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美月視点。好きじゃない、大事なんだ

美月視点です。

短いです。

視点の切り替えに少々戸惑いが見られる文ですが、広いお心で読んでくださると嬉しいです。

『僕たちの家に帰ろう?蜜よりも甘いお仕置きをしてあげるから』


 そう言って本来ここへ来られるはずがない吸血鬼が結婚してからでないと聞けない台詞を残し、雪乃と共に消えた。

 行き場の失った手は宙を彷徨う。

 自虐のような笑みを浮かべて、狂ったように笑う自分を客観的に見つめていた。


「俺が知らない間に吸血鬼のものになってたなんて。悪い虫は排除するべきだよなぁ?雪乃…」


 ふつふつと湧き上がる吸血鬼への嫉妬に、雪乃に贈った羽織りをぐしゃりと握り潰す。


「大事に大事に見てきた雪乃を吸血鬼なんかに渡さない。雪乃は俺のものだ」

「ーー香夜、姫様に執心してんの?」


 独り言のつもりで言ってたが、双子の兄の蘭月に聞こえていたらしい。

 蘭月は相変わらずの綺麗な顔で静かに俺を見下ろし、執着の欠片もなく雪乃がいない座敷を見回した。


「暴れねぇの?てっきり狂乱すると思ってたのに」

「なんで?ああいう意気がってる姫様は嫌いじゃないけど、執着するほどでもない」

「ふーん」


 想像してたのと違った蘭月の反応に、俺は視線を右下に逸らす。

 安堵する自分もいて、なんだよ。これじゃあ俺が雪乃のこと好きみたいじゃねえか。と思って首を横に振った。

 あんなじゃじゃ馬、好きになるはずがない。

 冷静に立っている蘭月を見て全然、雪乃に警告するほどでもなかったな。むしろ、俺の方が少しヤバかった気がするしと思う。

 …ゲームではわかるはずがなかった『蘭月』という兄であり、憧れの存在。

 ゲームのころの性格の偏見で、今まで全然気にしてなかったが蘭月は思ってた以上に大人だった。それに俺を卑下する気配なんて、考えてみれば1度もなかった気がする。いつも堂々としていて、その風貌は当主に相応しかった。

 そりゃあそうか。いくら外見が香夜でも、中身は美月という香夜ではない人格なんだ。ただの一高校生だった俺に卑下するわけない。

 そんなことを思って自分を卑下していると、蘭月はここであったことを察し親指を出口の方へ向けた。


「いいのか?吸血鬼に攫われたのに」


 蘭月の含み笑いに便乗して立ち上がる。


「まぁ、見殺しとか後味悪いしな」

「素直じゃない奴。俺も加勢しようか?餌はなるべく側に置いておきたい」

「…いや、俺1人で充分だ」


 こうして、蘭月に背中を押され吸血鬼の王子が住んでいる城へ向かった。

 あいつは、馬鹿で、美形が好きで、高1の俺に何の意識も持たないで、何か抜けてる所もあって、妙に執心されられる変な女だ。

 そんな…、そんな雪乃が、俺は大事に思っていると思う。


 あの乙女ゲーは雪乃がやっている姿の端で見ていただけだが、結構残酷なシーンがあった。

 ん?そういえば、雪乃の首に凄い傷痕があった気がする。真新しいような、生々しい傷痕だ。

 そう考えて、サァーッと血の気が引くのを感じた。


 あの乙女ゲーは主人公を傷付けるシーンがよくあって、やっている雪乃は傷つけられているのに凄く興奮していた。

 だが、これは現実(リアル)であって痛みが勿論あるに決まっているのだ。


「雪乃…ッ!」


 俺は城へ着くと、窓から信じられない台詞が聞こえた。


『僕だけの、愛しいユキノ』


 その台詞は、雪乃が何度も悔し涙を流す理由の死亡ENDが告げられる台詞だったから。

 窓越しに見る雪乃は絶望した表情をしていて、流血した瞳から涙を流してただただ動けずにいた。


 吸血鬼の王子は銀の短剣を雪乃の心臓へ向けている。その表情は見えないが、雪乃は目を逸らせずにいるのだろう。

 覚悟を決めたように瞳を瞑った雪乃に向かって俺は今度こそ、そのか細い腕を掴んだ。



次回は視点を戻します。

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