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ヒーローみたいなのよ。オタク…

 銀の短剣で心臓を一突き。それがVampire Loversの死亡ENDであり、電源をぶちッと切っても変わることはなかった死のENDであった。


 あぁ、死んじゃうのか。

 心臓を一突きって即死かな?即死だといいな。


 私はそんなことを思いながら、最期を迎える瞬間まで震える身体を必死に抑えて待った。

 短剣らしきものが心臓辺りにくるのが分かる。シェルベートが笑ったことも、クスッとした音で分かった。

 ーー夢を見させてくれてありがとう。


 ニコリと頑張ってシェルベートに笑顔を見せた私を、誰かによって強い力で引き寄せられる。

 短剣は私の腕を掠り、何が起こったのか分からず目を見開くと、 そこには少し呆然としたシェルベートがベッドに座っていて、私を支えている力強い腕が誰のものか直ぐに分かった。


「ど…うして」


 少しの安堵と不安が一気に押し寄せるが、それを吹き飛ばすかのように私は美月に、口付けをされた。


「…んっ、」


 温かい唇に驚き目を瞑っている金の睫毛がよく見える。

 触れるだけの口付けに、すぐ金の瞳が私を見つめ離れた。


「雪乃は…殺させない!」


 堂々たる美月の姿に息が詰まる。抱き締められているせいか安心感に包まれて、目頭が熱くなった。


「かっこいいのよ。アニメの主人公(ヒーロー)みたいで」


 ポカッと美月の腕を軽く殴り涙を指で拭うと、美月が片腕で私を抱き締め蹴破って入ってきたのだろう無残に割れた窓から出て行く。

 殺気だけ残しスタコラサッサととんずらする美月に変わらない笑顔を見せた。

 美月の行動は正しい。敵の陣地でたった1人で戦うなんて、アニメの世界なら可能だが、現実では到底無理だ。

 空を飛びながら温かい美月の腕に生きてると実感する。


「…怖かったの」

「あぁ。」

「本当に死ぬんだなって思ったの」

「……」


 私のポツリポツリの言葉を美月は静かに聞いてくれて、決定的な言葉は返ってこなかったけど、今以上に強く抱き締められて私は泣いた。

 空の上で、仮にも男友達だった美月の腕の中で赤子のように泣きじゃくった。

 泣いていた私の頬に、しょっぱい水滴が落ちる。

 見上げてみると、香夜が何とも頼りなく涙を流していた。


主人公(ヒーロー)が泣かないでよ」

 頼りないでしょ。と溢れでる涙が増して、美月は片腕で涙を拭った。


「うるさい、どーせ俺は美月だよ」

「…助けてくれてありがとね、美月。」


 美月の首に腕を回し、抱き締める。

 美月はガクンと空中で落ちそうになったが何とか立て直したみたいだ。急な私の行動に驚いたのだろう。


「いい加減泣き止めよ。不細工がもっと不細工になるぞ」

「うるさい、オタク」

「オタクオタクゆーな。不細工」

「オタク」

「不細工」


 そんな馬鹿な言い合いをしていると深い森に真っ赤な鳥居が見えた。

 美月はその鳥居を難なく潜り抜け、見覚えのある社の前に私を降ろす。


 神社の前に佇む、白の羽織に赤の椿が咲き乱れていて香夜より短い髪がサラリと揺れる。

ーー蘭月だ。


『雪乃、蘭月には近付くな。あいつはゲームの中とは少し違う』


 美月の忠告を思い出し、ギュッと赤の羽織りを掴む。


「お姫様は無事奪還出来たんだな」


 蘭月の鈴の音が転がるような声色が私をすり抜け、香夜に向けられた。


「当たり前だろ」


 上手くやったといわんばかりの得意そうな顔つきを蘭月に見せる美月は、私の反応に察したらしく背中を優しく叩いてくれた。


「香夜、言わなくてもいいよ」


 ふわりと急に近づいて来た蘭月に構えの体勢をとっていると、私の警戒をよそに微笑むだけの蘭月は踵を返して社の中に入って行った。


「なんなの?」


 意味不だ。と思っている私に、美月は頭を掻きながら「あー。うーん」と畝っているだけだった。


「うーん、近付いても大丈夫だ。雪乃、安心して此処で暮らせ」


 少しはっきりしない発音の美月に、私の頭上はクエスチョンマークだらけである。

 近付くなと言ったり、大丈夫だと言ったり…はっきりしないうちは警戒を解かないんだから!!


 かくして、私の危険で安全な生活は幕を開けたのであった。


美月「あー、俺のことを蘭月の前で美月とか言わないようにな」


雪乃「どうして?」


美月「俺は今、香夜として生きてるんだ。美月はせめて2人の時に…」


雪乃「わかった。」



こうして、雪乃が香夜のことを美月というのは2人っきりの時だけです。

2人っきりの時だけです。大事なので2回いいました。

「美月という名は捨てたんだ」はありません。

美月は美月で、本当の名前を雪乃から言ってもらいたいのです。にやけます。

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