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BLUE-HEAVEN  作者: 月色六華
Behind the scenes
25/40

ウィリアム・E-A7α

      挿絵(By みてみん)




「そう、脳を取り出せばいいのです……」

「脳、移植!?」


 あの軍用レプリカントの開発で有名な軍産企業『エルドン・バイオニクス』。そこでリー博士の補佐官をしているという痩身そうしんの男ウィリアム。

 不治の病である娘の治療法を求めてエルドン社を訪れたヴァルター・ロンバッハではあったが、彼の提案に驚きを隠すことができなかった。


 そんなロンバッハにウィリアムスは淡々と話を続ける。


「レプリカントがAIを乗せ換えるのと同様、人間の脳だけを取り出せばいいのです。そして、それを溶液のなかで生かしておくことは、御存じの通り、既に21世紀初頭の時点で可能。倫理的な問題から実際には行われていないに過ぎません」


 それは確かにウィリアムの言う通りであった。しかし、その提案にロンバッハが躊躇ちゅうちょする理由も無数にあった。


「しかし、脳と体をつなぐ血管や神経は、レプリカントとは比べ物にならないくらい複雑だ。さらに、脳にある神経細胞は繊細で、酸素や栄養が失われてしまえば、あっという間に死んでしまう」


 やはり、表情一つ変えずに答えを返すウィリアム。


「最新の『脳神経工学』では、生体工学技術とロボティクスの融合で脳とコンピューターを接続するニューラルレースやナノマシンなどのバイオデバイスは既に完成しております。我が社も幾つか特許を取得済みの段階。やがて、人間は脳や中枢神経を除く全ての器官を機械化することでしょう。我々のように……」


 そう言ってウィリアムは、右手にめる黒皮の手袋を静かに外して見せた。すると、彼の右手の五指は枝分かれし、まるで食虫植物がゆっくりと呼吸するように多指の金属義手へと形状を変えた。それは、物理的インタフェースで端末に高速アクセス可能なバイオデバイスの義手のようだった。


 その鈍い銀色の煌めきを怪しげに見せるウィリアムの右手。驚きと迷いにロンバッハが問い尋ねる。


「君は?」

「私は、このエルドン社でリー博士が開発した新型レプリカント『E-A7α:EldonBionics-Army7α』。軍用機体であはありますが、補佐官という役柄、多少カスタマイズされておりますが……」

「驚いた。見た目は勿論、この私にも人間と見分けがつかんとは……」

「これも近年施行されたされた『愛玩保護法』の、そして何より博士が開発した『AG細胞』のたまものかと」

「レプリカント黎明れいめい期の『 Uncanny Valley/不気味の谷』が嘘のようだな」

「私のことはさて置き。お嬢さんを助ける唯一の方策は、脳の移植を置いて他にないでしょう」

「しかし、脳を取り出して延命したとして、その脳を移植するカラダはどうする?」

「確かに、全身の生体移植は倫理的に禁止されています。また、本人のクローン体もクローン人間に繋がるとして条約で禁止。だからこそ、教授の『AG細胞』の出番なのです」

「しかし、『シャム・チルドレン』の研究開発も、先般、国連決議で禁止されてしまった」

「何も『シャム』を造れとは言っておりません。その一歩手前。人間の脳を移植できるレプリカントであればいいのです」

「人間の脳を移植できるレプリカント?」

「そう。いま現存するレプリカントは、法律的に人との互換性を持たないように作られています」

「しかし、それでは、法を破ることに……」

「御心配無用。我々の会社は政府指定の開発特区。研究までは許されております。仮に、人間の脳を移植できるレプリカントが完成し、お嬢さんの脳を移植後、その体を誰が奪うことが出来ましょう?

 神への冒涜ぼうとくなどと唱える輩からの嫌がらせ程度は覚悟せねばなりませんが、それでお嬢さんの命が助かるのならば、安いものではありませんか?」


 ウィリアムの提案に違法性を危ぶむロンバッハではあったが、彼に選択の余地は残っていなかった。


――たしかに、君の言う通りかもしれん――






※本作品中で使用されている画像は、全て作者のオリジナル撮影写真です。また、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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