第12話:魔神が愛したオムライス
【回想・カイトと住んでいたマンション】
深夜2時。
――ガチャ
玄関が開く音。
ソラ:
あ、おかえりなさい。
遅かったね。今ご飯、温め直すね。
カイト:
あぁ? 飯?
いらねーよ。
叙々苑行ってきたんだから。
腹いっぱいだっつの。
カイトはネクタイを緩めながら、
ソファに倒れ込む。
ソラ:
え……でも、電話したじゃん、
帰ったら食べるって……
カイト:
しつけーな!
だいたいお前の飯、
貧乏くせえんだよ。
――ガシャーン!!
カイト:
……おいソラ、片付けとけよ。
◇
【現在・ソラの部屋】
《配信中》
◼️タイトル:【引っ越し】荷造りします!
部屋中、段ボールの山。
ソラ:
……というわけで、
だいたい片付きました!
お昼休憩にするので、
一旦配信切りますねー。
また夜に……
ティアグラ:
……ソラ、腹が減った。
手が止まっているぞ。
ソラ:
あ、はい! すぐ何か買ってきますね。
【コメント欄】
: ん?
: 切れてないぞ
: 画面斜めってるw
: 放送事故くる?
ティアグラ:
買う? なぜだ。
そこにキッチンがあるだろう。
私は、お前の作った
『オムライス』
が食べたいのだ。
ソラ:
え……
わ、私の手料理なんかでいいのですか?
不意にフラッシュバックする記憶
――ガシャーン!!
あの日、カイトに投げ捨てられた私の
――手料理
ティアグラ:
お前が作るものがいいのだ。
ティアグラはじっと私を待っている。
でも、怖い
もし食べて、不味いと言われたら
また、お皿を投げられたら
【コメント欄】
: ソラちゃん?
: なんか怯えてないか
: 様子がおかしいぞ
……ううん。
ティアグラさんは、カイトとは違う
私は震える手を押さえつけ、
フライパンを握った。
バターの香り
ふわとろの卵
チキンライスの上に
黄色い布団を乗せる
仕上げに
ケチャップで文字を書く
『マ王』
ティアグラ:
……っ!!
……美味い。
卵の甘みと、酸味の効いた米が――
……口の中で踊っているぞ!
パクパクと、
すごい勢いでスプーンが進む。
ティアグラ:
天才か?
お前は宮廷料理長になれるぞ。
いや、魔界の食材を使えば、
神をも唸らせるかもしれん。
ソラ:
ほ、本当ですか……?
貧乏臭いとか、思いませんか……?
ティアグラ:
は? 何を言っている。
これは至高の黄金比だ。
……おいソラ、おかわりはないのか?
これなら鍋一杯分はいけるぞ。
空になった皿を突き出される。
一粒も残っていない。
綺麗に、全部食べてくれた。
【コメント欄】
: 優しい世界
: ティア様ベタ褒めじゃん
: てぇてぇ……
: 尊すぎて泣く
ソラ:
……う、ぐすっ……
涙が溢れた。
止めようとしても、
ポロポロとこぼれ落ちる。
ティアグラ:
む? なぜ泣く。
ソラ:
嬉しくて……
捨てられなくて、
よかった……っ
私が泣き崩れると、
ティアグラは困ったように眉を下げ
やがて優しく
私の頭を撫でてくれた
ティアグラ:
……捨てる? 誰がだ。
ティアグラの声の温度が下がる。
静かな、けれど絶対的な憤怒。
ティアグラ:
こんな至高の糧を粗末にする
愚か者がいたら言え
私がその国ごと消し飛ばしてやる。
その過激で、不器用な優しさに。
私の胸のつかえが
溶けていくようだった。
【コメント欄】
: !?
: 国ごとwww
: さすが魔王様
: スパダリすぎる
: 「捨てられなくてよかった」って重いな……
: 前の男か?
: 許さん
: 全力でソラちゃんを推すと決めた
◇
【数時間後・マンション前】
部屋は空っぽになった。
私は一度だけ振り返り、
ポストに銀色の鍵を入れた。
――コトン
軽い音がした。
カイトとの思い出も、
惨めだった日々も。
全部、この部屋に置いていく。
ティアグラ:
行くぞ、ソラ。
新居が待っている。
ティアグラが手を差し出す。
私はその手を強く握り返した。
ソラ:
はい!
体が浮き上がる。
眼下には、灰色の街並み。
私たちは雲を突き抜け、
真っ青な空へと飛び出した。
――段ボールの隙間に挟まったスマホが、
空へ飛び立つ二人の後ろ姿と、
青空を映し続けていた。
【コメント欄】
: 行っちゃった
: 神回だった
: 末長く爆発しろ
: 切り抜き班仕事しろ
: ありがとう
: 88888888
(第12話 完)
(第1章 完)
これにて第1章は完結となります。
第1章をダイジェストにした
同じタイトルの短編も
ご用意致しました。
そちらも宜しくお願い致します。
続く第2章では、新キャラも登場し、
さらに物語が動いていきますので、
ぜひご期待ください!!m(_ _*)m
また、
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などを頂けます様、
心より宜しくお願い申し上げます。
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伊部 拝(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝)ペコリ




