第03話:「設定」は盛るもの
【翌朝・ソラの部屋】
重い
金縛り?
いや、物理的に重い。
目を開ける。
視界いっぱいの、白い毛玉。
足元
→巨大なサモエド(フェン)
右腕
→水色の髪の美少女(魔神)
……現実だった。
ティアグラ:
ん……ソラか。おはよう。
腹が減った。
ソラ:
おはようございます……
あの、腕、痺れてるんですけど。
ティアグラ:
抱き枕がないと眠れない質でな。
ちょうどいいサイズだ。
私の腕をギュッとする。
柔らかい感触
心臓に悪い
ソラ:
とりあえず、朝ごはんにしましょうか。
(昨日のウーバーで散財したから、
今日は節約だ)
◇
【朝食・ちゃぶ台】
⚪︎メニュー
→トースト(6枚切り)
→目玉焼き
→インスタントコーヒー
ティアグラ:
……なんだこの、薄っぺらいパンは。
ソラ:
「トースト」です。
こうやって、黄身を崩して……
――カリッ
〜〜トロッ〜
ティアグラ:
……!!
美味い。
この「焼き」の香ばしさと、卵のコク……
魔界の宮廷料理にも匹敵する。
ソラ:
(食パンでそこまで感動できるの、
才能だよ……)
スマホをチェック。
通知が鳴り止まない。
《チャンネル登録者数:3,500人突破》
《昨日の動画再生数:45万回突破》
バズり散らかしている。
コメント欄も祭り状態。
『この美少女だれ?』
『場所どこ?』
『合成?』
ソラ:
ティアグラさん。
今日、この後もう一回
配信していいですか?
この「熱」があるうちに、
説明配信をしたいんです。
ティアグラ:
説明?
「私が最強の魔神・ティアグラだ」
と言えばいいのか?
ソラ:
だめ絶対。
通報されます。
自衛隊が来ます。((((;゜Д゜))))ガクガク
ティアグラ:
む。人間社会は面倒だな。
じゃあどうする。
ソラ:
「設定」を作ります。
ティアグラさんは……そうですね――
『海外から来た、凄腕のコスプレイヤー』
ってことで。
ティアグラ:
こすぷれいやー?
ソラ:
「魔神のフリをして演技をしている人」
ってことです。
ツノも、この尻尾も、
精巧な作り物ってことで。
フェンは……
「特注の着ぐるみ」
ってことにします。
フェンリル:
ワンッ! (フェンが不満げに吠える)
ティアグラ:
ふん。
「偽物」を演じろと言うのか。
この私が。
空気が重くなる。
地雷踏んだ?
ギロリ
紅い瞳が私を射抜く。
ティアグラ:
……だが、面白い。
人間どもを
「偽物だ」
と欺きながら、
堂々と真実の力を振るうわけか。
――最高の余興だ。
ソラ:
(解釈がポジティブで助かった……)
じゃあ、それでいきましょう!
◇
【配信準備】
背景
→生活感丸出しのカーテン
→隠しきれないフェンの尻尾
機材
→スマホ一台(三脚)
ソラ:
いきますよ。
3、2、1……スタート!
《配信を開始しました》
◼️タイトル:昨日の謎の美少女について
開始5秒。
(視聴者数:2000 ↗)
うそ
いつもなら「0」の時間帯なのに
【コメント欄】
: きたあああああ
: 待機
: 座席確保
: 昨日のあれマジ?
: はよ映せ
: 釣りだったら許さん
ソラ:
あ、あー
こんにちは、ソラです。
えっと、昨日の配信、お騒がせしました。
m(_ _)m ペコり
ソラ:
実はですね、昨日のあれは……
これから一緒に活動する、
新しい相方さんで……
チラリと横を見る――
ティアグラが、
不敵な笑みでフレームイン。
ティアグラ:
……待たせたな、下等生物ども。
――ドサッ
――画面端で私が三脚を倒しかける。
――台本にない!
ソラ:
ち、違います!
えっと、これは『キャラ設定』で!
本当は……ほら、自己紹介!
ティアグラ:
ふん。
私はティアグラ。
……海外から来た、こすぷれいやー? だ
棒読み
下手すぎる
【コメント欄】
: ファッ!?
: ガチで美少女じゃん
: 声もいい
: 「下等生物」助かる
: キャラ作り込んでるなww
: そのツノ本物?
: 質感エグい
(視聴者数:3500 ↗)
ソラ:
(うけてる……!?)
ソラ:
そ、そうなんです!
このツノとか、
特殊メイクですごいでしょ?
これから二人で、
ダンジョン攻略していきます!
ティアグラ:
攻略? 違うな。
ティアグラが、画面に顔を寄せる。
レンズ越しに、
数千人の視聴者を睨みつける。
ティアグラ:
征服、だ。
――この世界のすべては、
――私の(ソラの)庭になる。
――ゾクリ
画面越しでも伝わる、圧倒的な「圧」。
偽物演技の中に混じる、本物の覇気。
【コメント欄】
: かっけぇ……
: ゾクッとした
: 演技うますぎだろ
: プロの役者?
: ティア様一生ついてく
: 貢がせろ
(視聴者数:5000 ↗)
《¥10,000 のスーパーチャット》
: 初見です。靴舐めさせてください。
《¥5,000 のスーパーチャット》
: 設備投資に使って
《¥50,000 のスーパーチャット》
: 赤スパ投げとくわ
ソラ:
えっ……えっ!?
画面が、
赤や黄色のお札で埋め尽くされる。
――スパチャ。
――投げ銭。
今まで見たこともない金額が、
数秒で積み上がっていく。
ソラ:
(ご、5万!? 私の月収……)
ティアグラ:
なんだ、このカラフルな帯は?
ソラ:
これ……お金です。
ティアグラさんの『演技』が凄いって、
褒めてくれてるんです。
ティアグラ:
ほう?
人間にしては、殊勝な心がけだな。
ティアグラは満足げに頷き――
そして、
私の肩を抱いた。
グイッと引き寄せる。
頬と頬がくっつく距離
ソラ:
ひゃっ!?
ティアグラ:
だが、勘違いするなよ。
ソラは私のもの(オーナー)だ。
貢ぐのは許可するが、触れるのは許さん。
カメラに向かって、独占宣言。
――ヤンデレ全開の瞳。
ソラ:
(え?
さっきの話じゃ
私がオーナーって話だったかと……
ま、どっちでもイイけど……)
【コメント欄】
: !?
: てぇてぇ……
: 百合きたあああああ
: 距離感バグってる
: ソラちゃん場所代われ
: いや代わらないでそのまま続けろ
: ありがとうございますありがとうございます
《¥10,000 のスーパーチャット》
: 結婚式代
爆速で流れるコメント
止まらないスパチャ
私の「底辺生活」が、
音を立てて崩れていく
……良い意味で
ソラ:
あ、あの……
これから、よろしくお願いします……!
フェンも画面外で「ワフッ」と吠えた。
こうして――
「底辺配信者」と
「最強魔神(コスプレイヤー設定)」の
伝説のチャンネルが爆誕した。
(第3話 完)




