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【コミカライズ・書籍化】私が聖女?いいえ、悪役令嬢です!  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
本編

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61 メリーハッピーな世界


 レゼダに送られ家に戻ったイリスは、両親の狂喜乱舞に慄いた。

 早朝にもかかわらず、レゼダを迎え入れ朝食まで用意すると言い出した。レゼダもレゼダで当然の顔をしてくつろいでいる。


「な? 何事?」


 ニジェルは残念な子を見るような眼でイリスを見て、こめかみをグリグリと押しながらあからさまな溜息をつく。


「何事って、イリス……。男性と朝帰りなどしたら婚約したと言っているようなものだよ。知らないわけじゃないだろ?」

「へ?」


 イリスは驚いてレゼダを見た。レゼダはニッコリと笑って頷いた。


 イリスにしてみれば子供の頃から家を抜け出し、朝帰りすることなど珍しくなかったからだ。土痘の流行時には、チェリーと魔導宮の者たちと一緒に夜を徹して対処に当たったこともある。

 さすがに男性と夜を共に過ごすことが、婚約につながることくらいは知っていた。しかし、いつも通りミントがチェリーとお出かけから帰って来た、という気分だったのだ。


 しかし、父をみれば「昨夜はお楽しみでしたな」とでも言いだしそうな顔をしている。

 自分で脱着不可能な豪華なドレスで、馬車の馭者ぎょしゃも一緒に丘へ行った。そんな見方をされるとは思いもしないイリスである。


 イリスは冷や汗をかいた。慌てて頭を下げる。


「あ、レゼダ様、すみません。誤解がおきているようで」

「誤解ではないから大丈夫だよ」


 レゼダの即答にイリスは混乱した。レゼダとの約束は、イリスが聖なる乙女に選ばれた暁には、正式に結婚を申し込むというものだったはずだ。


「でも、私、聖なる乙女ではないですし」

「聖なる乙女でなくとも問題ないでしょう?」

「でも」

「君は以前、僕の傷になりたくないと断った。蹴落とす理由になりたくないと」


 忘れてはいない。レゼダのことが大切だからこそ、自分の存在がレゼダの足を引っ張ってはいけないと思ったのだ。


「もう、そんな心配はない。イリスが僕の傷にはなり得ないよ」


 イリスは口をつぐんだ。『神に見放された娘』というのは迷信だと、宮廷の重鎮たちも国王陛下の前で認めた。

 カミーユはニジェルを選んだ。

 もう、レゼダを拒絶しなければならない理由はないのだ。

 イリスは何も言えなくなった。


「レゼダ殿下がお望みなら、我が娘、喜んで差し上げます」


 シュバリィー侯爵が言ってイリスがギョッとする。


「イリスは貴方の物ではないよ。侯爵。それに僕はイリスの外側が欲しいわけじゃない」


 レゼダがきっぱりと答え、イリスは胸を打たれた。


 レゼダならただ望めば済むことだ。「イリスが欲しい」そう言えば、イリスはレゼダの妻になる。イリスに逆らうことはできない。


 それでもレゼダはそうしない。どんな残酷な手段を取ったとしてもカミーユを逃がさなかった『籠の中の愛』のレゼダとは違うのだ。イリスを侯爵家の令嬢ではなく、一人の人間として見てくれている。イリスの意思を聞いてくれる。

 そんなレゼダだからイリスは当たり前のように信じ、頼りにしてきたのだ。

 その言葉はとても嬉しい。


「いや、でも、それは」


 でも、婚約って、あれでしょ? ゆくゆくは結婚とかで、そのあの、ムフフな……。


 イリスは頭を抱えた。レゼダと結婚する自分が想像できないのだ。


「さすがレゼダ殿下、仰ることが違いますな。後は殿下にお任せし、私たちは席を外すとしよう」


 シュバリィー侯爵に続いて、夫人も部屋を出る。

 ニジェルもそれに続く。

 ニジェルはドアを閉める間際、縋るような眼で見つめてくるイリスを見て言った。


「イリス、認めた方がいいよ」


 ニジェルがボソリと呟く。


「?」

「だって、イリスは殿下以外にエスコートされたくなかったんでしょ? だったらそれが答えだと思うけど」


 イリスは言葉を詰まらせた。


「それとも、開きもしなかった手紙の中から伴侶を選ぶ覚悟はある? 遅かれ早かれそういうことになるよ」

「え、え、え?」

貴族ボクらの結婚なんてそんなものでしょう?」


 突き放すようにニジェルは言って、ドアをパタリと閉めた。

 これ以上はイリス自身が考え決めることだ。


 閉じるドアにオロオロとして、イリスはレゼダを見た。

 レゼダは嬉しそうに笑っている。


「手紙、開きもしなかったんだ」


 喜びを隠せないと言った風に、ニヤニヤと口角が上がっている。


「だって、そんなの、見るだけ無駄ですもの! 誰だって同じだわ」


 憤慨して答えれば、レゼダはもうこらえきれないという様に破顔した。

 

「それだと、僕は誰とも同じじゃないって聞こえるけど?」


 イリスは指摘され顔を赤く染めた。ハクハクと空気だけ吸う、真っ赤な金魚のようだ。


 そうなのだ。そういうことなのだ。今まで気が付かなかったけれど。

 

 イリスにとってレゼダは特別で、その特別が当たり前すぎていた。


「イリスだって昨夜誓ったじゃない。『これからも共犯』だって」


 レゼダはまるで百花の王のように、それはそれは美しく笑った。


 イリスは花の香りにあてられたように眩暈を感じる。

 ドキドキと胸が高鳴ってしまう。


 確かに言った。そう思った。ずっと一緒に生きていきたいと。答えはとっくに出ていたんだわ。


 イリスはオズオズとレゼダの顔を見た。


「……レゼダ様」

「もう様はいらないでしょ?」

「……レゼダ……?」

「そう、正解」


 イリスが遠慮がちにレゼダをうかがい見れば、レゼダは照れたように笑った。


「私、レゼダの共犯でずっといたい」


 イリスがそう答えれば、レゼダはガバリと立ち上がり、イリスを抱き上げクルリと回った。


「やった!」

「ひっ!」


 思わずイリスが悲鳴をあげる。



 

「やっとレゼダは捕まえたか」


 ボソリと呟いたのはいつの間にか現れたソージュだ。


 レゼダは困った顔をして、人差し指を唇に当てソージュに合図を送るが、妖精の長がそんなことを気にするはずもない。


「どういう……?」


 レゼダの腕の中でイリスが聞けば、ソージュは笑う。


「それはそうだろう? 子どもの頃からレゼダはずっと、イリスが皆に認められるよう周到に立ちまわってきたからな。それに、王家の馬車など使うから、おぬしらが城を抜け出したことなど、みんな承知だぞ。一夜を共にしておきながら婚約もしないなどとは、なんとふしだらな男女かと思われる」

「ふ、ふ、ふしだらぁ?」

「ふしだらじゃ、ふしだらじゃ」

 

 ソージュが揶揄うように言えば、小さな妖精たちも現れて、楽しそうに復唱する。


「ふしだらじゃ、ふしだらじゃ!」

「ふしだらじゃ、ふしだらじゃ!」


 キャッキャと飛び回る妖精たち。

 真っ赤な顔のイリスがキッとレゼダの顔を見れば、レゼダはツッと視線をそらした。


「嵌められた……のね?」

「人聞きが悪いよ。僕はちゃんと事前に手紙で確認したよ。『僕の家へ迎えてもいいか』とね」


 確かに似た文面の手紙は貰った。そして私は「お待ち申し上げております」と確かに返事をしたのだ。

 でもそれは、夜会へのエスコートの話では……。


「レゼダ!!」


 思わずイリスが呼び捨てにすれば、レゼダは嬉しそうに笑った。


「うん、ちゃんと呼び捨てだ」


 イリスはそれを見て毒気を抜かれてため息をついた。

 

「怒ってる? イリス」


 恐る恐るとイリスの瞳をのぞくレゼダ。


「怒ってる……わけないでしょう?」


 捕まったのは悔しいが、怒る気にもなれない。

 さすが『籠の中の愛』のレゼダと感心してしまうほどだ。外堀の埋め方が巧妙すぎる。

 捕まってしまったのに、それが嬉しく思えてしまうのだから。


 私も末期だわ。



「では私から言祝ごう」


 ソージュが二人の頭を一緒に撫でる。


「二人の未来に幸あらんことを」


 ソージュが声高らかに告げた。妖精からの言祝ぎはめったに得られるものではない。


「幸あらんことをー!!」


 小さな妖精も復唱し、祝福のラッパを鳴らす。



 これってハッピーエンドなの? それともメリーバッドの伏線なの?


 イリスは一瞬思って頭を振る。


 違うわ。これで終わりじゃないのよ。幸せになれるかは、きっとこれからにかかってる。

 私、転生悪役令嬢なので、メリーベリーハッピーエンドを目指させていただきます!!


 イリスはレゼダを見て、鼻息荒く宣言する。


「絶対、幸せになりますからね!」

「もちろん一緒にね」


 イリスは腕を伸ばしてレゼダの頭を押さえ込み、誓いを込めて額に口づけた。

 レゼダがパッと顔を赤らめる。イリスはニヒヒと笑ってしまう。

 レゼダは仕返しだと言わんばかりに、イリスの額に口づけた。お互いに祝福をし、互いに互いを守護しあうことを誓う。


「イリスの祝福ー!」

「レゼダの祝福ー!!」

「祝福ー! 祝福ー!」


 妖精たちが羽ばたいて、世界が一層華やいだ。






 

               



これにて本編完結です。

連載中のレビュー、ブクマなどの応援がとても励みになりました!

おかけで完結まで走り切ることができました。


お気づきでしょうか?

↓にポイントボタンがあるんです。

何か心に残ったら、「☆☆☆☆☆⇒★★★★★」にして応援していただけると今後の励みになります!


今までお付き合いありがとうございました。


皆様の応援のおかげで、「私、転生悪役令嬢なので、メリバエンドは阻止させていただきます!!」の書籍が、ベリーズファンタジー様より2020年11月5日発売しました。


そして、語翻訳版で電子書籍化されることが決定いたしました!

タイトルは『As The Villainess, I Reject These Happy-Bad Endings!』です。


詳しくは活動報告にてお知らせしますので、お気に入りユーザー登録をしていただけば嬉しいです。

よろしくお願いいたします!


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