表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/43

27.信仰心と誓いと兄

「お嬢様ぁ、さっきのアレ、どういう意味ですぅ〜?オレ、期待しちゃいますよ?しちゃって良いんですかぁ?」



 朝食を摂るために食堂へ向かう道すがら、目をキラキラと輝かせたブラッドがもう何度目になるかも分からない質問を投げてきた。その隣を歩くメアリーも、口には出さないものの、どこか嬉しそうに頬を紅潮させている。マーサは別の仕事があるとのことでここにはいないが、彼女もとても優しく笑っていた。



「さっきから言っているでしょう?ブラッド。わたくしだって偶には素直になりたいわ」



 どういう意味か、なんて聞かれても言葉通りの意味だ、としか言えない。思ったことをそのまま口にしただけ。説明なんてできやしない。深い意味なんてないのだから。

 だけど、今までこれから仲良くしましょう、の意味でよろしくと言ったことはあっても、これからもずっと一緒にいてね、の意味でよろしくと言ったことはなかった。いくら使用人とは言え、彼らには彼らの人生があるのだから。わたくしが勝手に縛り付ける訳にはいかない、と思ってきたから。

 その点で言えば、ブラッドのように疑り深くなってしまうのは仕方のないこと……なのかもしれない。



「お嬢様はいっつも素直だと思いますけどね〜。

 で、お嬢様!ほんとに、ほんっと〜に!これからもずっと、オレらがお仕えしてもいいんですか!?

 オレらみたいな暗殺者が、お嬢様のお側にいていいんですか?

 ずっと……ずーっと、お嬢様のお側にいちゃいますよ?」

「なら好都合だわ。あなたたちは使用人である以前に、わたくしの初めての友人だもの」

「嬉しいこと言ってくれますねぇ」



 何度も繰り返される質問に、くどい!!と叫びそうになるのを飲み込んで笑いかけると、ブラッドは満足そうにニンマリ笑う。んふふ〜、とご機嫌に笑うブラッドは今にもスキップし出しそうで少し怖い。何せ、今はブラッドに抱っこされているんだからね。

 まあ、ありがたいことに、メアリーが随時釘を刺してくれているからブラッドがスキップをし出すことはないんだけれども。



「もちろん、あなたたち自身の幸せ優先よ?何か理由が…例えば結婚したとか…何でも良いのだけど。辞めたいと思ったらすぐ辞めてくれて良いのよ?」

「ありがとうございます、お嬢様。けれどお嬢様に仕えることこそが、私たちにとっての幸せ。故に、先程申しました通り、私たちは例え如何なる理由があろうとお嬢様に仕えさせて頂く所存です。神に誓っても良いと思っております……まあ、神とやらの存在は信じておりませんが」

「あらあら」



 ふにゃふにゃと笑っているブラッドに代わって、真顔のメアリーが答える。神さまを信じていないのなら今のは誓えていないわよ、なんて冗談めかして笑えば、メアリーは焦ったように目をキョロキョロさせた。…めっちゃ目が泳いでる。珍しいこともあるわね。

 まあ、メアリーの言いたいことは分かる。どんなことがあっても側にいてくれるって、そう言おうとしてくれたんだろう。それはすごく嬉しいことだ。


 ただ一つ下になるのが……メアリーとブラッドはいつまで互いの服を交換したままでいるんだろうか。



「あっ……」



 不意に声がして顔を上げると、そこにはぽかーん、としたお兄さま。……いや、ぽかーん、と言うよりもなんか…唖然としてるんだけど、こちらを気遣うような……複雑な表情を浮かべていらっしゃる。そして、そのお兄さまの側には、お兄さま付きの侍女であるジャックリーンの姿。

 なんか、二人の姿をちゃんと見たの、久々な気がする。ちゃんと毎日会っているはずなのに、おかしな話よねぇ……と、若干の現実逃避をしながら、わたくしとお兄さまは揃って無言になる。


 正直、わたくしは今のお兄さまとの距離感を測りかねている。

 わたくしが目覚めたあの日から、性格が180度変わってしまったお兄さま。そんなお兄さまの豹変ぶりに、わたくしは未だに戸惑っているのだ。何がきっかけでそうなったのかも分からないし……。


 最初の頃は、二、三日もすれば元に戻るだろうと思っていた。またあの冷めた目で見てきたり、舌打ちされたりするんだろうなぁって。

 ところがどっこい。二、三日どころか、一週間、二週間と時が流れ、何日経ったか数えなくなった今でも、お兄さまの態度は変わらない。

 以前までのが嘘のように、むしろ少し過保護なくらいにわたくしに構ってくれるのだ。…いや、わたくしだけじゃないか。ヴィクターやアンにも同じように。つまり、何処からどう見ても、『いいお兄ちゃん』なのだ。普通に考えれば諸手を挙げて喜ぶことなのだろうが、わたくしは得体が知れなくて少々……その…苦手、かもしれない。お兄さまと会うたびに、こうして沈黙が流れるのも理由の一つかもしれないが……。


 ど、どうしよう……。いいのかな?前と同じように普通に挨拶すれば良いの?いや、前までどうやって挨拶してたっけ?と、とにかくグイグイいけばいいの?

 ええい!!先手必勝!!先に話しかける!!というか、挨拶して一言二言加えれば良いでしょ!!



「おはようございます、お兄さま。今日はいい天気ですわね」

「あ……っと…おはよう、フェリ。

 たしかにいい天気だけど…ここ最近はずっと快晴だったよ?」

「あら。そうでしたっけ?」



 わたくしの記憶だと、ここのところずっと曇りだったと思うんだけどなぁ……。部屋の日当たりの違い?…そんな訳ないだろうし……なんなんだろう?



「あの、フェリ。もう、大丈夫なの?」

「え?何がですか?」

「いや。ここ最近、元気なかったでしょう?どんなに話しかけても上の空で、ええ、とか…はい、くらいしか喋らなかったから」

「え?」

「ん?」



 心配そうに眉を下げてわたくしを見るお兄さまの言葉に引っかかりを覚えて首を傾げる。すると、お兄さまもどうかした?と言わんばかりに首を傾げた。

 上の空?わたくしが?

 たしかに、少し周りを気にしすぎて色々考え込んでしまっていたが……応答はしっかりやっていたはず。加えて、なるべく普段と変わらないように振舞っていたつもりだ。

 ……なんか、面倒ごとな予感が……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ