第10話:【外配信】お買い物デート
【回想・カイトの部屋(深夜)】
底冷えするフローリングの冷たさが、
薄いカーペット越しに伝わってくる。
カイト:
おいソラ。お前はあっちの床で寝てろ。
俺のベッドに入ってくんなよ、
狭くなるから。
ソラ:
……うん。わかったょ。
おやすみ、カイト。
硬いょ
寒いょ
でも…
私にはここしか居場所がないから
……………
………
……
…
.
◇
【現在・ソラの部屋(朝)】
ソラ:
……ん、ぅ……
目が覚める。
背中が――痛くない?
いや、重い
けれど、ものすごく温かい
ティアグラ:
……むにゃ。動くな、抱き枕。
狭い万年床の上で、
ティアグラが私に手足を絡めて
熟睡していた。
ツノは隠してる方が好きかな
無防備で、可愛らしくて
ソラ:
(あっち行ってろって、言われないんだ……)
じんわりと胸が温かくなる
と、ティアグラがぱちりと目を開けた。
ティアグラ:
……おはよう、ソラ。
しかし、この寝床はどうにかならんのか。
床板の硬さが直に伝わってくるぞ。
拷問か?
不満げに腰をさする魔王様。
確かに、煎餅布団一枚じゃ限界がある。
ソラ:
そうですね……あ、そうだ。
ティアグラさん、今日、
買い物に行きましょうか。
私、買いたいものがあるんです。
◇
【高級家具店・ベッドコーナー】
店内に並ぶ、煌びやかな家具たち。
以前の私なら、
値札を見ただけで逃げ出していただろう
ティアグラ:
ほう。
人間にしては、
なかなか良い趣味をしているな。
ティアグラが一直線に向かったのは、
店内で一番高いエリア。
『王室御用達』
のポップが飾られた、超高級ベッド。
お値段、なんと200万円。
ソラ:
に、200万……!?
て、ティアグラさん!
こっちのセール品なら5万で……
ティアグラ:
却下だ。
おいソラ、ここに乗ってみろ。
――ボンッ
ティアグラに腕を引かれ、
私はキングサイズのベッドに倒れ込んだ。
ソラ:
ふあ……っ!?
雲だ
体が優しく沈み込んで、
包まれるような弾力
今まで私が寝ていた
「床」とは、次元が違う
ティアグラ:
どうだ? 悪くないだろう。
これなら、私が抱きついても狭くない。
ティアグラが隣に寝転がり、
私の腰に手を回す。
店員さんが顔を赤らめて見ている。
ソラ:
あ、あの、
ティアグラさん!
お店ですから! ( ˶ ̇ ̵ ̇˶ )
ティアグラ:
ふん、知ったことか。
ソラ。
お前は昨日、
寒そうに身を縮めていただろう。
私が管理する以上、
所有物の健康管理も
義務だからな。
何それ。
優しすぎる。
――ズキュン
って、
いつから私が管理される側
になったの??
まいっか。
ソラ:
……買います。これ、ください!
私は震える手でカードを出した。
一括払い。
カイトに搾取されていた頃には
想像もできなかった
私だけの選択
◇
【同日夕方・ソラの部屋】
《配信を開始しました》
◼️タイトル:【ご報告】スパチャで魔王様のベッドを買いました!』
ソラ:
はーい、ソラです!
みんな、
昨日はたくさんのスパチャありがとう!
そのお金で……じゃじゃーん!
買っちゃいました、超高級ベッド!
【コメント欄】
: おおおおお!
: いくら?
: 200万!? すげえww
: ソラちゃん出世したな(涙)
: ティア様への貢ぎ物か
: 一緒に寝るの!?
: 早く見せろ
: 早く見せろ
(視聴者数:5,200人 ↗)
ソラ:
今、配送業者さんが下まで
来てくれてます!
もうすぐ届きますよー!
ティアグラさんも楽しみですよね?
カメラを向ける。
部屋の真ん中を片付けて、
待機しているティアグラ。
ワクワクしているのか、
尻尾(隠せているつもり)
がパタパタ揺れている。
ティアグラ:
まあな。
あの雲のような寝心地……悪くなかった。
今日からは熟睡できそうだ。
――ピンポーン
ソラ:
あ、来ました!
はーい!
私はスマホを持って玄関へ走る。
ドアを開けると、
作業着のお兄さんたちが
困った顔で立っていた。
配送業者:
あー、すみませんお客様。
ちょっと……無理っすね。
ソラ:
はい? どうしました?
配送業者:
これ、入りませんね。
ソラ:
……はい?
配送業者:
いやこれ、
どうみてもこの
――狭い部屋
には居ないっすよ。
ソラ:
え……
ええええええ!?
そ、そんなぁ!
【コメント欄】
: wwwwwwwww
: 【悲報】入らない
: クッソワロタ
: サイズ確認しろよwww
: 1DKにキングは無理だろw
: 返品? キャンセル料?
: 無計画www
(視聴者数:8,000人 ↗)
ソラ:
ど、どうしよう……!
ティアグラさん、入りません!
ティアグラ:
……なんだと?
私の安眠が、
この
――薄汚い扉
ごときに阻まれると言うのか?
ティアグラがゆらりと立ち上がる。
右手に、
黒い稲妻がバチバチと音を立てる。⚡️⚡️
ティアグラ:
なら、壊せばいいだろう。
空間ごと拡張してやる。
ソラ:
だ、ダメです!!
ここ賃貸! 敷金! 違約金!
私の信用情報が死にます!!
必死でティアグラの腕にしがみつく。
配送業者:
あ、あのー……
とりあえず今日は持ち帰りでいいすか?
ソラ:
はい……すみません……うぅ……
――バタン
ドアが閉まる。
残されたのは、
片付けられて何もない部屋と、
――煎餅布団だけ。
ソラ:
終わった……
ベッド代200万……
がっくりと膝をつく私。
コメント欄は大爆笑の嵐――
ティアグラ:
……ふん。
全くだらしない家だ。
王の寝具ひとつ受け入れられんとは。
ティアグラが部屋を見渡し、
ふと何かを思いついたように言った。
ティアグラ:
おいソラ。
こんなウサギ小屋、引き払ってしまえ。
ソラ:
え?
でも、急に引っ越しなんて……
物件探しとか審査とか……
ティアグラ:
審査?
いらん。
土地ならあるだろう。
誰にも邪魔されず、
どんな大きな家具でも置ける、
広大な土地が。
ティアグラが指差したのは――
テーブルの上に置いてあった、
ダンジョンの地図
その奥深く
誰も立ち入れない
『未踏破区域』
ソラ:
……え
まさか、ダンジョンに住むんですか!?
ティアグラ:
当然だ。
私が、最高の城を作ってやる。
【コメント欄】
: ファッ!?
: ダンジョン移住計画www
: その発想はなかった
: 新章突入か
: 魔王城建築編、楽しみすぎる
: ワクワクしてきた
こうして。
入らなかったベッドをきっかけに。
私たちは
「マイホーム」
を建てることになった。
(第10話 完)




