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シルヴィ・ハートは魔王の子である。認知は多分されていない  作者: たけのこ
皇国政変編

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48/80

46.ギクシャク

不穏なサブタイトルだぁ……


「シルヴィちゃんさっきのアレなに!!!???」


 野営地に戻るや否や強烈な剣幕で自身に詰め寄る優希にシルヴィは面食らう。

 指が食い込む勢いで肩を掴まれ、顔がくっ付きそうなくらい間近で問い質されて目を白黒させる。


「なになに? どうしたの?」


「何かあったのか?」


 息を切らして慌てたように戻って来たかと思えば、急に優希がシルヴィを大きな声で問い詰め始めたのを見てルゥールーやジェシカも何事かと意識を向ける。

 優希の怯えようは尋常ではなく、滝のように汗を流して全身を震わせていた。その様子に二人も「またいつもの奇行を叱られている」などと呑気に構える事は出来ない。

 そしてシルヴィ自身、なぜ優希がそこまで怯えているのかが全く分からず、自分からは「不思議な人」としか説明できずに困ってしまう。


「はいはい! 二人とも一旦落ち着いて! ね?」


 そんな冷静ではない状態を見て、ルゥールーが手を叩きながら意識を自分へと向ける。

 質問する側の優希が冷静ではなく、そしてされる側のシルヴィも困惑している状況ではまともな情報は出て来ないだろうと。


「とりあえず、二人が体験した事をそれぞれの視点から教えて貰おうかな」


「そうだな、それが良いだろう」






「ふ〜む、これは……」


「見事に印象が食い違うね」


 二人からそれぞれ事情を聞き出したルゥールーとジェシカは揃って首を傾げる。

 シルヴィの言葉を要約するのなら「不思議な気配がして、顔が覚えられず足下が面白い青年」という事になり、その人物を優希から見ると「見るだけで魂の奥底を掻き乱される様な、絶対に目を合わせてはいけない黒色がシルヴィちゃんを覆っていた」となる。

 全く同じ存在について話しているとは到底思えず、けれども二人共に話す際は真剣だったのでさらに分からない。


「悪魔、か……?」


「その可能性はあると思う」


「しかしシルヴィは神聖な気配もしたと言いますが」


「悪魔が元はどんな存在だったのかを考えれば、そういう気配を纏う者が居てもおかしくはないと思う」


「なるほど、少なくとも安易に否定できる説ではないですね」


 仮にシルヴィと優希の二人が出会した存在が悪魔だったとして、どうしてこんな場所に現れたのか、その目的が何なのかを考えると穏やかではいられない。

 どうしてシルヴィ達が見逃して貰えたのかも不明だし、あまりにも不可解な点が多すぎる。


「悪魔が出たのですから、夜間の行軍になりますが早急にこの場を離れた方が良さそうです」


「だね、悪魔と戦闘になるより徹夜で歩き続けた方がマシだし」


「ともすれば、皇国の混乱も悪魔が関わっている可能性も……」


「否定は出来ないと思うよ」


 とりあえずの結論が出たところで、未だに優希を元気付けようと空回るシルヴィを止めにルゥールーが近付いていく。

 優希自身はもう落ち着いているというのに、自分が原因で不安定にさせたと思っているシルヴィが彼女を笑顔にさせようと曲芸を披露し始めているからだ。

 優希も自分が取り乱したせいでシルヴィが必死になっている事は分かるからか、微妙な表情で付き合ってあげているのがルゥールーには少し面白く感じられた。


「二人とも〜! この野営地は引き払ってこの場を離れる事にしたから準備して〜!」


「! あっ、はい! 分かりました!」


「わかった」


 シルヴィとしてはここからが本番だっただけに優希に大技を披露できなくて残念ではあったが、彼女がこの場を離れると聞いてホッとしている様子を見て仕方ないと諦める。

 シルヴィが何よりも優先するべきは優希の身の安全と、心の安寧であるからだ。






【――光を(ルーメン)


 辺りが暗くなってきた頃――カンテラの灯りだけでは心許ないと判断したのか、シルヴィが祝祷術で光を生み出す。

 たったそれだけで、それまで首の後ろを舐るように絡み付いて来ていた視線や悪寒が遠ざかっていくのをその場に居た全員が感じ取った。


「……凄いな、これ程か」


「今ので邪な存在は殆ど消えたね」


 本来ならば月明かりのない夜道を歩く際に生み出す即席の灯りでしかなかったが、シルヴィの祈りによって生じる光はそれだけに留まらない。

 実体を持たない悪霊、悪意の吹き溜まり、狡猾な魔獣……夜間の行軍が避けられる理由の一つにこれらの醜悪の存在が挙げられるが、それらがシルヴィの光に照らされて怯えるように逃げていく。

 この場で一番そういった感覚に鈍い優希でさえも、何かしらの危険が去ったと何となくで理解してしまったくらいだった。


「ふふん」


 シルヴィとしては暗かったから灯りを付けただけ、という認識でしかなかったので突然三人から賞賛の目を向けられる理由は分からない。

 けれども、理由は分からずとも自分は何か褒められている事は理解したシルヴィはここが決め時とばかりに迫真のドヤ顔を披露する。

 気持ち高く顎を上向かせ、偉そうに両腕を組んで見せる……が、シルヴィにとっては迫真でも、他の三人から見ればいつも通りあまり表情が動いていないので「あ〜、なんかドヤってるな」というくらいしか伝わってはいなかった。


「シルヴィちゃんは凄いね」


「ユウキもやってみるといい」


「私も?」


「そう、このくらいなら出来るはず」


 二人の会話を聞いてルゥールー達は「そういえば」と、優希も祝祷術を少しだけ使える事を思い出した。思い出したが故に「シルヴィと同じくらいは無理だろう」とも思った。

 だが今ここでそんな事を指摘しても意味はないし、仮に優希が一人で落ち込んだ場合は慰めようと考えていたが――その予想は覆される。


【――光を(ルーメン)


 優希が祈り、生み出した輝き――シルヴィの闇を祓うのとは違い、見る者の心に勇気と安らぎを齎した。

 優希の上達具合を呑気に喜ぶシルヴィと、また自分の生み出した光が何なのかに無自覚なままシルヴィの様子に照れる優希。

 そんな彼女達を見ながら、ルゥールーとジェシカは無言で顔を見合わせる。


「……ルゥールー様の父君もこの様な祝祷術を?」


「……いや、お父さんは祝祷術を使わなかったから分からないかな」


 シルヴィはまだ分かる……魔王の血を引き、歴代最優と名高い聖女ダイナの後継者と言っても良い存在だからだ。

 しかし優希の存在が分からない。彼女はシルヴィと違って特殊な生い立ちも無ければ、祝祷術の修行を始めてまだそこまでの年月は経っていない。

 その特異な祝祷術が異世界人である事に由来するならば話は簡単だったが、彼女一人しか例が無いのであればそれだけで片付けて良いものか分からない。

 この中で一番祝祷術に精通しているであろうシルヴィが何も言わないのであれば、自分達が知らないだけで割と普通の事なのかも知れないが、シルヴィは自分以外の使い手は元聖女のダイナしか知らないだろうし、彼女自身も常識知らずな面がある。


「おかしいなぁ、光の祝祷術は暗がりを照らすだけの奇跡だった筈なんだけど」


「私も一応使えはしますし、他にも使い手を多く知っていますが、全く別の効果まで齎す例は存じませんね」


「うーん、やっぱりユウキちゃんにも何かあるのかなぁ?」


 暗がりに浮かぶ光球の形を変えて遊ぶ練習をする少女達を見守りながら、年長組は揃って頭を悩ませる。

 本人にも正体が分からず、自覚のないまま振るわれる力ほど厄介なものは無いからだ。


「ちぃと能力があるのかも分からないっぽいし、自覚のないまま覚醒しちゃうと厄介だなぁ」


「魔王の子による事故は数多の例がありますからね」


「ユウキちゃんの身にそれが起こるのが怖いんだよねぇ……ただ単に祝祷術の才能があっただけ、っていうんだったら別に良いんだけど」


 ルゥールーは自身の父親が使っていた異能の中で、優希に当てはまりそうな物を思い出していく。

 自らが生み出す物……料理や武具に特殊な効果を付与する物があったが、それだろうかと。


「はぁ、ギルちゃんと合流する前に検証しないとね」


「苦労が絶えませんね」


「まぁ、この中で私が一番のお姉ちゃんだからね、しっかりしないと」


「……失礼ですが、ルゥールー様はお幾つになられましたか?」


「今年で21歳だけど」


「……」


「……」


「……おめでとうございます」


「……なにが?」


「……」


「……」


「…………」


「…………」


 二人は暫くギクシャクした。

いや、お前らがするんかーい!(ズコッー)


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― 新着の感想 ―
[一言] 女性相手に年齢の話題だからね、ギクシャクしても仕方ないよね。
[一言] 受けた印象が違いすぎてシルヴィちゃんと優希ちゃんがギクシャクするのかと思ったらそっちだったかーw
[一言] 優希ちゃんにも特異性があるのが良かったのかどうなのか…… シルヴィちゃんの本気の曲芸はちょっと興味ある(笑)
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