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34.墜落

 「智慧理、大丈夫!?」


 智慧理の左耳のインカムから紗愛の声が聞こえてくる。


 「はい、何とか……」


 生命力増幅機能によって、智慧理は立ち上がれる程度には回復していた。


 「ヴァヴの皮膚にはかなりの衝撃吸収能力が備わってるみたいね。硬質化させた上に余剰生命力まで上乗せした智慧理のパンチでもダメージが通らないなんて……やっぱり上位眷属は化け物ね」


 紗愛は採石場から離脱すると同時に魔術によって智慧理と視界を共有しており、戦況を正確に把握している。


 「それと鹿籠さんが与えた傷がすぐに回復してた辺り、生命力も相当高そうね。智慧理の生命力増幅機能が生まれつき備わってる感じかしら」

 「聞いただけでもうやってられませんね」

 「同感だわ」


 智慧理のパンチを無力化するほどの衝撃吸収能力を持ち、それでいて傷の回復も智慧理と同程度に早いとなると、戦う気力が削がれるほどに理不尽な相手だ。


 「まずはあの皮膚を突破してダメージを与える方法を考えないと話にならないわね……」

 「とりあえず色々やってみるしかないですね」


 智慧理は両手にそれぞれオズボーンとヘリワードを召喚し、地面から飛び立ってヴァヴへと吶喊する。

 まずはヘリワードの引き金を引き、<排斥の光芒>をヴァヴへと放つ智慧理。ビームはヴァヴの左頬の辺りに命中し、小さな熱傷を作ったが、その傷はあっという間に回復してしまう。


 「ですよね!」


 露華の<死光線>が効いていなかった時点で、ヘリワードが通用しないことは智慧理も想定していた。万に一つ通用するかもしれないので一応試してみただけだ。


 「ォォォォォ――」


 ヘリワードのビームが鬱陶しかったようで、ヴァヴが不機嫌な咆哮を上げる。咆哮は衝撃波となって智慧理を襲った。


 「効きませんよこんなの!」


 しかし衝撃波は智慧理にとって致命的なダメージにはならない。全身を打ち付けられる感覚に顔を顰めながらも、智慧理はヴァヴに肉薄していく。


 「てやぁっ!」


 ヴァヴの顔のすぐ隣を通り抜け、智慧理は右手のオズボーンをヴァヴの太い首へと振り下ろした。

 オズボーンの刃はぐにっとヴァヴの首の肉に沈み込み、しかし皮膚を切り裂くことなく弾き返される。


 「嘘、オズボーンもダメ!?」


 オズボーンは今までに啜った邪神眷属の血液によって切れ味がかなり強化されている。そのため智慧理はオズボーンには期待を寄せていたのだが、残念ながらこちらも通用しなかった。


 「じゃあもう何も無いんですけど!?」


 智慧理は手持ちの攻撃手段を一通り試してみた。その全てが通用しないとなると、中々に絶望感が出てくる。

 攻めあぐねる智慧理に対して、ヴァヴは再び肩の触手を鞭のように操り攻撃を仕掛けてくる。しかも今回は左右2本の触手を両方使った同時攻撃だ。


 「わぁ危なっ!?」


 触手の威力を身を以て知っている智慧理は、死に物狂いで触手の攻撃を回避する。背面飛びのような姿勢で触手を躱した智慧理は、そのまま一旦体勢を立て直すために地上に降りた。


 「私も色々やってみます~」


 ヴァヴの頭上に廻廊を通じて露華が現れる。直後ヴァヴの巨体の周囲に無数の小さな廻廊が出現し、露華は祈るように両手を組み合わせた。


 「エルカサム!」


 露華が<死光線>を斉射する。廻廊の中へと消えていった黄金色のビームは、先程と同じようにヴァヴの全身に余すところなく命中する……のではなく。

 ヴァヴを囲む廻廊から飛び出してきたビームは、太陽光を虫眼鏡で集めて紙を焦がす理科の実験のように、その全てがヴァヴの1番前の右足の付け根に命中した。


 「ォォォォォ――」


 またしても咆哮を上げるヴァヴ。しかし今までとは違い、その声からは苦悶の感情が読み取れた。

 見るとビームが直撃した右足の付け根は、皮膚が抉れてその下の肉が露出していた。数十もの<死光線>を1点に集中させることで、ヴァヴの皮膚の防御を突破することに成功したのだ。


 「やった!鹿籠さんお手柄だわ!」


 インカムから紗愛の歓声が聞こえてきた時には、智慧理は既にヴァヴの傷口に向かって飛び立っていた。

 肉が露出している傷口であれば、智慧理の攻撃が通用する可能性がある。既に傷口は自然治癒が始まっており、皮膚が再生するまで時間の余裕はない。それらの情報を脊髄反射的に処理し、智慧理は即座に攻撃行動に移ったのだ。


 「てやぁっ!」


 ジュクジュクと音を立てながら再生している傷口に、智慧理は渾身の力でオズボーンを突き立てる。皮膚が失われている傷口は黒い刃を跳ね返すことなく、オズボーンは深く傷口に突き刺さった。


 「ォォォォォ――!?」


 ヴァヴが明確な悲鳴を上げる。オズボーンに宿る呪詛が苦痛を増幅し、ヴァヴを悶絶させていた。


 「まだまだぁっ!」


 更に智慧理はブーツの底で傷口に刺さっているオズボーンの先端を思いきり蹴りつけた。それによってオズボーンは傷口のより奥深くにまで押し込まれ、刃だけでなく柄の部分までもがほぼ完全に埋没した。

 これで何があってもオズボーンが抜けることはほぼほぼ無くなった。


 「よしっ!これで最悪でもめちゃくちゃ時間稼げば……!」


 オズボーンの刃は体液を吸収する能力を持つ。オズボーンをヴァヴに刺すことに成功した今、最悪の場合でもオズボーンがヴァヴの体内の水分を全て吸い尽くすまで持ち堪えればヴァヴを殺せる。


 「油断は禁物よ、智慧理。これだけ体が大きいと、オズボーンが水分を吸い尽くすまでに何時間もかかるわ。それだけの時間があったらヴァヴは何人殺せるのか分かったもんじゃないわよ」

 「分かってます。それに何なら、今のヴァヴの方が街にとっては危ないかもしれないですし」


 オズボーンがもたらす苦痛に耐えかね、ヴァヴは激しく地団駄を踏みながら肩の触手を振り乱し始めている。この状態のヴァヴが街に出てしまえば、進行方向の建物は全て薙ぎ払われてしまうだろう。

 ヴァヴにタイムリミットを与えることこそできたが、御伽原の街に対するヴァヴの脅威度は低減していない。智慧理と露華は依然として、ヴァヴをこの採石場に留めておく必要があった。


 「ここからが本番、って感じですね!」


 智慧理は余剰生命力を右拳に螺旋状に纏わせると、そのままヴァヴの左前脚を殴りつけた。


 「ちょっと智慧理、無闇に攻撃しても……」


 紗愛は先程智慧理のパンチがヴァヴに通用しなかった場面を、智慧理の視界を通して目の当たりにしている。そのため紗愛は智慧理が効き目の薄い攻撃を闇雲に繰り出したものと思ったのだが。


 「……え?」


 智慧理の拳が叩き込まれたヴァヴの脚には複雑な裂傷が刻まれ、そこから黒い血液が飛び散った。


 「嘘……効いてる……!?」


 先程はヴァヴには効かなかった智慧理のパンチが、今回はヴァヴにダメージを与えていることに、紗愛は困惑を隠せない。


 「智慧理、あなた何したの?」

 「私ね、基本が疎かになってたんです」

 「基本?」


 智慧理が左の拳もヴァヴの脚に叩き込むと、同じように殴打した箇所に複雑な裂傷が生じる。


 「私、ちっちゃい頃におばちゃんから格闘技習ってたんです。それでその時におばあちゃんが素手でヒグマを殺した時の話を教えてもらって」

 「なんて?」

 「おばあちゃんは言ってました。自分よりずっと体が大きい相手と戦う時は、普通に殴るだけじゃダメだって。体が大きい相手には、体の『内側』に攻撃するのが大事なんだって」


 話している間にも智慧理は次々と拳を繰り出し、ヴァヴの脚に着実にダメージを蓄積させていく。


 「それでおばあちゃんは私に、『パンチに独特な捻りを加えることで相手を内側から破壊する』技を教えてくれました。おばあちゃんはこの技でヒグマの心臓を破壊してヒグマに勝ったらしいです」

 「さっきから現実の話してる?」


 ヴァヴが攻撃されている左脚で智慧理を蹴り飛ばそうとするが、智慧理はひらりと攻撃を躱した。


 「でもおばあちゃんは私に、この技は絶対に人間には使っちゃダメだって言いました。ヒグマを殺せるこの技を、人間相手に殺さないように使うのは無理だって」

 「でしょうね……」

 「だから私、この技は封印してたんです。それで長いこと使ってなかったせいで、邪神眷属と戦うようになってからもすっかりこの技のことを忘れてて」


 変身形態の智慧理は、生命力増幅機能と余剰生命力のおかげで、大抵の邪神眷属を膂力において上回っている。そしてパワーで勝っていたために、智慧理はこれまでの邪神眷属との戦いではテクニックを疎かにしてしまっていた。


 「でもヴァヴと戦って思い出したんです。こういう強くておっきい敵と戦うための技を、おばあちゃんは私に教えてくれてたって」

 「そ、そう……」

 「だから私は、こんな怪物なんかには負けません!」


 智慧理の捻りを加えた渾身の拳がヴァヴの脚に突き刺さる。

 その一撃が引き金となって、ヴァヴの左脚に蓄積されていたパンチ数十発分のダメージが一気に決壊。左脚は内側から爆発するように肉が弾け、本体から千切れ落ちた。


 「ォォォォォ――」


 ヴァヴの苦悶の咆哮が採石場に木霊する。


 「凄い、ヴァヴの脚をパンチだけで破壊するなんて……!」


 インカムから紗愛の驚嘆の声が聞こえてくる。だが戦果を挙げたのは智慧理だけではなかった。

 ズン!と轟く地響きの音。視線を向けるとヴァヴから少し離れた地面に、ヴァヴの肩から伸びていたはずの長い触手が根元から千切れて落ちていた。切断面には黒く焼け焦げたような跡が見える。


 「はぁ、はぁ……智慧理さん、やりましたよ~」


 智慧理の側に息を荒げた露華が飛んで来る。


 「あの触手露華が千切ったの?」

 「はい~……<死光線>いっぱい撃ちました~……」


 1発1発ではヴァヴにダメージを与えられない<死光線>でも、複数を同時に1ヶ所へと集中して撃ち込めばそれなりの傷を与えることができる。それを学習した露華は、智慧理がひたすらヴァヴの左脚を殴っている間、絶え間なくヴァヴの左肩の触手の根元に<死光線>を撃ち込み続けていたのだ。

 そして奮闘の末、露華は触手を破壊することに成功したのだ。


 「凄いね、露華!」

 「ありがとうございます~……」


 智慧理と露華はハイタッチを交わした。

 小さな傷に対しては智慧理と同程度の自然治癒力を発揮していたヴァヴだが、欠損した部位に関しては流石に再生の兆しが見えない。2人はここにきてようやく、ヴァヴに痛手を与えることに成功したのだ。

 しかし戦果にはそれに見合うだけの代償を伴っていた。


 「あ……」


 不意にふらりと体勢を崩す露華。


 「ちょっ、大丈夫!?」


 露華が落下する前に智慧理は慌てて露華を抱き留め、ゆっくりと地上に降下した。


 「露華、どうしたの?どこか怪我した?」

 「怪我はしてないです~。でももう、魔力がすっからかんで~……」


 露華はにへっと笑顔を智慧理に向けるが、表情では隠し切れない程度にはその顔色は悪かった。

 ただでさえ通常の<排斥の光芒>と比較して魔力消費の激しい<死光線>を何百発と撃ち続けたせいで、露華の精神力は限界寸前にまで擦り減っていた。


 「露華。後は私に任せて露華は休んで」

 「大丈夫ですよ~、私はまだまだ戦え……おっと」


 口では大丈夫と言いつつ、智慧理の腕を離れた途端に立ち眩みを起こす露華。


 「ほらもう、そんなフラフラな人が戦える訳ないでしょ?いいからここは私に任せて、露華は休んで?」

 「でも……」


 その時ヴァヴが怒りの声と共に、右肩から伸びる触手を智慧理と露華目掛けて超音速で振るった。


 「っ、露華ごめん!」

 「ひゃわぁっ!?」


 咄嗟に露華を突き飛ばす智慧理。疲弊していた露華は全く抵抗できず、突き飛ばされた勢いで地面をゴロゴロと転がる。

 少々手荒な方法だが、露華を鞭の軌道から外すことに成功した智慧理。続けて自身も鞭を回避しようと動き出すが、


 「うぐぁっ!?」


 そもそも超音速の触手相手に露華を逃がせただけでも奇跡的なのだ。智慧理自身の回避など到底間に合うはずも無く、智慧理は触手に胴体を抉り取られてしまった。


 「智慧理さん!?」

 「っ、来ないで!」


 駆け寄ろうとした露華を、智慧理は血反吐を吐きながら制止する。


 「私なら大丈夫……こんなのすぐに治るから……」

 「で、でも……!」


 智慧理は上半身と下半身が千切れかかっているような、重症という表現すら生温いほどの損傷を受けている。その姿で「すぐに治る」と言われても、露華が信じられるはずもない。


 「いいから早く逃げて……!」

 「い、いやです!」

 「っ、今の露華なんかいても足手纏いなの!さっさとどっか行って!」


 強い言葉を投げ付ける智慧理。その攻撃的な眼光に露華はビクッと肩を竦める。


 「早く!」


 智慧理が血と共に怒声を吐き出すと、露華は唇を固く引き結んでくるりと智慧理に背を向け、廻廊を開いてその中へと消えていった。


 「慣れないことしたわね、智慧理」


 紗愛の労うような優しい声がインカム越しに智慧理の耳に届く。


 「別に……慣れないことじゃないですよ」

 「強がっちゃって」

 「まあ……赤ちゃん怒鳴っちゃったのは気分悪いですけどね……」


 智慧理の怒声に怯えたのか、もしくはそれ以外の原因か、露華の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。露華を鳴らせたという事実に智慧理の心はキリキリと痛んだ。


 「さて、と……」


 智慧理は千切れかかった体を無理矢理動かして立ち上がる。


 「ちょっと智慧理、そんな体で何するつもり?」


 紗愛が焦ったような声で智慧理に尋ねる。


 「紗愛先輩、1つ聞きたいんですけど……」


 智慧理は紗愛の問い掛けには答えず、自分も質問を返した。


 「ヴァヴの頭にも脳はあるんですか?」

 「えっ……?」


 紗愛は智慧理の質問の意図が分からず、一瞬言葉に詰まった。


 「どうですか?頭に脳」

 「ど、どうだろう……多分あると思うけど、解剖してみないと正確なことは……」

 「ありがとうございます」


 すると智慧理は黒い翼を羽ばたかせ、最高速度で上空へと飛び立った。


 「ちょ、ちょっと!?智慧理何してるの!?」


 紗愛が驚いている間にも智慧理の体はみるみる上昇し、遂には地球が丸く見えるほどの高度にまで到達する。


 「そんな体で何バカなことやってるの!?空で体を千切れ飛ばして花火にでもなるつもり!?」

 「そんなことしません」


 智慧理はようやく上昇を止め、雲の上の澄んだ空の中で一瞬静止する。そして直後、智慧理の体は重力に引かれて落下を始めた。


 「今からヴァヴの脳をぶち壊します」

 「えっ!?」

 「正直言って私もうあんまり体力残ってないので。一撃で決めます」


 ヴァヴに抉られた胴体はほんの少しだけ回復したが、依然としていつ上半身と下半身が泣き別れしてもおかしくないような惨状だ。紗愛の懸念通り、上昇の負荷によって肉体が爆散し肉の花火と化していてもおかしくなかった。

 そんな状態の智慧理が、真面にヴァヴと戦ってヴァヴを採石場に足止めできるはずもない。ヴァヴは容易く智慧理を蹴散らし、街に出て破壊を始めるだろう。

 故に智慧理はこれまでのように少しずつヴァヴの力を削いでいくのではなく、たった一撃を以てヴァヴの活動を停止させるという手段を選んだ。肉体への負荷を度外視した上昇は、そのための下準備だ。


 「ちょっと智慧理、あなたまさかヴァヴの頭に墜落する気!?」

 「あっ、正解」


 智慧理は高速の飛行能力を下方向に向けて発揮し、自由落下を更に加速させる。


 「正解じゃないわよ!?ただでさえヴァヴの頭への攻撃は難しいのに……!」


 ヴァヴは咆哮を衝撃波に変えるという攻撃手段を持ち、更に肩という頭部に近い位置に強力な武器である触手を備えている。そのためヴァヴの頭部への攻撃は難易度が高く、智慧理も露華もこれまで頭部は避けてヴァヴを攻撃していた。


 「でも一撃で終わらせるなら脳狙うのが1番確実ですよ」

 「だからってそんな無茶な攻撃は無いでしょ!?智慧理も無事じゃ済まないわよ!」


 ただでさえボロボロの智慧理の肉体だ。雲の上という高高度から地上に落下して無事で済むはずがない。


 「無事では済まないかもですけど、最悪のことにもならないと思いますよ。私頑丈ですから」

 「生命力増幅機能にも限度があるのよ!?あなたは頑丈だけど死なない訳じゃ……」

 「それにほら、もう今更やめますはできませんよ」


 既に智慧理の視界には地上と、地上に鎮座するヴァヴの黒い巨体が映っている。ここまで地上に近付いてしまえば、今から減速し始めたとしても墜落は避けられない。

 紗愛が何を言おうと、智慧理はもう止められないのだ。


 「ああもうっ!絶対に死ぬんじゃないわよ!」

 「勿論!」


 智慧理は犬歯を剥き出しにするような獰猛な笑顔を浮かべ、右腕に力を込める。


 「ォォォォォ――」


 上空からの襲撃者に気付いたヴァヴが衝撃波を放とうとするがもう遅い。


 「死に晒せぇっ!!」


 ドリルのように強力な捻りが加わった智慧理の拳が、ヴァヴの脳天を直上から撃ち抜いた。

 重力+飛行加速力+智慧理自身の身体能力。そこに硬質化した拳自体の硬度が加わり、その一撃はただのパンチとは考えられないほどの壊滅的な破壊力を生み出した。

 爆発音に似た轟音が採石場中に響き渡る。

 その隕石の如き一撃を頭部で全て受け止めたヴァヴは、吹き損なったトロンボーンのような低く短く耳障りな音を喉から漏らすと、その声を最後にぐらりと巨体を傾けた。

 激しい地響きを立てながら岩の地面に倒れ込んだヴァヴは、そのまま動かなくなった。死んだのか、はたまた脳震盪を起こしただけなのか。外見からでは判別できない。


 「智慧理!大丈夫!?」


 紗愛がインカム越しでもやかましいほどの大きな声で智慧理に呼び掛ける。


 「死んでは、ないです……」


 墜落の衝撃を最も強く受けた右腕は根元から吹き飛び、元々千切れかけていた上半身と下半身は完全に真っ二つ。今の智慧理に残っているのは頭と胸と左腕くらいだ。

 しかしそんな美術室の石膏像のような有様になっても尚、智慧理は命を繋ぎとめていた。生命力増幅機能様様だ。


 「あ~……紗愛先輩ごめんなさい、私これ以上はちょっともう何もできなさそうです」

 「でしょうね!ってかちょっと、マジで死ぬのだけはやめてよ!?」

 「死なないです、けど……ちょっと、寝ます……」


 その言葉を最後に、智慧理はゆっくりと瞼を閉じた。

次回は11日に更新する予定です

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