第09話:指パッチン一撃で全滅
【中級ダンジョン・第5層広間】
――ブモォォォォォォォ!!
オークジェネラルが吠える。
巨大な戦斧が振り上げられた。
風圧だけで肌が切れるほどの殺気。
逃げ場はない。
私と、ティアグラと、フェン。
そして、画面の向こうの2万人の視聴者。
全員が、
その「死」の瞬間を
見届けようとしていた。
ソラ:
……っ!
(ごめんなさい……!)
私は目を瞑った。
せめて、痛みを感じる前に――
ティアグラ:
……目障りだ。
鈴を転がすような、冷徹な声。
ティアグラは一歩も動いていなかった。
ただ、
ゴミを見るような目で、
頭上の巨躯を見上げ。
ティアグラ:
跪け。
――パチン。
指を鳴らす音。
世界で一番、軽い音が響いた。
直後。
――ズンッ!!!!!!!
爆発音ではない。
空気が、空間ごと「プレス」された音。
重力魔法『グラビティ・プレス』
悲鳴はなかった。
あげる暇もなかった。
ジェネラルも、
オークも、
ゴブリンも、
スケルトンも
100匹の軍勢すべてが、
一瞬で地面にめり込み――
黒い粒子となって弾け飛んだ。
――シーン
静寂。
更地になった広間。
残っているのは、
山のような
ドロップアイテム(魔石)
だけ。
《THREAT LEVEL: 0 (SAFE)》
《QUEST CLEARED: 緊急任務 達成》
ソラ:
……は?
私は呆然と、何もない空間を見つめた。
現実感がない
【コメント欄】
: は?
: え?
: 何が起きた?
: バグ?
: 回線落ち?
: いやジェネラル消えたぞ
: 一瞬でミンチになったように見えたが
: グロ注意?
(視聴者数:21,000 ↗ ↗ )
ティアグラ:
ふん、少しはマシな運動になったか。
ティアグラが優雅に髪を払う⭐︎彡
⭐︎ 彡
⭐︎ 彡
⭐︎ 彡
無傷。
服に埃ひとつついていない。
やばい
これ、どう説明する?
魔神なんで指パッチンで殺しました――
なんて言ったら、世界中が大パニックだ
ソラ:
あ、あはは……!
そ、そうなんです!
今の、見ました!?
私は引きつった笑顔で
カメラに飛びついた。
ソラ:
うちの技術スタッフが作った、
『最新ARエフェクト』
です!
派手な演出でしたね〜!
びっくりさせちゃってすみません!
【コメント欄】
: え、演出?
: マジで?
: 今のARかよ
: リアルすぎだろwww
: 技術力高すぎて草
: 映画かよ
: まあ、魔法であれは無理だもんな
: 納得w
信じた
いや、
「魔法で一瞬で消滅させた」
よりは、
「超技術のAR」の方が、
現代人にはまだ信じられる嘘
◇
【ダンジョン入り口・安全地帯】
ベンチに座り込むカイトとルナ。
二人は、
スマホの画面を凝視したまま
固まっていた。
カイト:
は……?
なんだよこれ……全部、消えた……?
ルナ:
うそ……ジェネラルですよ?
A級ですよ?
なんで無傷なの……?
カイト:
CGだ……そうだよな?
あんなの、ありえねえ……!
【コメント欄】
: てか、カイト逃げたのダサすぎね?
: 演出だとしても、最後まで演じきれよw
: ソラちゃん一人(+AR)で勝てたじゃん
: スターダスト(笑)
: ジェネラルにビビって逃亡
: 置き去りにした事実は消えないぞ
: ソラちゃん、こんな奴らと組んでたのか
(視聴者数:20,012)
カイト:
く、くそっ……!
ふざけんな! 俺たちは……!
カイトがスマホを地面に叩きつける。
――バキッ
だが、もう遅い。
2万人の目撃者は、確かに見たのだ。
魔神の圧倒的な「美」と。
Sランクの無様な「逃走」を。
◇
【第5層・広間】
《ダンジョン・クルーズが出港します》
ティアグラ:
おいソラ。
足元に落ちている石ころ(魔石)を拾え。
ソラ:
えっ? これ全部ですか?
これ、
ジェネラルのドロップ品
までありますよ!?
数百万はします!
ティアグラ:
いらん。
お前が拾え。
ゴミ拾いは得意だろう?
ティアグラが、そっぽを向く。
……優しい
「お前の金だ」と言ってくれている。
ソラ:
……はい!
ありがとうございます、魔神様!
私は涙目で魔石を回収する。
重い
でも、これは「希望」の重さだ。
画面の向こうの視聴者たちが、
手を振っている気がした
ソラ:
それでは、今日の配信はここまで!
最後まで見てくれて、
ありがとうございました!
ソラチャンネルでした!
[配信終了]
ふぅーっ……と息を吐き出す。
終わった。
生きてる。
《チャンネル登録者数:10,000人突破》
一晩で、大台。
震える数字。
私の「底辺」生活が、
今、
完全に終わった。
(第9話 完)




