あれ?優しい。助けは王道…一番痛いです
すみません。
休みすぎました。今回は血の描写が多いです。グロテスクなシーンもあります。
苦手な方は注意して下さい。
「目が覚めたんだね、ユキノ。驚いたよ急に倒れて…」
扉を開けて入ってきたのはルシファーである。もう、3年前の面影なんて無に等しいくらい病んだ目をしていて怖い。
私はその目に負けず、頑張って睨みつけた。
「嘘つき、貴方の催眠のせいでしょう?」
そう、先程の頭を掻き混ぜられたような痛さはルシファーの吸血鬼能力の一種である催眠能力。吸血鬼は催眠をかけて血を啜ったりするのだ。
私の問いに一瞬だけ固まって、微笑み出すルシファーに私は退きながら微笑む。
「詳しいんだね、ユキノ」
「ええ、そうよ。貴方のことなら何でも知ってるわ。この部屋を見てわかる通り人形集めが趣味だったり、この人形達が元は人間だったり…」
そこまで言ってバキバキッと床が割れた。ルシファーは俯いている、足に力でも入れたのだろう。また、私への牽制なのか…。
「驚いた、本当に何でも知ってるんだね」
小首を傾げてにっこりと微笑んだルシファーは、はっきり言って怖いなんてもんじゃない。幽鬼のような、ゾッと背筋が凍る怖さを持っている。
壁に背中を預けて、ニタァと唇が笑ったのが分かった。対して私は口を引き攣る。
「なら、話は簡単だ。ユキノ…?」
ゆっくり近付いてくるルシファーの恐怖にガタガタと足は震え立つことすらままならない。
ルシファーは私がいるベッドに腰を掛けた。ベッドの軋む音がして、綺麗なルシファーの顔を見つめる。
「ユキノは何もしなくても蝋のように白い肌だね。温かいな」
ゆっくりときめ細かな指が伸びてきて、私の頬に触れた。
ピタリと触れてきた指はヒンヤリと冷たく、傷物でも触るかのように慎重で優しかった。
「コレが冷たくなっていくのも、たまらないんだよね」
ザクッと、耳元近くから大量に流れ出す私の血。私の返り血の狭間から垣間見えたルシファーは、高揚した瞳で私の流した血を見ていた。
ドクドクと流れ出す生温かい血は見る見るうちに辺りを “赤” に染めて行く。
「ル、シファー?」
私はザックリと切り裂かれた首元を抑えて、霞んでいく瞳でルシファーの行動に頭をフル回転させる。
ルシファー詳細ブックにも殺し方は書いていなかった。こうやって殺していったのかと、私もあの人形達のように同じ末路なのかと閉じそうになる瞳で固められた人形を見やる。
「冷たくなってきたね、ユキノの血は身体に比べてなんて温かいんだろう」
私をいとも簡単に押し倒し、首元から流れ出てくる血を舐めながら淫靡な姿になっていくルシファー…。
どこまでも綺麗な男…と、サァーッと顔が青くなりながらも見つめ、意識を手放そうとした刹那。
綺麗な変態公爵様の私に触れていた右腕が宙を舞った。
ぼと。
一瞬の出来事にルシファーと私は固まる。部屋に物体が音を鳴らして床に落ち、ルシファーの返り血だろうものが私の左頬に飛び散った。
急に腕が舞った現実、ルシファーの後ろで微笑む、シェルベートの側近である ミカエルさん の姿ーーー。
「ルシファー・ファナリスロフ。これは一体どういう状況でしょうか?」
誰もが凍る笑顔を貼り付けて、腰に差している剣をルシファーの首に当てながら問いかける。
「ユキノ様、貴方はシェルベート様と王城へ。傷の手当ても必要です」
ミカエルさんの瞳だけが私に向き、その言葉を聞いて私は意識を手放した。よく頑張ったものだ。もう血が流れすぎて死ぬところだった。
****
次に目が覚めたのは見知った王城で一安心する。見慣れたシェルベートの顔が、ベッドに横になっている私を心配そうに見つめていた。
「シェルベート…」
悲しそうな顔をして眉を下げているシェルベートに手を差し出すと、温かい両手で包み込んでくれた。
寝ている体勢だからハッキリとは分からないが、温かさの中に雫が2,3滴落ちたのを感じて、もしかしたら泣いているのではないかと思う。
この件はシェルベートにとって、とても恐怖の塊だったのだろう。それもそのはず、愛しの人が血を大量に出して押し倒されているなんて、女の私からしても泣きじゃくって必死に助けたはずだ。
しかも、直接的に助けてくれたのは側近のミカエルさんという事実。ふふっと笑いながらゲームでのことを思い出す。
ルシファーの行動はミカエルさんとシェルベートによって阻止されたが、こんな行動はゲームではもちろんのこと無い。
しかし、思ったよりまともなシェルベートに安堵の息を零す。
いつもみたいなシェルベートなら「僕以外に触れられたところはどこ?」や「こんなに血を流して…ユキノの血は、その一滴でも僕のものなのにね」など言って甘く狂った縄に捉えてくるだろう。
「ユキノ…無事で良かった。本当に…」
反則だ。
緊縛したり監禁したりして狂ってるシェルベートから、こんなことを言われたら…私の視界はぐちゃぐちゃになって、もう安心していいんだという気持ちに声を出して泣いた。
ひとしきり泣いたあと、大丈夫かな?と怖く思ったけどルシファーのことを聞く。
「シェルベート、ルシファーは…ファナリスロフ公爵はどうされたんですか?」
私はミカエルさんやシェルベートが来てすぐに意識を手放したので、とても気になる。
また、ルシファーが殺される描写なんてゲームでは無かったから殺されはしてないと信じたい。
牢送りだけでいいと思う。それか、私みたいに半殺し…、そういえば右腕をぶっつりとミカエルさんに斬られていたけど、吸血鬼ってまた再生するじゃん!
ずっりーの!!
そんなことを心の中で吐き捨ててシェルベートの返事を待つ。
すると、シェルベートではなく部屋に入ってきたミカエルさんが口を開いた。
「目が覚められて何よりですユキノ様。ルシファー・ファナリスロフの件に付きましては、殺しました」
にっこりと目を細めて笑いかけてきたミカエルさんに呆気にとられた。
その言葉は何も重くなく、語尾に星でも付いているかのように軽々しく言われた。
ころ…した?え?なんで?
仮にも公爵様。必要でない存在なんかじゃない。
私の思考はパニックに陥り、ただただミカエルさんを凝視する。
そんな想いが伝わったのか、ミカエルさんが口元をそのままにして目を開いた。
「殺さない必要がどこにありましょうか?彼は、シェルベート王子が愛している方を手にかけようとしたのですよ…?」
銀の髪が白髪へと変化し、肩ほど伸びている白髪が揺れ、魅力的な紫の瞳が紅蓮の炎のように真っ赤に染まった。殺気を組み込んだ切れ長の瞳を目にし、心の中で指を指す私。
あ、あ、あ…あーーー!!!
ミカエルさんの吸血鬼の姿に、私は見覚えがありゲームであった頃のミカエルさんのピースが揃い出したのであった。




