逃げられるはずがない。○○END
なぜ、男と女の友達の関係である私たちが鎖骨の黒子の数まで知っているかというと、大凡遡らなければならない。
まだ美月が生きていた時期、美月は主人公最強のアニメにハマっていた。
『やっぱ、こういう最強ものって主人公に特技やら特徴があんだよな〜』
自分にはない怪我の痕や能力を羨ましそうに眺める美月。そんな美月に、私はドヤ顔で誰にも無い私の特徴を教えてやったのだ。
最初は急に脱ぎ出した私に何だ何だ!と戦闘態勢に入る美月だが、そんな美月を簡単に捕まえて鎖骨を覗かせるには苦労した。
どんだけ拒否反応を示されたことか…。
『ふふん。どうよ、ラッキーセブン黒子ちゃん達は』
『あ、うん。まぁ、お前の顔が飛んだときの身元確認にぴったりだな』
まぁ確かにそうだけど!私は何ともやるせない気持ちになったのを覚えている。
「まさか、あの時のことが今役に立つとはねー」
私が笑いながら言うと、美月は顔を赤くした。
「本当に、あの時は俺の貞操奪われるのかと…」
「ばか!」
泣く仕草をする美月に一発かまして、向き合う。美月はいててと殴られた頭をさすって、私の腕を思いっきり自身に引き寄せた。
「本気で殴りやがって、犯すぞ」
私は抵抗する暇もなく美月に身体を預ける体勢となり、そんな中耳元で言われた言葉。思わずゾクゾクして、へたれこむ。
「…冗談だ。っ!?」
私のへたれ具合に少し笑った美月は、急に私と距離を置いて何やら一瞬気配がした襖の先を鋭く見つめた。
「雪乃、蘭月には近付くな。あいつはゲームの中とは少し違う」
「…え?」
真剣な表情で美月が忠告した瞬間、私が詳しいことを聞こうとすると襖がガタガタと揺れだし、一瞬で襖がガラスの破片のように散らばった。
美月は蘭月ではない気配を一瞬遅れて察知し、その気配のする方へ顔を向ける。
横に居たはずのユキノを抱きしめながら浮かび上がっている吸血鬼であるシェルベートを呆然と見上げた。
「そんな、強力な結界を貼っていたのに」
驚きを隠せない様子の鬼の当主の弟である香夜に見向きもせず、脱力が絶えない笑みを見せるユキノの瞳にキスを落としたシェルベート。
「こんなところに居たんだね。ユキノ…捜したんだよ?」
ーーあぁ、やっぱり逃げられない。
シェルベートに抱きしめられながら、何度目かの逃亡の失敗に涙が頬を伝う。
我に返った美月が、ユキノを取り戻そうと手を伸ばすが、それを遮断するかのように消えていった。
「僕たちの家に帰ろう?蜜よりも甘いお仕置きをしてあげるから」
そんな言葉を残して、見慣れた部屋へ長い足を降ろす。
どうしてこんなにも早く、少なくともゲームの頃は主人公が事件に巻き込まれていくまで主人公を見つけられないはず。
私は優しくベッドに降ろしたシェルベートを見据えた。
これも変化なのだろうか。私が逃げたことへの…
「ユキノ…『逃げれるものなら逃げてごらん?』とは言ったけどね。僕以外の男に逃げていいとは言っていないよ?」
「ッッ!」
狂気に満ちた赤い瞳に睨みつけられ、身動きが取れなくなる。シェルベートは私の脹脛から太ももにかけて指でなぞり、太ももに巻かれた包帯にピクリと指を止めた。
「どんなお仕置きがいいかな?この包帯の下に隠れている傷をまた抉ってあげようか。それとも、僕以外の男に触れられたところをマーキングし直すのが先かな?」
くすくすと笑いながらシュルシュルと美月に巻かれた包帯を解き引っ掻かれた傷にそっと触れるシェルベート。身体がビクリと揺れる。
「痛そうだね?ユキノを傷つけていいのは僕だけだって言ったのに」
シェルベートは蘭月に付けられた傷に牙を立てて血を啜りだす。まるで上書きをするような容赦のない痛みに、苦しい声が漏れる。
「愛してるよ、ユキノーー。」
甘い囁きとは裏腹に、血を啜る行為は何時間も、シェルベートの気が済むまで行われた。
血を啜っている間は自身が身に付けていたネクタイで私の両手を封じ、唇を貪り、甘く悲しい表情を時折見せる。
やめて、そんな表情しないで…
「分かってる。ユキノが愛しているのも僕だけだって」
月明かりに照らされた白髪がユキノの頬を撫で、赤い瞳が真っ直ぐとユキノを捉えて離さない。
「僕だけの、愛しいユキノ」
死亡ENDに入ったことを知らせる、シェルベートの優しい声音が私の耳に届いた。
「い、や…」
シェルベートの死亡ENDは、逃げられない。
執着に染まった赤い瞳を見上げながら自分の最期に目を瞑った。
短くて申し訳ありません。
次回は美月視点からスタートです。
死亡フラグですね、(‘・ω・′)ザンネン!




