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意地悪なキス。美形青年登場

短いです。

今回は暴力…があります。

苦手な方はお気をつけ下さい。

 馬車に揺られてやっと着いた視察場所は大変賑やかだった。

 真っ青な空の元で軽やかなメロディーに合わせて人々が踊り舞う。鮮やかな風船やハンカチがあちこちに飾られて、市場には新鮮な野菜や果物が並んでいる。


「今日は生誕祭みたいだね」


 馬車を先に降りて扉を開けたシェルベートにエスコートされ、馬車から降りる。

 シェルベートはよそ行きの視察に行くに動きやすいシンプルで尚且つ上品な服装であった。


「この街は水が豊かで天気にも恵まれているんだ。今日はその食べ物の輸入と不備がないかの確認だよ」

「シェルベート自らですか?」



 頷くシェルベートに王子でありながら謙虚な姿、感心して邪魔だけはしないようどうやって逃げ出すか逃走経路を確保する。

 この街は正門西門と2箇所入口出口があり、私が今いる門は正門で夜の9時には閉まる。逆に西門は警備は固いが四六時中開いているので、西門からの逃走の方がやりやすいだろう。

 あー!これで後、もうちょっと詳細が思い出せたらスムーズに逃げれるかもしれないのに!行き当たりばったりの逃走は、シェルベートに対して甘く見すぎている。この視察中に練って練って練りすぎたものを利用しないとシェルベートから簡単には逃げられないのは、既に体験したこと。二度も同じ手を食うつもりは毛頭ない。


 私が眉間に皺を寄せていると、シェルベートがツンッと人差し指で突ついた。


「難しい顔しないでよ。折角生誕祭やってるんだし、まだ時間もある。踊ろうよ、ユキノ」


 そう言って私の右手を掴み踊りの輪に入る。軽やかなステップの中、シェルベートにぴったりとくっつかされた腰が少し恥ずかしい。

「頬が赤いね、熱くなった?」


 意地悪なシェルベートはさっきよりも近くに寄せ、顔を近付けて聞いてくる。

 綺麗な顔が近付いて私を覗くのだ。照れない女が居たら変わって欲しい。

 私はフイッとシェルベートから顔を逸らす。ちょっとした意地悪返しだったが、堂々とキスされた時は私の負けを認めた。


 踊り終えると横からフルートを片手に持った端正な顔立ちの青年が私たちを見上げながら笑う。


「お兄さん、お姉さん、楽しそうに踊っていたね。見ない顔だが今日は生誕祭に遊びに来たのか?」


 特徴のない茶髪に対して鈴の音が転がったように落ち着いた声音は、青年の大人っぽさを際立たせていた。

 片目を瞑っていて唯一ぱっちりと開かれた切れ長の瞳は、金の結晶を埋め込んだかのように輝く。

 惚れ惚れする容姿に喉を鳴らし、横から凄まじい殺気を感じ取った私はすぐさまシェルベートの後ろに隠れた。

 シェルベートが私の額にキスを落としたのを確認してホッと胸を撫で下ろす。


 あっぶなかったー!


 ナンパでは無いが私が見惚れる容姿を持つ青年に殺気を出していたのだ。一般人に手を出すのはダメである。あまつさえ視察場所で死者を出すことなど以ての外。私は青年の命の危険を感じ、この場を退出しようとシェルベートの影から顔を出す。


「少し仕事で、急いでいるので失礼します」


 言った瞬間、シェルベートの手を取り市場へと走る。

 美味しそうな果物が並ぶお店の裏まで行くとハァハァと肩で息をして呼吸を正した。


「…やっぱり殺そうかな」


 そんな私を見たシェルベートが青年のいた場所の方角を向いて怖いことを呟くのだ。


「嘘だよ。ユキノが僕を愛しているのは知ってるからね、僕はユキノさえ居れば何もいらないんだ」


 私に縋るように抱きつくシェルベートを見て、あるシーンと重なった。

 いつ、どこでのシーンかは思い出せないが、ゲーム当時にとても泣いたシーン…。

 シェルベートを抱きしめ返し、その胸で私は嘘をつく。「逃げてごめんなさい」心の中の懺悔はシェルベートに届くことはなかった。

 シェルベートは私から離れて時計を見上げると、ニコリと微笑む。


「何か買ってこようか。ユキノはここで待ってて」


 時刻はちょうど昼を指していた。シェルベートは昼食を買いに市場をウロつきに行った。

 ん?これってチャンスじゃね?


 そう思い立った私はシェルベートがいる反対方向へ走り出す。目指すは西門。…その途中である。

 薄暗い裏路地を通って西門を目指したのがいけなかった。

 木を隠すなら森へ、人を隠すなら人の中という(ことわざ)を何も今思い出さなくてもいいじゃないか。生誕祭で表でも隠れながら西門に行くことくらい容易だったはず。

 後悔しても既に遅い。

 運悪くチンピラ共に囲まれたのだから…。


「珍しいぞ黒髪の女だ!」

「こいつ売ったら少しは金になるんじゃねえの?」


 早くもシェルベートから逃げ出した私への罰だろうか、柄の悪いチンピラは女に対しそのゴツい拳を振り上げてくる。気絶か何かさせ見世物小屋にでも売る気だろう。

 痛さに我慢するため思いっきり目を瞑るが、待ち構えていた痛みがこないことに疑問を感じて恐る恐る目を開ける。


「大丈夫か?」


 ゴツい拳を軽々と片手で受け止め、私にその端正な顔を向ける先ほどの青年。金の瞳に見つめられた私は緊張が解かれたのか、腰を抜かして道端に倒れこんだ。





「おやすみ、お姉さん。いや、我らの姫様」




ーーー鈴の音が転がった。

暴力未遂でした!

そして、甘々があまりかけませんでした。申し訳ありません。

謎の青年。ユキノは縋り付くシェルベートとどんなシーンで重なったのか。

次はドキドキのヤンデレ展開で行こうと思っています。

予定なので、本当になるのかは申し訳ございません。

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