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血で穢れた心を癒すのは

村の連中ではなく、一族でした。

申し訳ありません。

少し改稿と加筆をしています。それでも短いです。

裸の描写はあります。苦手な方はお気をつけください

 ある真夜中のこと。

 返り血を浴びた姿で帰ってきた蘭月と香夜は、ユキノに気付かれないよう湯をはった浴槽に体をつけた。


「ーーー狂ってる」


 濡れた前髪を掻き揚げながら呟いた蘭月に香夜は同感する。


(やしろ)の外には出さない方がいいな。血の一滴すら残さず骨の髄まで喰う勢いだ」


 村の連中が狂い始めた……姫が現れて村にいるにも関わらず当主らが独占している。と訴えかける反村鬼(はんそんき)が増えてきたのだ。

 この前は特に酷かった。人間の子どもを使って我が子を偽り、血を恵めと虚言を吐く。

 人間は弱い、この村に訪れただけで邪鬼に当たり体が弱くなる。それ以前に病の効きようが早いのだ。

 見るも痛々しい遺体が両親と偽った鬼の家から見つかったが、鬼は懲りずにまた外から連れてこようとする。

 人攫いーーーその類が何件も出てきている。

 蘭月は眉間を掴むと更に険しい顔をした。


「反村鬼は始末するとして、問題は姫様だな」

「ああ、この村に来て日に日に血が濃くなっている気がする」


 香夜は思った。現に浴槽と離れているユキノの部屋からは、流血してないというのに血の香りが鼻腔を擽るのだ。

 とても甘く、熟しきった食べ頃の……

 そこまで思って首を横に振る。自分が吸血鬼になってユキノを見た感想が美味しそう、であった。

 このままではいつかユキノを、それこそ骨の髄まで喰らってしまうのではないかと思うぐらい。


「…ユキノ」


 ぽそりと呟かれた名前は儚く湯気のように消える。両手で鼻と口を隠し、その頬が幾分赤く染まっていた。

 上気(のぼ)せたのか?とはあえて聞かなかった優しい兄である。


 元々、鬼には同族意識はなく強さが全てだ。弱いものは力を欲する気持ちが高いし、強いものは何かと無関心で欲がない。

 ただこの村は楠木家当主の図らいで守られていると言っても過言ではなく、楠木一族の端っこまでもを掻き集めた村。


「香夜、俺はそろそろあがるぞ」

「…ああ」


 何が言いたいかというと、蘭月と香夜にとって一族の村鬼は大事なんてものじゃなくいつでも殺せるくらい無関心な存在なのだ。

 何百年も守り続けた結果、一族の村鬼は当主らを敬い守ってもらうのが当たり前となっていたが、自分らの立場を忘れたのか……


「虫唾が走るな」


 鬼としての力が一瞬強まり、蘭月は長い廊下に大きな亀裂を残した。

 イチョウが慌てて宥めたから良かったものの、あと少し力を出していれば社は木っ端微塵になってしまう。


 村鬼たちにしてきたことを後悔しながら血なまぐさい臭いが残る体を、磁石で引き寄せられるように廊下の先へ向けた。

 生乾きの髪が床に(しずく)を落とし、目的の襖の前で立ち止まる。ゆっくりと襖に手を掛ければそれよりも早く襖が開いた。


「な、んだ。蘭月か」


 びっくりさせないでよ、と言われ自分の方が驚いたと言いたい。

 大きな瞳がパチクリと瞬いて、流れる黒髪を横に緩く括っているユキノは安堵の息を吐きながら、もう布団の上に座り込んでいる。

 怪我などは決してしていないのに甘く狂いそうな血の匂いに心は先程よりも幾分か穏やかになっていたーーー。


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