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波乱の前夜。甘々シーンは大好きです

 本来、私の前世で学んできたヤンデレとは愛した人を病的に愛して止まないツンデレの過激派さん達だ。愛し方が様々でそれは「お前がいればそれでいい。お前も俺だけいればいいだろ?」といった依存系であったり「俺以外の男と話す理由はないだろ?」という束縛・執着系も多々あったり「俺以外を見るその目も俺以外に触れるその手も、俺から逃げるその足も失くしてしまえばいいんだ」といった狂気系だったり、これは逆に「君に触れようとするバイ菌は排除したほうがいいよね」という近付いてきた者を簡単に殺そうとする殺戮系などだ。ヤンデレ本人は主観的視点から正当化しようとしているので客観的に見て犯罪行為でも、分かっていない。そんな困ったちゃんが監禁などをするのは、特にという特定で決められる訳なく、殆ど全員しそうな勢いだ。

 その中でシェルベートは狂気系と依存系が強く見られた。それに加え監禁癖と緊縛プレイを好んでしたいヤンデレで吸血鬼からか血を啜るのも大好き。刃物を使って傷付けるのも大好きと言った具合なので、1番最悪である。

 ここまででも最悪なのに、今、執着系が垣間見えた気がするのは是非とも気のせいであって欲しい。


 そうこうとシェルベートを分析していると、シェルベートは何食わぬ顔をして私にキスを落としてくるだけ。さっきの顔は気のせいだったのだろうかと思い悩む。

 そもそも、王子ルートのシェルベートがあんな顔を見せたことなどない。

 凶悪で狂気に満ちていて、依存するかのように主人公を愛するというのが彼の最大の魅力なのだ。暴力4に対してデレが6といった比率である。

 

「ユキノの血は滴るほどに美味で、全部食べたくなる」


 そういってシェルベートはいつの間にか足の甲にもキスを落として、そこに牙を突き付けた。

 声にもならない痛みが私を襲う。

 痛みに悶絶しながら先ほどのシェルベートの言動が頭に残った。このセリフに覚えがあるからだ。ハッピーエンドの幕開けだったはず…。

 足の甲にキスをするのは、隷属という意味があるらしいが、噛み付かれた場合はどうなのだろう。そんなことを考えてみるが、大体予想はつく。


ーーー僕は君を愛している。愛してるがゆえの行動。


 訴えられているように、シェルベートは足の甲から溢れ出た血を啜り、僕は君のもの。でも君に触れられるのは僕だけ。だとでも言っているように聞こえてならない行動をする。足に頬を寄せたり、足の甲だけでなく、(もも)(すね)にもキスをし出す。

 腿は支配。脛は服従。という地球での意味を分かってしているのか無意識なのか…。

 私もこんな知識が今になって役立つなんて思ってもみなかった。

 最後は胸元に行き、所有というキスマークを残したシェルベート。


「愛してるよ。ユキノ」


 シェルベートの笑顔が柔らかくなり、結婚前に似た笑顔になった。

 そんな笑顔を見せたシェルベートに、驚きの表情が隠しきれない私は目を見開く。こんなことがあるはずないのだ、シェルベートは結婚したらヤンデレとなって主人公を苦しめる設定。こ、こんな…


 あ、やべ。感動で涙出てきた



「ユキノ…?どうして泣くの?」


 急に泣き出した私に、シェルベートが疑問符を浮かべながら頭を撫でる。

 私は自力で涙を拭いながら、笑う。


「シェルベート、久しぶりに笑った…」

「おかしなユキノ。僕はいつも笑ってるよ」


 シェルベートにとっては、あの不敵な笑みやら、目が据わってる笑みが笑顔らしい。いや、もっときちんとした笑顔を増やそうよ!

 でも、どうして急に元に戻ったのか。

 何かシェルベートを変える言動を私がしたのか。いや、私がしたのは自分からシェルベートにキスをしたことだけ。あとは通常通りだ。これが吉と出たのか凶と出たのか、シェルベートが…前みたいに戻ってくれたらいいな。


 私は、そんなことを夢に思ってシェルベートに流される。

 滝のように降り注ぐ口付けを受け止めながら、ハッピーエンド幕開けの甘々シーンだと心を安堵させて特にこれから暴行などもなく、シェルベートは快楽へと(いざな)ってくれた。

 脱走して自らキスをして元に戻るように変化するのなら、私は危なくても脱走計画を企て、自らシェルベートに愛を囁こう。そう、心を決意してーー。


 この時の私は馬鹿と知らずに。



 シェルベートは最初から何も変わってなんかいない。

 据わった瞳、陶酔したように上から見下げる顔、愛を囁き依存して、時に暴力と緊縛で私を縛りつける。寧ろ、これこそがシェルベートの本来あるべき姿なのだ。


 甘々シーンであるシェルベートと肌が重なり、身体が繋がる。

 薄っすらと辺りが白くなり始め、もう小一時間ほど待てば朝日を拝めるのだろう。


 確かゲームでは、一緒に朝を迎えて額にキスをされて公務へと出掛けるシェルベートの描写が書き込まれていた。

 しかし、甘々の後は何かと一波乱あるもの。そう、一波乱がある。


 甘々の後の一波乱…それは、側近であるミカエルが密かに主人公のことを想っていて、公務で切磋琢磨している王子の目を盗み、ヴァンパイアの能力でもある妖艶な容姿を活かし、主人公を惑わせ魅了させること!


 主人公は操られたかのようにミカエルの胸に飛び込み、王子にバレる前にミカエルが主人公を吸血鬼にしようとするが、その直後に王子のシェルベートがミカエルを惨殺し、奈落の底へ突き落とすというシーンがあった。

 笑って突き落とす王子に当時のファン殆どが悶え震え、ミカエルファンに少しの非難が押し寄せた。このシーンの話題が上がると炎上である。

 その後は王子の熱い口付けて我に返れた主人公であるが、異常なまでの王子の惨い求め方に気絶してしまう程だったのを画面越しにみて震えていた。めっちゃ怖かった。


 待って。やばくね?


 ここまで思い出し、私の冷静な頭が事の起こりをまとめ、瞬時に行動を明確にしていく。


 逃げた方がよくね?ほら、さっき決意したばっかりだし決意したことは直ぐに実行に移さないといけないしね。


 気持ちも同意見らしく、私は朝起きてシェルベートからの優しい額キッスを貰ったら、そこのシルクで出来てそうな意外と丈夫のカーテンを使って逃げようと計画した。

 なるべく、ミカエルさんに会う前に。これが最もな重要課題…。


「何を考えてるの?ユキノは僕だけを見て、感じてればいいんだよ」


 私が頭を巡らし、この後起こる状況をどう切り抜けようか考えているというのに、シェルベートは知ったこっちゃないと、目の前の行いに集中しろとのことだ。

 言われなくても、すぐに感情がそちらに持って行かれそうである。


 出来ればあと少し待って欲しかった。

 ミカエルがやってくる時間を正確に把握しておきたかったからーー。


 しかし、絶頂には生理的欲求と同じで逆らえる訳はない。

 私は襲ってくる絶頂にクタッとベッドに倒れこむ。


 辺りはもう、朝日が差し込んでいた。




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