まさか、わたくしがお話ししたいとか言ったから今日の予定を全部変更したとか無いわよね…?…え?無いよね?
わたくしは少しの不安と申し訳なさ、そして大きなワクワク感に包まれながら、久し振りに通るお兄さまのお部屋への道をブラッドに運ばれていた。お兄さまが荒れ始めてからしばらくは足繁く通っていたお部屋だけど、ドアの前で追い返されるのと、わたくし自身が勉強に身を入れて忙しくなったのとで足が遠のいていたのだ。
そんな場所に足を踏み入れるのだから緊張も一入……かと思いきや、案外そうでもなかった。むしろ、お兄さまのお部屋のドアを前にして、そう言えばあの頃はお兄さまのこと、きっと寝起きの熊よりも危険だと思ったのよね…なんて思い出している余裕さえある。
やっぱりわたくし、人と比べて変なところで図太いのでしょうね。
だからこそ、なんでわたくしが使用人の陰口ごときであんなに塞ぎ込んでしまったのかが不思議だ。
あ。陰口ごときって言わない方が良いかな。それ一つで使用人の人生って割と決まっちゃうし。
「失礼しますわ、お兄さま」
ブラッドに抱えられたままドアをノックすると、ジャックリーンがにこやかに招き入れてくれた。そうして促されるまま、部屋の主に一言、断りを入れてからお部屋にお邪魔する。
「あ。やっと来たね、フェリ」
「わたくしが言い出したことですのに遅くなってしまってごめんなさい、お兄さま」
「あぁ!違う、違う!!そんな重く捉えないで!ただ久々にフェリと話せるのが嬉しくて待ちきれなかっただけだから!」
「……重く捉えたつもりはないのですけれど…」
わたくしの放った社交辞令的な、口先だけの謝罪に何故かお兄さまはアタフタする。お兄さまの必死の弁明の後のわたくしの呟きすらも聞こえていないであろう慌てっぷりに、思わず首を傾けてしまう。
やっぱり、わたくしが知ってるお兄さまじゃない気がする……。
少し前までのお兄さまなら、まずわたくしが部屋に入った瞬間に遅い!って怒鳴ってただろうし。その後に、自分から言い出しておいて何様のつもり?くらいは言ってたと思う。
何やら事情を知ってそうなマーサに話を聞こうとしても、ご本人から聞いてくださいの一点張り。マーサにしては珍しく、幾ら粘っても教えてはくれなかった。…そう言えば、マーサが何か思わせぶりな事言ってたわね…何だっけ?わたくしとお兄さまの間には言葉が足りないとか何とか…?
いや、まあ…確かにそうなんだろうけど。でも、お兄さま本人が望んだ事だし。とは言っても、こっちをチラチラと伺うお兄さまはどう見ても変わろうとなさってるように見えるし…。
まあ、とにかく話せば分かるか!
…そんな能天気な考えでジャックリーンが出してくれた紅茶に口を付けたわたくしはある重大なことを忘れていた。
そう!今のわたくしとお兄さまはとにかく会話が続かないということを!!
エル先生からある程度の運動を許された翌日なんて、本当に酷かった。久々に面と向かって話すことになったわたくしは酷く緊張して、「お兄さま、最近のご趣味は?」と、ベタなお見合いのような切り出し方をしてしまったのである。
それに対するお兄さまもお兄さまだ。まず、ご趣味は?が脳内で変換できなかったらしく、「ゴシュミ…ゴシュミ……?ゴシュミ…」ってかれこれ五分ほど呟いてたんだからね!?
「ゴシュミ=ご趣味」って理解してからも何て答えれば良いのかと考え込み、結局この時はわたくしの質問一個だけで終わってしまった。会話すらしてねえよ。
さて、そんな限定的なコミュ障のようなわたくしたちの間に訪れるのは沈黙。
……さて、どうしよう…。
何か会話の糸口を探すために、目だけキョロキョロと動かすわたくしとお兄さま。二人揃って同じことしてるとか、やっぱり兄妹ですわねわたくし達。
そしてブラッド。そこで肩を震わせて笑うんじゃない。あなたは真顔決め込んでるつもりなのかもしれないけど、だいぶにやけてるの、丸見えだからね?それと、こっちはこれでも必死なんだから笑うんじゃない。なんか腹立つわ。
脳内でブラッドに盛大に八つ当たりをかましつつ、訪れた静寂に酷く焦っていた。主に、話題どうしよう…と。気まずさに耐えきれずに、手に持ったカップの中で波紋を作り続ける薄い赤褐色の液体を眺めること数十秒。そこに映る、強張った表情で口元に笑みを貼り付けた自分の顔が何故だか妙に恨めしい。
こんな時でもわたくしの表情筋は余裕の微笑みですか、あー、そうですか!
四方八方に当たり散らす自分自身を、頭の端っこの方の理性的な部分が、まるで駄々をこねる子供だ、と評価する。うん、そうだね。これじゃあ本当に駄々っ子みたいだ。
……腹を立てたり冷静になったり…やっぱり情緒不安定だな、わたくし。
紅茶に映ったわたくしがどこか遠い目でフッと息を吐き出した途端、くっ…という変な音が聞こえてきた。何の音だ、と顔を上げたわたくしの目に飛び込んで来たのは、思いもよらない光景だった。
「くっ…くふ…ふふふふ…ふひっ…も…もうひ…申し訳あり…ひひひひひ」
「ちょ…ジャックリーンさん……や、やめてくださっ…ぷぷぷ」
なんと、異音を発していたのはこの部屋にいる二人の使用人――――ブラッドとジャックリーンだった。ブラッドはともかく、不気味な笑い声を響かせて肩を震わせるジャックリーンの姿にわたくしは目を瞠る。
何せ、わたくしの中のジャックリーンのイメージと言えばクールビューティ。お兄さまが突然荒れ出したあの頃も顔色一つ変えずに傍に控えていたお兄さまの侍女。…うん、クール……のはず。
「ジャックリーンっ!!」
何がそんなに面白いのか。ブラッドと二人で笑い転げるその姿を唖然と見つめるわたくしと違い、お兄さまが顔を真っ赤にして彼女を咎める。
あ、そうだ。わたくしもブラッドにちょっとお説教しないと。さすがに、主人たちの間に落ちた沈黙を笑うのは良くないと思うの。
「フェリが怖がるから、その不気味な笑いをやめろって言っただろ!!この前、その笑い声でヴィクターが泣き出したの忘れたのか!?」
「……はい?」
「ふひっ…ふへへへへっ……すみっ…すみまひぇっ…くひひひひ…おふっ、お二人がっ…おんなじことばっかひするもんですかりゃ…あふふふ」
お兄さまのなんかズレてる気がするお咎めに、ブラッドを叱責しようとしていた唇から、間の抜けた音が滑り落ちる。そして、文字通り腹を抱えながら謝罪を述べるジャックリーン…だけど、笑いすぎて呂律が回ってない。言っちゃ悪いが、正直言ってラリってるようにしか見えない。誰だ、彼女に朝っぱらから酒飲ませたやつ。
それよか、一瞬聞き流したけど…泣いたのか、弟よ。
「ぶはっ!あははははは!!だからっ!その笑い方やめてくださいって!!オレ、ジャックリーンさんの笑い声、ツボなんですから!…ブフッ」
遂に、口を抑えることもせずに体をくの字に折り曲げて笑い出したブラッド。
ひいひいと息を荒げながらも不気味に笑い続けるジャックリーン。
二人を子供らしく叱るお兄さまに、呆然と突如生まれたカオス空間を眺めるわたくし。
目をぱちくりさせながらも紅茶を口に含み、現実逃避のようにただ一つ思う。
―――ブラッドとジャックリーン、我が家以外じゃ絶対やっていけないタイプだわ。
ぶっちゃけ、なんだこれ。って作者が思いました、すいません。
一ヶ月お待たせした結果がコレとか普通におかしいと思います、ええ。
今後に繋がる(筈の)要素を入れた結果です。
サブタイに対話ってあるのに、全然対話してねえじゃん!ってツッコミは無しの方向でお願いします。
……自分で散々ツッコミましたので…。
何はともあれ、お待たせしてしまい、本当にすみませんでした。
訳分からん部分も多いと思いますが、今後とも何卒、よろしくお願いします!!




