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【コミカライズ・書籍化】私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
番外編

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番外編4 キンじられた遊び

子イリス、子ニジェルのお話です。

 そうだ! 納豆を作ろう!


 イリスは思い立った。


 先ほどまで、母の話に付き合っていたイリスだ。

 最近、土痘のワクチン接種などで、お忍びで下町へ出ているイリスをいぶかしがって、母がイリスとお茶の時間を設けたのだ。


「イリスちゃん、昨日もお出かけしていたと聞いたけれど」


 イリスは目をそらす。


「あ、ええ、あの、魔導宮に行っていました」

「あいかわらず勉強熱心なのね」


 魔導宮に行っていたのは嘘ではないが、なんとなく後ろ暗い。


「でも、魔導宮ではストライキもあったんでしょ? 変な研究もしていると聞くから、心配なの」


 母の言葉にギクギクするイリスである。それらの騒ぎの中心にいるのは、他でもないイリスだ。


「そ、そうですね、気をつけます……」

「私もなんだか体調が悪いし」

「え!? だいじょうぶですか? まさか、土……」


 身を乗り出して尋ねてくるイリスに、母は苦笑いする。


「違うわ! そんな大げさなものではなくて、なんとなく胃のあたりがムカムカするのよ……。ストレスかしらね?」


 チラリと娘を見れば、イリスは緑の瞳を心配そうに揺らめかせた。


「お身体、大事になさって下さいね。お母様」


 心底心配そうなイリスの表情に、母は内心ガッカリする。


 少しは家で落ち着けという意味だったのだけれど、イリスには全く意味が通じてなさそうね。


 物憂げにため息をつく母を見て、イリスは思ったのだ。




「そうだ! 納豆を作ろう!」


 イリスの言葉にニジェルは目をパチパチとさせた。


「ナットウ?」

「うん、元気になる食べ物なの! お母様が最近ストレスで体調が良くないみたいだから」

「ふーん、よく知ってるね」

「あ、え、ま、魔導宮の古い本で見かけたかなぁーって」


 イリスはあさっての方に視線を泳がせた。もちろん嘘である。


 ここハナコロの世界は、乙女ゲーム設定の関係上なのか、可愛くないアイテムは粗雑に扱われている。

 そのため、納豆は存在しないようなのだ。少なくともイリスの知る限り、納豆を売っていると聞いたことはなかった。


 なければ作ればいいのよ!


 そういうわけで、イリスはレゼダをかくまった小屋にいた。


 イリスは前世のテレビで手作り納豆の作り方を見ていた。

 大豆に納豆を混ぜればできる、おおよそそんな記憶だ。


 簡単そうだし、すぐできそう!


 イリスは楽観的に考えていた。


 暖炉をつけて室内を暖める。

 もらってきた藁にふかした大豆を入れて、パン種といっしょに包んだ。

 納豆がないため、当然ながら納豆菌もないのである。

 イリスは代わりにと、別の発酵食品とともに大豆を包むことにしたのだ。ヨーグルトやチーズもいっしょに包んでみた。同じ発酵食品でも、ヨーグルトやチーズは、乙女ゲーム検疫をすり抜けたらしい。


 おんなじ菌同士、どれか一つくらい成功するでしょ?


 生前からの大雑把おおざっぱさは、侯爵令嬢に転生したところで変わりようもなかった。


 あー、納豆を思い出したら懐かしくなってきた。納豆キムチ食べたい。納豆が成功したらキムチも作ろう! 刻みタクアンと納豆もいいのよね。そして、ゲームが無事に終了したら、田舎の領地に引きこもって、漬物屋さん開こう。


 グフグフと笑いながら、藁に大豆を包む姉をニジェルは戦々恐々として眺めていた。



 暖炉で暖められた小屋の中で、藁に包まれた大豆たちは二晩を過ごした。


 ついに納豆になったか確認だ。


 蒸し暑い部屋の中で藁を開き、イリスは頭を抱えた。


「ノォォォォォォ!!」


 ビクリ、ニジェルが後ずさる。


「ど、どうしたの? イリス」

「いえ、これはたまたまよ、うん、そう、たまたま、ほかのも確認しなきゃっ!」


 イリスは汗だくになりながら、目を血走らせて次々と藁を開いていく。

 その勢いにニジェルは固唾を呑んで見守るばかりだ。


 本当はもう部屋に戻りたい……。でも、この状態のイリスを放置するのも危険だ。


 ニジェルはちょっと泣きたくなった。

 イリスはすごく泣きたかった。

 すべての藁を開け、力なく膝をつく。


「……どうして……こんなことに……」


 イリスはうなだれた。


「どうしたのイリス?」


 ニジェルが恐る恐る問いかける。

 イリスはウルウルとした目でニジェルを見つめた。雨上がりの若葉のように潤んだ瞳に、ニジェルは思わず可愛いと思ってしまう。


「あのね」


 そうやってイリスがニジェルに見せたのは、藁の中に詰まった大豆である。

 しかし、その大豆は、なぜかピンク色のクモの糸のようなものに覆われて、キラキラと輝いていた。


「これが、ナットウ?」


 イリスはフルフルと頭を振った。

 乙女ゲーム仕様なのかなんなのか、納豆の白い糸はピンクになり、しかもキラキラエフェクトまでかかっている。しかし、ゲームがそこまで頑張っても、可愛くはない謎アイテムが爆誕していた。


「ピンクの……カビ?」


 ニジェルは恐ろしいものでも見たように目を背けた。


「いや、でも、見た目が違うだけで、食べたら……いがいにおいしいとか……」


 イリスはゴクリとつばを飲み込んだ。


 これを食べるのは、かなり勇気がいる。結構勇気がいる。


 クン、と匂いを嗅いでみる。匂いは……臭かった。


 ゲーム補正がかかるのは見た目だけなの!? 腐ってる系の匂いよね?? いわゆる納豆的な? いける? いけるの?


 イリスは覚悟を決めた。


 うん、だいじょうぶ。だって、食品の菌で発酵してるはずだもの。多分、安全!!


 イリスは自分を鼓舞した。そして、ピンクの糸に包まれた、納豆だったものをむんずと掴み、口に押し込んだ。


「イリス! やめっ!!」

「~~!!」


 口元を押さえて撃沈するイリス。


 

・・・ お知らせ 赤カビは食中毒を起こす危険性があります。絶対に食べないで下さい ・・・




「……だいじょうぶ? イリス」


 哀れむニジェルに、イリスは涙目で笑う。


「失敗だったみたい」

「うん、そうだと思ったよ……。あんなピンクのカビ、初めて見たもん」


 ニジェルはイリスの肩を抱き、慰める。イリスはニジェルの腕の中でブツブツと呟いた。


「嘘ついた罰が当たったのかしら? でも、発酵させることは可能だってわかったから、納豆は無理でも、味噌みそはいける? こうじ菌を探してきて、ソージュ様の魔法でワンチャン……」

 

 ニジェルは懲りないイリスにため息をついた。


 これじゃ、お母様のストレスは倍増だと思う。

 イリスが大人しくしてさえいれば、いいだけなんだけどな。


 ニジェルは思いつつ、口には出さないのだった。

本日5/5、『私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!2』発売日です!

初めての完全書き下ろしです。

よろしくお願いいたします。


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