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22.暗殺者と、出会い

 私の片割れの所為でだいぶ話が逸れてしまったが、旦那様に全てを報告し終えて部屋を退出する。その足で目指すは我らが主の元。既に寝ていらっしゃるだろうが、一目見るだけで良い。もう何週間もお姿を拝見できていないのだから。……禁断症状出る。

 やっと、やっとだ。この瞬間をどれだけ待ち望んだことか!!

 ウキウキとした浮ついた自分の足取りに、はたと我に返る。と言うのも、お嬢様関連のことになると私以上に反応するはずの片割れが珍しく難しい顔で黙り込んでいたからだ。そう、珍しく。



「……何か気になることでもあんの?」

「んあ?…あーと……いちおー、お嬢様のこと…?」



 旦那様に報告した、あの事故について。あれは確実に仕組まれたもので、その手口にも少しだけ心当たりがある。だから、てっきりそれについて考えてるのかと思ってたら、片割れの口から飛び出したのは意外な言葉。

『お嬢様』。その単語に過剰に反応して足を止めてしまう。


 確かに、私の予想が正しければ暗殺者(アイツ)は自分の仕事の邪魔をしたお嬢様を放っておかないだろう。だが、それがどうした。アイツは基本他力本願で、自身の戦闘能力はかなり低かったはずだ。私たちが本気を出さずとも仕留められる。


 他に、何か心配になるようなことがあっただろうか。



「あー…あのさ。オレら帰って来たの一昨日で、昨日と今日休みだったろ?」

「はぁ?何言ってんのよ、馬鹿。今日の午前中まで報告書の作成、午後は書類の不備と情報の確認よ。……どっかの誰かさんがさっさと逃げるから私一人でやることになったけど」



 吐き捨てる私に、片割れはきょとんとする。私と同じ、毛先にかけて青が強くなるブルーグリーンの髪を揺らしてそうだっけ?言いやがる。こいつ…また…っ!!

 昔っからそうだ。仕事は真面目にこなしても、その後処理は全部私。自由奔放で、子どもみたいにウロウロして……振り回されるこっちの身にもなれっての!!



「んっと…そんで、昨日今日ってずっとお嬢様の身辺警護してたんだよねぇ。あ、もちろん、隠れてだけど」

「はぁ!?アンタ、私に報告書のこと丸投げしてお嬢様の所行ってたの!?なにそれズルイ!!」

「ごめんて〜。でも、何個か気付けたことあってさー。

 なんかねぇ……お嬢様、全然元気ないんだよね〜…てーか、怯えてる?感じするしー。なんか変なのがお嬢様の周りウロチョロしてるしー」



 誠意のせの字すら感じられない、口だけの謝罪をする姿に苛立って蹴り上げてやろうか、と構えた足をすぐに降ろす。片割れの言葉が信じられなかった。

 怯えてる?お嬢様が?何に?

 暗殺者(わたしたち)を前にしても笑ってたお嬢様が?

 ふと思い出したのは約二年前。お嬢様に……我らが主たるあの人に初めて出会った時のこと。


 この世界では、私たちのような男女の双子は『忌子』とされている。年若い貴族の、婚約もしていない男女が密室に二人きりになるのを厭われるように、母親の(はら)という密室で男女が共にいるから『卑しい』のだそう。

 馬鹿馬鹿しい。自分ではどうしようもないことなのに、生まれたのが二人で、しかも男女だったから忌子だなんて……。頭悪いんだとしか思えない。

 そもそも、なんで貴族の考えが平民にまで下って風習になってるのよ。


 深く根付いた風習のお陰で、私たちは物心つく前に捨てられた。…殺されなかっただけマシなんだろうけど、私たちを拾ったヤツも、これまた頭がぶっ飛んでた。

 私たちを拾ったのは「デステ教」の教祖、デステ。「人は皆、等しく力を持ち、それを主張する権利がある」だなんて言ってデステを祭り上げた、変な集団。

 だけど、それは仮初めの姿。実際のデステは教祖なんかじゃなくて、ただの暗殺の仲介人。

 孤児や下級層の人間、捨てられた奴隷を拾ってはデステの仲間が立派な暗殺者に育て上げる。それで、依頼が来れば暗殺者(わたしたち)を送り込む。


 逃げたくなったこともあった。けれど、逃げられなかった。抜けたら稼げなくなるし、何より命が惜しかった。

 拾われた日のうちに私たちは全員、とある毒を体に入れられた。なんかよく分からないけど、すごく特殊なそれは、毎日決まった時間にとある薬を飲まなきゃ死ぬってやつ。その薬を持ってたのだってアイツらだけだったし、暗殺者にされた時に変な術をかけられてた。裏切ろうとすると爆破される、そういうやつ。実際、そうやって死んでいくヤツは山ほど見てきた。


 そんな中でグラッツェル公爵の暗殺を依頼された。長期任務ように渡された薬の数はギリギリで…。失敗したら帰ってくんなってことか、なんて自嘲してしまったのを覚えている。

 そこに現れたのが当時四歳だったお嬢様。なんて事の無いように現れてちょちょいと私たちに施されていた術を解いてしまったのだ。これには唖然とした。

 曰く、本で読んでいたから解除が可能だったのだそう。いや、いやいやいや……!!

 公爵家は娘に一体、何を教えていると言うのか!!

 そう、うんざりしたのを思い出して乾いた笑いがこぼれ出た。

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