行動第一。分かっていれば避けれます
数々のコメントが寄せられたので直しました。どうぞ
シェルベートの部屋のベッドに降ろされ、端正な顔と対面する。端正な顔はヒヤリとさせる笑顔が貼り付けられていて、碧の瞳は薄っすらと細められていた。
シェルベートの身体が私を覆いかぶさり、その顔は変えられることなく私の首筋に埋められる。ピチャリ…と舐められた。ヤバイ!噛まれる!と察して腕をつっかえ棒にするが、当たり前に離れてはくれない。
月明かりで明るく照らされた碧だったシェルベートの瞳が紅蓮の炎に変わった。
ブツッと皮膚を牙で突き抜ける音がして、啜られているのがよく分かる。
「いった…」
首筋を突き刺す痛さに顔を歪める私。シェルベートはジュルリと血を啜って、私に口付けた。勿論のこと、血の味がする。
サラリと、乱れた私の前髪を整えて頬を片手で包むシェルベート。
白髪が夜風に靡いて、形の良い薄い唇が動く。
「…ユキノが僕の本性を知って逃げるのは分かっていたよ。でもね、僕は君が居ない人生なんて耐えられない。君が他の誰かの物になるなんて考えただけでおかしくなってしまいそうなんだ。」
ツゥーッとシェルベートの指が私のお腹から胸へと移動する。
私は冷静に目の前のシェルベートを見上げた。
おかしい…。と思ったからだ。ゲームにこんな台詞はなかった筈、あるとしたら「君が僕以外の誰かの物になるくらいなら殺してしまおうかと思ってしまうよ」だった。
どういうことなのだろうか。私が脱走したことにより、少なからず変化しているということなのだろうか。
ありとあらゆる仮説を立てて、セリフの変化に首を傾げる。
「逃げたいなんて、思えなくなるぐらい、僕は君を、愛しているのに」
このセリフは!!
シェルベートが悲しそうに発したセリフに、ゲームの頃の背景と重なった。持てるだけの力を振り絞って首を左へスライドさせる。
ざしゅ。
鈍い音が右耳から聞こえ、シェルベートが突き刺したナイフが私の頬を掠った。
「あれ?惜しかったなぁ。あともうちょっとで殺せたのに、ユキノって反射神経あるんだね」
ニコニコと、据わった眼で見下ろされ、私は汗をだらだらと流す。
あっぶねー!ナイス!わたし!
このシーンはバッドエンドの幕開けだった。死にはしないが首に痕を残されるものである。ゲームの頃にはファンがわざとバッドエンドに行き、このシーンを見る者が多かったが、ここは現実なのだ。「首に痕を残されたーい」などと、妄想を繰り返す架空の世界ではない。もう一度言おう。ここは現実。イコール、痛みも確実にあるということ。
私は頬から出てくる血に温かさを感じて、じわじわとした痛みが広がってくる。
頬をナイフが掠っただけでも痛いのに、首を思いっきりシェルベートに返り血が付くぐらい切られたら死ぬ。死んでしまう。死にはしないんだろうけど痛すぎてショック死する。大袈裟なんかじゃない。ゲームではグロゲーに近かった。グロゲーと違うところは、返り血を浴びているのが美形という点だけである。
イケメン好きの乙女は例え血を浴びてようとも、美形ならそれでいいのだ。現にゲームでの、返り血を浴びる描写は少しグロいが、それ以前に怖いぐらいゾクッとさせる笑顔だった。
私を含め、数多くの乙女はこの返り血に染まる笑顔を見て大層興奮したものだ。もう、キャーキャーである。ベッドで転がりまくって壁に激突しても、うふふふと不気味な笑い声をしてしまうほどに。
客観的になら、是非とも見たい。シェルベートの返り血に染まる魅惑的な美しい顔とゾクッとさせる笑顔、絶対に見惚れてしまう。しかしそれは、客観的にならである。私が首を刺されてまで見たくはない。というより、刺されていたら見れない。やはり、そこはゲーム内での客観的に見るのが1番だ。
「あーあ。こんな擦り傷では僕の痕は残せないね。身体にも、心にも」
頬の擦り傷を触っているシェルベートを直視して見上げる。この言葉にも覚えがなかったのだ。致命的な一撃を避けたことへの歪みなのか、やはり何かが変化しているのか。
私は、まだ不確かだが、行動に移すことにした。
「シェルベート…」
自分から腕を伸ばし、シェルベートの首に手を掛け顔を近づけさす。そして目を瞑って、その薄く形の良いシェルベートの唇に口付けをした。
「んっ…」
深くなっていく口付けに仕掛けた私が翻弄されそうになる。え?キスしたいだけじゃないのかって?すみません。少しだけ思いました。でも、これはゲームでは1度たりともない主人公の行動。
主人公はされるがまま状態がゲームの鉄則だったからである。
さぁ、シェルベート!どうでる!あわよくば、私のことを飽きたと言って城下に捨てて欲しい!いや、捨てるのはやめて!ちゃんと生活できる程度のお金は渡してほしい!
私情を挟んだが、私の行動、言動の一つがシェルベートを変えれるのなら、やれるものはやってみようと思ったのだ。
この後すぐ、私の仮説は間違っていると知る。いや、変化は間違いではないが思わぬ変化だった。
「嬉しいなぁ。ユキノからしてくれるなんて」
口を離して私を見下げるシェルベートの瞳が、執着の色で染まっていたように見えたからーーー。




