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29.紅茶と石化と目覚め

 予想とは全く異なる人物の姿に面食らいはしたが、ここで「どちら様!?」などと声に出したりはしない…というかしちゃいけない。我が家では滅多にないが、他家では結構使用人の入れ替えがあるのが一般的らしいから、一々そういう反応をしていると田舎者と馬鹿にされかねないとかなんとか……?ちょっとそこら辺は理解してないのよね。したくないし。

 ただただ、黙って紅茶に口をつけ、「美味しいわ、ありがとう」と微笑むに留める。これが普通。これがベター。

 ……だというのに、何故か一瞬、信じられないものを見たような顔をされた気がするのだけれど。なんで?…もしかしてわたくし、そんなに酷い顔してました?それとも、今までわたくしが微笑みだと思ってやってきたことってバケモノ顔を晒してたってこと?えぇ〜……ショック。


 それはさておき。いや、さておいちゃいけないのだけれど。でもまあ、一旦保留にして。

 今、紅茶を淹れてくれた彼女が誰なのか記憶を探ってみる。……ぶっちゃけ、今のわたくしの記憶って全然アテにならないけれど。お兄さまとの話の食い違いもすごいし……。

 まあ、ともかく!彼女に関する記憶は、『上の空タイム』以前には見当たらなかった。たぶん、間違いないと思う。…ということは、彼女が我が家(ココ)で働き始めたのはごく最近―――『上の空タイム』に突入してからの可能性が高い。

 おそらく、初日に顔合わせはしているだろうけど……例によって人の話を聞いていなかったのでしょうね、わたくし。本当…どうしようもないわ。

 後でお兄さまに彼女のことも聞いておこう。…いや、マーサの方が良いかしら?同じ使用人だし。

 …どちらにせよ、こっそり教えてもらおうっと。


 さて、お次は……。

 石化したお父さまとお母さまよね…。どうしましょう?……ん?あ。石化は解けているのね。良かった。…ただ、やっぱり動揺が大きいらしく、口をパクパクさせてる…。

 まあ、そりゃそうよねぇ。訳もわからず塞ぎ込んで一日の殆どを上の空で過ごしていた娘が勝手に自己完結してピンピンしてるんだもの。二人の反応は正常だわ。

 この場合、わたくしはどうお声がけするのが正しいのだろうか?

 さっきもしたけど、ご挨拶?返事はなかったけど、二回目はクドイって思われる?それとも、何食わぬ顔で世間話?今日もいいお天気ですね、とか?

 うむむ……ここは前置きなしで心配かけてごめんなさいって謝るべきか……。

 うん、よし。そうしよう。



「あの、お父さま、お母さま……わた」



 そこでわたくしの言葉は遮られてしまった。何にか?この食卓に未だ到着していなかったヴィクターの登場に。

 お兄さまと廊下で鉢合わせした時は、みんなを待たせたら申し訳ない!って思ってたんだけど…。よくよく考えたら、ヴィクターがいるんだからそんなに急がなくても良かったのよね…。っていうことに、ブラッドが椅子に下ろしてくれたから気付いた。


 低血圧なのか、ヴィクターは朝に頗る弱い。起きて歩いている間も、使用人に手を引いてもらわないとどこかで二度寝してしまうくらいに。歩いてても、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ……。見ていてハラハラするのよね。

 だいたい、朝食を食べている途中で意識が覚醒するらしく、そこからは普通だ。まあ、そこまでが長いこと、長いこと。最長で、ベッドから降りて三時間程はずっとこっくりこっくりしていたこともあるらしい、とお母さまに聞いたことがある。そんでもって、ヴィクターの覚醒を早める手段が一つだけあるんだとか…。

 気になって聞いたら、お茶目にウィンクしたお母さまに、なーいしょ!と言われてしまった。お母さま、可愛かった…!その後はいくら聞けども、簡単にはぐらかされてしまうから、知るのは諦めた。

 ちゃんとヴィクターが起きてくれるのなら、それで良いの。階段から落ちる危険もないしね。



「ねーさまぁ……おはよぉ…」

「おはよう、ヴィクター」



 寝ぼけ眼を擦ってトテトテとわたくしの元へ駆け寄ってきたヴィクターは、そのままわたくしの膝に抱きついて挨拶をする。

 …本当なら、公爵家当主であるお父さま、公爵家夫人であるお母さま、そして嫡男であるお兄さまと来てからのわたくしなのだろうけれど…この子は何故かその順番が逆だ。

 何度言っても治しやしない。挙句には、お父さまとお母さまが揃って「このままでいい」なんておっしゃるから、結局、ヴィクターの挨拶はわたくしスタートなのだ。



「ねーさま…今日はげんき…?」

「えぇ。ありがとう、ヴィクター。

 さ、お父さまたちにもご挨拶なさい?」



 夢現つ、とでも言えばいいのか。とろんとした目でわたくしの心配をしつつ、そのまま膝の上で眠ってしまいそうなヴィクターの肩を軽く叩いて起こし、お兄さまの方へ向かわせる。若干、拗ねたような顔をしたものの、ヴィクターは先ほどよりもしっかりとした足取りでお兄さまの元へと向かった。


 ……ヴィクターのお陰で思わぬ前置き?ができた!!

 よし。ちゃんと謝ろう。

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