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目覚めは最悪。笑顔の裏は変態でした

1部加筆しました。

 朝目が覚めると私は何故か地下らしきところにおりました。

 あれ?甘々シーンの額にちゅーは?シェルベートの甘いきっちゅは一体どこに。

目が覚めたら、素敵な顔を拝んで逃げようとしてたのに、なんてこった。


 私、ユキノは既に捕まえられていました。


 顔を青ざめながら、今の状況を整理する。私の両手両足は縛られていなく自由で、周りを見渡すと鉄の棒が埋め込まれて、外に出ることは不可能。窓もないことから地下だと推測する。おかしい、ゲームの時こんな地下に監禁だなんてイベントはなかったはずだ。と、いうことはフラグが立ったのだろうか。一体、いつ、どこで…?

 仮にフラグが立ったとして、やったのは恐らく側近のミカエルさんだと思われる。それは何故かと聞かれると、私がゲームをしてた頃の記憶を取り戻してからまともに会った人物はミカエルさんだけだからだ。

 もっと、記憶を取り戻す前から親しくしてもらってた人達に会いたいのだが、如何せん。旦那が緊縛プレイ好きの監禁野郎だったので、会って話す機会など得られそうにない。

 それに、まず会わせてはもらえないだろう。シェルベートは、自分以外の異性が私と話すことさえも嫌っているからーー。


 異世界に来て、仲良くなった人は結構いる。侍女のメーラさんを始めに、護衛騎士であったアラン、公爵家のルシファーや、隣国の姫君であるファタなど。みんな気さくに話してくれて、とても気遣ってくれて優しかった。思い出し涙が頬を伝り冷たく冷え切った鉄の地面へ落ちる。


 すると、誰かが階段を降りてくる音が響いてきた。


 …え?嘘でしょ?

 降りてくる人物を捉えて、私は目を疑った。質の良い紺碧のマントに上質なシルクのブラウス、スラリと伸びた長い脚が私の前で止まった。


 淡い蜂蜜色の髪がふわりとしていて、コバルトグリーンの瞳が細められている。無口そうな口は弧を描いていた。


「ルシファー…」


 喉につっかえそうになりながら、目の前の人物の名を呼ぶ。

 私に名を呼ばれた人物は小首を傾げてにっこりと笑った。


「久し振りだね。ユキノ」


 私の目の前でにっこりと笑った人物は、優しく少し無口でこの異世界のことを教えてくれた公爵家のルシファーだった。

 …どうしてルシファーが?ルシファーとはそれなりにお茶を楽しんで、それなりに笑い合っていたと思う。


「ねぇ、ユキノ。本当は結婚するのなんて嫌だったんじゃないの?」


 私が瞑想していると、ルシファーの決定的な言葉に肩を揺らしてしまった。


「僕、見てしまったんだよね。港で逃げてるみたいに走ってたユキノと、シェルベート王子に抱き上げられて泣きじゃくるユキノ。あれは一体なんだったの?嫌なんでしょ。結婚なんて」


 アレを見られていたのか!

 私は己の失態に、頭を抱えて悔やむ。


「嫌なら僕のとこに来ればいい。」


 鉄柵の間から、線の細い綺麗な手が私に向かって伸びた。


「どうして、ルシファーがそこまでするの」


 この質問が悪かった。強く頭に鳴り響く騒音。私は意味もなく両耳を抑えて俯く。






『僕が…君を…愛して…いる、から』





 頭に直接鳴り響いた意味のある言語。それを聞き取った直後、頭を掻き混ぜられたかのような痛さに私は倒れた。



 ルシファー・ファナリスロフ。淡い蜂蜜色のふわっとした髪型でコバルトグリーンの瞳から一見優しそうな雰囲気を持つ公爵家の跡取りだが、その性格は外見と掛け離れていて良く言えばクール。悪く言えば取っ付きにくく、冷酷である。当時のファンからはそんなクールで冷酷な彼が素敵!といって抱き枕などが売り切れにまでなっていた。

 そう、ルシファー・ファナリスロフは当時私がハマっていたTrip Vampire Loversという乙女ゲームで主人公攻略対象者であり、先程の騒音の中に紛れた意味のある言葉は公爵ルートでの、ルシファー・ファナリスロフが愛の告白をするシーンであった。


 公爵ルートのことを全て思い出し、ルシファーと出会った3年前の自分に本気の一発を殴りたくなる。



 始めて出会ったときは冷徹な目で一瞥されて、私はその目に臆することなくルシファーにお茶会の招待を送り続けた。顔が好みだったのでお近付きになりたかったのだ。


 うん。この発想はまだ好感度アップに程遠く、寧ろ鬱陶しく思われてしまう選択だ。この時の私はナイス!

 でも、問題はその後だった。やっとのことでルシファーとお茶会が出来る日に、私は紅茶を溢してしまいルシファーに白のドレスを荒っぽく渡される。

 ルシファーの家は代々と男が多く女性なんていなかったはずなのに、渡されたドレスはどこからどう見ても女物。それに一寸の疑問が生じはしたが、公爵家だものドレスの1着や2着はあるだろう。と、そのドレスを着た。

 はい、ここがアウト。まず、紅茶を溢す時点でアウト。紅茶なんて溢すのは裏の裏選択肢だったのだ。当時はその選択肢がネットで騒がれて、今まで好感度がなかなかアップしなかった選択肢でも、一気に好感度アップしたという。


 そんなこと、3年前の私が知る由もなく紅茶はただ単に手を滑らしてしまっただけのこと。しかし、それ故に、どこから入手したのか分からないドレスを着た私を見て、ルシファーの私に対する好感度は天にも昇ってしまったようである。

 あの時のキラキラとしたコバルトグリーンの瞳は、可愛いとさえ思ったが、完全にロックオンといった瞳であった。


 本当に、3年前に戻って紅茶を持つ手を死んでも支えておけば、このような事態にはならなかった。

 再度言う。本当に!あの時の私め!うっかり紅茶溢してんじゃねえよ!!!

 3年前の私への憤慨が言葉を荒々しくしてしまう。

 仕方のないことだと思って欲しい。



 ルシファー・ファナリスロフの公爵ルートは個人的に遠慮したいルートだったからーー。




 この公爵ルシファーは幼い頃から女がいない屋敷で育ってきた。女に夢を持ち、人形を女のように着飾って、理想の女を想っていた。

 だが、いざ理想の女を想い外へ出てみるとそこは、憎悪や嫉妬、姦しく騒ぎ立てる口や塗りたくった醜い魑魅魍魎な女共。

 お淑やかに装ったその瞳には強欲さが浮き上がっていたのを見て体感し、狂った。

 平気で嘘をつらつらと吐き捨てる口を縫合して、憎悪など感じないように生きる活動を止めて、その蝋のように白い肌に生える赤いドレスを着せて、固めたりもした時期もあるほど、気持ち悪いほどに狂った変態公爵様なのだ。


 そんな変態公爵様のルシファーは異世界に来て化粧品があるなんて知らなかったノーメイクな私に白のドレスを着させて、理想の女を見つけるといった隠れストーリーだったりする。


 そんな変態公爵様ルートになってしまったら、私の近い未来は生きたまま蝋で固められて鑑賞され続けるといった生き地獄。蝋で固められているせいで息が出来ず、苦痛に顔を歪ませることも出来ないのだ。

 最終エンディングとして、これは変態公爵ルシファーの心の中で生きている主人公の描写があった。


 今!!切に願う。こんな変態ヤローに蝋で固められるなんで、例えば死んでも嫌!!


 あぁ、思えば私が白のドレスを着てからだった。笑うルシファーを見たのは。

 今、公爵ルートを思い出した私からすれば、あの笑顔はルシファーの頭の中で着せ替え人形のように私を変換していたのだろう。


 よりにも寄って、生き地獄のような死に方たまったもんじゃない!!!



 そう力強く思い、私はガバッと起き上がる。今まで気絶しながら過去のことを迷走したり、次に起こることに寒気をして肩を震え上がらせていた。



 白くふわふわなベッドに寝かされていた私は私の周りにあるそれを視界に捉え、ゾクリと頬を引きつらせる。

 それはそれは人間じゃないの?と思わざるおえないリアルな着飾ったお人形が吊るされたり立っていたりして、私を見ていたからーーー。


「…ッッ!」


 私の悲鳴は喉に詰まって、その人形だらけの部屋に響かなかったが、カチャリと唯一ある扉が開いて行くのを震える身体を放ったらかしにして呆然と見続けた。




 この際、シェルベートでもいいから助けて下さい。

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