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25.変装と似た顔

 大泣きしたわたくしが落ち着くのを待ってから三人は驚くほどテキパキと朝の支度を始めてくれる。驚異のスピードで必要なものを用意していく三人の間に言葉はない。全てアイコンタクトで意思疎通ができているのだ。なんと無駄のない動き……!



「そんじゃあ、オレは外で待って…あ。何か、お嬢様の目ぇ冷やせるもん持って来ますねぇ」



 マーサが選んでくれた、ワンピースタイプのドレスに着替えよう、というところで冒険者風の装いの護衛がそそくさと出て行こうとする。なんとも珍しいその光景に目を見張る。



「あら。今日はメアリーが外の護衛なの?」



 珍しいわね、と言った瞬間、マーサが驚いたように動きを止めた。それはもう、ピタッと。そこだけ時間が止まったみたい。

 対する冒険者風の装いの護衛、メアリーはスッ…と表情を消し、お仕着せ姿の護衛、ブラッドは無表情を崩してへにゃっと笑う。



「あー…やっぱ、お嬢様にはバレてましたかぁ。今日一日は入れ替わりしようと思ったんですけどぉ」

「あら。あなたたち、眼帯を着けている目が左右逆じゃない。すぐにバレるんじゃないかしら?」

「やー。それが、バレないんですよぉ〜。お嬢様が本日初めてですよぉ」



 楽しそうに笑顔を見せるブラッド。…ただし、お仕着せなので違和感がすごい。

 ブラッドにお仕着せが似合わないとかじゃなくて…むしろ、似合ってるんだけど…。なんだろう…無表情がデフォルトなメアリーがにっこにこ笑ってる感じで…視覚と記憶が一致しない。

 それくらいそっくりなんだ、この二人は。眼帯が無かったら絶対見分けるのが大変よ。



「案外、眼帯って目安にならないんですね〜」

「だってあなたたち、本当にそっくりだもの。わたくしだってぱっと見じゃ分からないわ。

 ……そう言えばあなたたち、いつもの入れ替わりだと眼帯を着けている目まで真似ているわよね?どうやっているの?」

「簡単な話ですよぉ?傷跡をメイクで隠して、いつもとは逆の目に眼帯着けるだけ!

 屋敷の中なら目ぇ閉じてても歩けますしぃ。暗殺者時代の訓練の賜物で、人の気配には敏感ですしぃ」



 以前聞いた話では暗殺者には変装技術も必要だったらしく、メイクが無駄に上手いことは知ってた。だがしかし。目隠しした状態で普段と変わらずに動くって、それ人間離れしてないかしら?眼帯の下って義眼よね?え?無理。わたくしだったら一歩踏み出したらその瞬間止まるわ。


 と、いうか……。いつも思うのだけれど、ただいまの挨拶がわりに何かしらイタズラするの。あれは何でなのかしらね?ブラッドがやりたがるらしいけれど……。

 まあ、遊びくらいならいいのよ?ただ…暗殺者時代に培ったものを総動員させて、ガチでドッキリ仕掛けるのはやめてほしい。お父さまが嘆いていたわ。


 そして、わたくしとブラッドの雑談の間にも働く手を止めないマーサとメアリー。

 マーサは鏡の前に椅子を移動させていて、メアリーはいつの間にやら氷嚢を持って来てくれていた。

 メアリーの持ってきてくれた氷嚢がわたくしの手に渡ったところで今度こそブラッドが部屋を出て行って着替えが始まる。

 脱ぎ着しやすい寝衣を脱いで、これまた脱ぎ着しやすいドレスに着替える。他のご令嬢のように立った状態で調節ができないから、あまり複雑なものは着ていない。コルセット?もちろんできないよ?まあ、コルセットなんて普段から着けるものじゃないけれど。


 流れるように着替えさせられて、シワにならないよう、ドレスを伸ばすと見計らったかのようにドアをノックされる。足音なくドアに近寄ったメアリーがそこを開け、ノックした本人であるブラッドを部屋に招き入れる。そしてブラッドはそのまま一直線にわたくしの所まで来て、一言断りを入れてから鏡の前の椅子まで運んでくれた。

 見てください、このスムーズかつスマートな統率の取れた無駄のない動き!!三人はもしや、テレパシーでも使えるの?


 その間、わたくしがしていたことと言えば、氷嚢で腫れてしまった目を冷やすことだけでしてよ!氷嚢が冷たくて指先がかじかむ。当たり前のことなんだけどね。それでも指先が痛むのを我慢しながら氷嚢を目元に当て、腫れが引くように努める。うぅ……寒い。


 鏡の前に座らされ、マーサに髪を整えてもらっていると、メアリーが何かに気付いたように、あら…とこぼした。



「お嬢様。耳飾りをつけていらっしゃるのですね。初めて見ました」

「耳飾り?」



 耳飾りなんて着けた覚えがないのだが……。そう思った瞬間、マーサの手がその耳飾りに触れたのか、耳元からリィン…と金属の打ち合う音が聞こえる。不安になっていた時に、何度か耳にした音。なるほど、あれはわたくしの耳元から出ていたのか。

 先程までなら心地よかっただろうその音も、今はなんだか不気味で。少しだけ疎ましく感じるそれを聞きたくなくて、髪を整え終えたら外すよう、マーサに頼む。すると、マーサは申し訳なさそうに眉を下げた。



「申し訳ありません、お嬢様。その耳飾り、何故だかは存じませんが、幾ら外そうとしてもできないのです」

「あらぁ……」



 なんだかみょーに嫌な予感がするなぁ……。

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