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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第50話 第一次城壁防衛戦 Ⅰ

「相談は終わったかい?」


 ギルドから出た僕達を待っていたのは、転移陣らしきものの上に立つミストだった。

 その周囲には、他の冒険者やジークさんどころか、ハンザムの姿もなく、一瞬僕はミストが敵対した可能性を考える。


「他の冒険者達はすでに壁の外で戦闘しているだけだ。そう敵視しないでくれないか?」


「……自分の行いを省みてから言ってください」


 ミストの言葉を、ナルセーナがばっさりと叩ききった。

 そのナルセーナの言葉が、僕と同じことであることを示すように、僕もミストを睨みつける。


「そもそもどうして、ジークさん達は勝手に城壁の外に……」


「ああ、私が迷宮外に転移させた」


「なっ!?」


 何でもないことのように、ミストはそう告げる。

 その態度こそが、より僕に驚愕を抱かせることになった。

 ……このエルフにとっては、迷宮都市唯一無二の遺失技術と言われていた転移陣さえ、便利な道具に過ぎないのか。

 たしかにミストは敵ではあるが、有能な存在であることは間違いなかった。

 だとしても、独断専行を許すわけにはいかなかった。


「転移陣を出入りに使うまでは優秀な考えなのは分かる。だが、どうして師匠達に伝えずに使った?」


 迷宮都市を覆う城壁には、ちょうど迷宮がある方向が開くような作りになっていて、出られないわけではないだろう。

 とはいえ、転移陣の方が余程利便性が高いのは確実だ。

 故に、転移陣の出入りまでなら、決して責められることではない。


「……その上、ジークさん達を勝手に迷宮都市の外に送り出すようなことをしたのか」


 けれど、それ以外は全てやりすぎだった。


「許さないも何も、君達が決めることではないだろう」


 僕がどれだけ睨もうが、ミストの笑顔に変化はなかった。


「そもそも、今回の判断を責められるのは納得がいかないな」


「……どういうことだ?」


「隠さなくても分かっている。ラルマの負担を少しでも減らすために、魔獣の数を出来る限り減らした方が良いんだろう」


 ミストは何かを見通していると言いたげに、言葉を重ねる。

 ……しかし、その言葉の意味が全く僕には理解できなかった。


「だから、何の話だ?」


 ミストが顔に仮面のように貼り付けている笑顔が、その時固まったのはその時だった。


「……あの馬鹿が」


 そう吐き捨てた瞬間、ミストからは笑顔が消えていた。

 今まで、何があろうと笑顔を浮かべていたミストの見せた、別の表情。

 それに、僕もナルセーナも思わず目を瞠る。


「まあ、今はそれを気にしている暇もないか」


 ミストがその表情を見せたのは、一瞬のことだった。

 たった一言で気持ちを切り替えたミストは、いつもと同じ笑顔を顔に貼り付ける。

 あまりの変わり様に、僕とナルセーナは呆然と立ち尽くす。

 先程のミストの表情の変化は、本当だったのかさえ疑わしく思える。


「ラウスト」


 だが、次にミストが告げた言葉に込められた重い響きが、先程の表情が見間違いでなかったことを証明していた。


「君はラルマから目を離さない方がいい。もし、師匠の命を救いたいと思うのならば」


「……え?」


「それはいったい……」


 意味深なミストの言葉に、僕とナルセーナは聞き返そうとする。

 けれど、その時間はもうなかった。


 転移陣が光を放ち、目の前の光景が変わる。

 次の瞬間、目の前にはミストの姿はなく、目の前に広がるのは戦場だった。

 背後を見て、大きな城壁を確認し、城壁の外に転移したことを悟る。


「くそ、せめてもう少し説明を……!」


 意味深なことだけしか言わないミストに、僕は恨み言を漏らす。

 周囲を見回しても、ミストの姿はない。

 転移陣でロナウドさん達もミストが城壁外に移動させることを考えれば、当たり前のことだろう。

 待っていれば、いずれミストも姿を現すだろうが、そんな暇があれば、魔獣を一体でも多く倒すのが必要だと僕は理解していた。

 戦う冒険者達を見ながら、顔を苦々しげに歪めたナルセーナが口を開く。


「……忌ま忌ましいですが、今は魔獣を優先しましょう」


「そうだね。今はジークさんの援護をしないと」


 周囲を確認し、目に見える範囲でジークさんの姿がないことを確認した僕とナルセーナは身体強化を行って走りだす。

 魔獣と戦う冒険者達の間を潜り抜け、ジークさんがいるであろう奥へと向かう。


「オークには二つ以上のパーティーで戦え!」


 その最中、聞こえてきたマーネルらしき声に、僕は口元に笑みを浮かべる。

 現在冒険者達は、オーク達を抑えてくれる必要不可欠な戦力だ。

 故に、押され気味であれは援護も考えていたが、その必要はないと分かるレベルで冒険者達は善戦していた。

 その理由に、少なからずマーネル達が関わっているだろうことが、なぜか僕には嬉しかった。


「私達も負けてられませんね」


「……ああ、そうだね」


 何も言っていないのに、気持ちを組んだような言葉を告げてくれるナルセーナに、僕は頷きさらに足を早める。

 遠い向こうにジークさんの姿が見えてきたのは、そのすぐ後だった。


「ウオォォォオオ!」


 ジークさんがいたのは、冒険者達の戦場から少し離れた草原。

 そこで、ジークさんは二体のオーガ達と、三体ほどのオーク達と渡り合っていた。

 その光景は、ジークさんの戦士としての力量がかなり高いのを示すものだった。


「……凄いな」


 リッチが来た時、ジークさんはオーガを殲滅するのに時間がかかっていた。

 それが、根っからの戦士であるジークさんの苦手とすることだと僕は知っている。


「だとしても、ここまで差が出るなんて」


 二体のオーガと、三体のオークを相手にしながら、未だ余裕が見えるジークさんの姿に、僕は感嘆せずにはいられなかった。


 魔獣を足止めする、そのことに関してはジークさんは、異常なほどの実力を発揮していた。


 魔獣の攻撃を大剣で捌ける技量に、高い防御力を持つ鎧、そして、迂闊に隙を晒せば一撃で魔獣を叩ききる攻撃力。

 素早さがないことを欠点こそあれ、それ以外は全てが高水準の実力をジークさんは有していた。


 ジークさんが有能な戦士であることは、フェニックス戦で知ったつもりだった。

 だが、ジークさんはそんな僕の想定を超える戦士だ。

 攻撃しかできず魔獣を引き付けられないマルグルスや、不完全に魔獣を引きつけることしかできない僕とも違う。


 ジークさんは、ロナウドさんの弟子と名乗るのに相応しい実力を有する戦士だった。

 惜しむべきは、ジークさんの戦い方が迷宮暴走に向いていないことだろう。

 ジークさんがどれだけ長い時間二体のオーガを引きつけておける能力があろうが、今この場に置いては関係ない。

 なぜなら、次々と魔獣が溢れ出してくる今必要とされるのは、オーガを引きつける能力ではなく、どれだけ早く倒せるかなのだから。


 いくらジークさんでも、さらにオーガが増えれば対処はできまい。


「迷宮の方から新手が! おそらく、オーガが二体程います!」


 まるで見計らったように現れた魔獣の群れに対し、ナルセーナが警告の声を上げたのはその時だった。

 ナルセーナの声に反応し、魔獣の方へと目をやった僕は、すぐに判断する。

 あの魔獣の群れが辿り着く前に、オーガ二体をジークさんが倒すのは無理だろうと。

 だが、僕とナルセーナなら十分に対処可能だ。


 そう判断した時、もう既に僕とナルセーナは、ジークが戦っている近くまで、距離を詰めていた。

 あと数歩で、距離を詰められるほどのところに。


 その時になっても、三体のオークはまるで僕達のことに気づいていなかった。

 一心不乱に、ジークさんへと拳を殴りつけている。


「……アラテカ」


 しかし、オーガは違った。

 ジークさんに対し、激しい攻撃を放っている最中であったにも拘わらず、突然そのうちの一体が僕達の方向へと向き直る。

 そして、そのオーガを守るように、もう一体がジークさんの前に立ちはだかる。


 ……目の前の魔獣は、今まで下層で戦ってきたオーガと違う。

 そうはっきりと僕が理解したのは、その時だった。


 オーガの目に浮かぶ知性に、何より溢れんばかりの強さ。

 たしかに目の前のオーガは、ジークさんが超難易度魔獣に匹敵すると称するだけの存在だった。

 それでも、僕がオーガに恐怖や脅威を覚えることはなかった。


「ナルセーナ、オーガは僕に任せて」


「ガァァァァアアア!」


 そう言って僕が前に出たのと、オーガが全力で僕に目掛けて拳を振り下ろしたのは、同時だった。


 僕の頭ほどもありそうな拳が、岩も簡単に砕きそうな威力で振り下ろされる。

 それを僕は、あっさりと受け流した。


「……ッ!」


 驚愕と焦りが滲むオーガの視線を受けながら、僕は改めて確信する。


「やっぱり、人型の攻撃は受け流しやすい」


 自分にとって、変異してもオーガは脅威になり得ないと。


 オーガはたしかに、超難易度魔獣に匹敵するだけの魔獣だ。

 超難易度魔獣と同じく、他の冒険者では絶対に勝てないような存在だ。


 だが、今までヒュドラ、フェニックスなど、超難易度魔獣に渡り合っていた僕には分かる。


 目の前のオーガは怪力など一部の能力が超難易度魔獣に匹敵こそするが、それだけだ。

 他の能力では超難易度魔獣と比べ遥かに劣る、御しやすい存在なのだと。


 そして、何より僕はオーガよりも相性が良かった。


「ガァァアアア! ガァァァァアアア!」


 オーガのラッシュを簡単に捌きながら、僕はその思いを強める。

 オーガの強みは、その怪力にある。

 変異したオーガに関しては、超難易度魔獣に匹敵する異常な力を発揮する。

 それはたしかに脅威だと認めるべきだろう。


 僕以外の冒険者なら。


「ガアアアァァァァァァアアアアアアア!」


 このままでは埒が明かないと判断したのか、雄叫びと共にオーガが僕に掴みかかってくる。

 だが、今回僕はその攻撃を避けなかった。

 代わりに、僕の身体を潰そうと締め付けるオーガの腕に、全力で抗う。


「どうやら、怪力勝負では僕の方が上みたいだ」


 ──そして、簡単にオーガの腕を振りほどいた。


 それは本来有り得るわけがない光景だった。

 気と魔力という二つの力を扱う、異常な身体強化を行える僕だからこそ可能なこと。

 目の前のオーガは、僕の行動が信じられないと言いたげに呆然と立ち尽くしていた。

 そのオーガを見ながら、僕ははっきりと認識する。


 目の前のオーガより、僕は強い。


 その事実に、僕の胸に湧き上がったのは熱い感情だった。

 今まで必死に攻撃をいなすしかなかった時とは違う。


「ガァァァァアアア!」


 熱に浮かされたような僕の態度を、余裕だと判断したのか、雄叫びと共にオーガが殴りかかってくる。

 しかし、その拳はやぶれかぶれのものでしかなかった。


 攻撃を受け流し、態勢を崩したオーガの心臓を探検で貫く。


「ガァ!」


 それでも絶命せず、目に憎悪を込めたオーガが手を伸ばしてくるが、抵抗はそこまでだった。

 僕の身体を掴む寸前で、腕が止まりオーガが絶命したことを僕は悟る。


「オーガ程度なら、僕は負けないか」


 ──ロナウドだけでフェンリルには十分だ。


 戦闘前、師匠が僕達に告げた言葉が蘇る。

 その言葉は、僕達をオーガ討伐に集中させるためでもあるのだろう。

 だが、僕が考えていたよりもオーガの対処は難しくないらしい。

 だったら、フェンリルの討伐に参加した方が良いだろう。

 そう考えて、僕は呟く。


「手早くオーガを討伐して、ロナウドさんを手伝うか」


 ……今の自分が、師匠達の予想を遥かに超えた戦果を上げていることなど知る由もなく。

次回は、前半ロナウド視点となります。

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攻撃を受け流し、態勢を崩したオーガの心臓を『探検』で貫く。 短剣ではなく?
[一言] 治癒師要素もう欠片の微塵もない笑笑
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