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BLUE-HEAVEN  作者: 月色六華
Behind the scenes
39/40

エピジェネティクス

      挿絵(By みてみん)




「ところで、ライラー」


 ロザリオシティの『S/エス』。その名を聞いて不穏な笑みを見せていたエルドン・リー。改めて彼は、ライラーに問いかけた。


「警察への対応は問題あるまいな?」

「長崎の四十二号同様、スペアを用意しました。ただ、少し時間が空きましたので、鎌倉にではなく横浜に十四号改を……」

「零号の逃亡、四十二号の件と立て続けだったからな」

「はい。そして、念のため公的データにはハッキングをかけて画像の改竄処理を。もっとも、四十二号に関しては頭部破裂で顔認証のしようもありませんが……」

「それで、その四十二号は回収できそうか?」

「実験体の回収は限りなく不可能と推測されます。あらかじめ警察が先に発見し、回収するよう零号が仕組んだようです」


 再びリーは眉間にしわを寄せると苛立ちを見せた。


――忌々しい――


 しかし、過ぎたるはなお及ばざるがごとししと、彼は自ら冷静さを取り戻すように我へ返ると話題を逸らした。


「で、ロンバッハ教授は何か言っていたか?」

「実験体から送信された最終データでは、四十二号の実験は失敗の可能性もあると」

「失敗?」

「はい。『エピジェネティクス/発現遺伝子制御』不良によるがん遺伝子発現によって起きた『リプログラミング/初期化崩壊』の可能性も否定できないと」

「制御不良? それでは話が違うではないか?」


 ことごとく意に反する結果。半ばあきれるよう大げさに溜息をつくリー。そんな彼にライラーが続ける。


「教授(いわ)く、実験体のメタモルフォーゼ、その『エピジェネティクス/発現遺伝子制御』には、安定した人工知能の自立思考が最重要だと」

「その為に人間と同じように学校にまで通わせて、わざわざ生活をさせているんではなかったのかね?」

「はい。人の思春期同様に不安定な思考状態から抜け出すことが肝要だと。そして、今回の件を踏まえ。これまで部分的だった実験体の記憶の共有を全体へと移行促進する事で思考の安定を得られるのではないかとも」

「全体をか?」

「はい。全体に情報並列化を組み込み、実験は当初の予定通り続行すると」

「存外、ロンバッハ教授の理論も一筋縄ではいかんようだな」

「はい。ただ、ロンバッハ教授の『人間との共生学習経験』という発想自体は、もともと彼が考案したものではありません。ローゼン・バイオ・サイエンスのユキト・シュンサク博士が提唱したものです」

「日本のユキトか……」


 今なお不安視されているレプリカントの安全性。『ロボット三原則』の矛盾から生じるバグなどによって、彼らが社会に害を及ぼす事件は定期的に起こった。

 それを解消すべく、第五世代まで搭載されていた完全な機械人工知能に代わり、実験的に第六世代の一部に組み込まれたバイオAI。その主たる有機チップを開発したのがユキト博士であった。

 また彼は、人工知能の精神とも言うべき自立思考を安定調和させる為には、人間の幼児に行われるような実社会での『Early deep learning/早期深層学習』、もしくは同類のプログラムが重要かつ必要と提唱した。

 ロンバッハ教授が唱える『人間との共生学習経験』とは、それを応用した『Late deep learning/後期深層学習』と言われた。


 ユキト・シュンサク博士やヴァルター・ロンバッハ教授同様。レプリカント開発の第一人者であるエルドン・リーも、それは興味をかない話では無かった。しかし、純粋な研究者である両氏に対し、企業家としての一面を持つリーの関心は他にあった。


「それはともかく、零号が実験体に影響を与えた可能性は?」

「四十二号及び全実験体の『パラログag53BH』によるメタモルフォーゼの要件が自立思考の安定調和である以上、その可能性は否定できません。ただ、現段階では『エピジェネティクス/発現遺伝子制御』に対し、どのような思考醸成(じょうせい)がメタモルフォーゼの引き金を、また、どうのような外的要因が『リプログラミング/初期化崩壊』の引き金を引くのか? データ不足のため断定はできません」


 レプリカント研究の博士号をもつエルドン・リーにとって、ライラーの答えはもっともであり、聞くまでも無い答えではあった。ただ、利益の為には多少のリスクをもいとわぬ彼の欲求と尊大さは、意識無意識に関係なく、事あるごとに端々《はしばし》ににじみ出た。


――まったく、人頼みと言うのは歯がゆいな――






※本作品中で使用されている画像は、全て作者のオリジナル撮影写真です。また、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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