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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第35話 最悪の共闘

この度、昨日6月28日に2巻発売となりました!

ここまで来れたのも全て読者様のおかげです!

本当にありがとうございます!

「そんなことあるわけない!」


 迷宮暴走から僕らを助けようとしていた、そう告げた支部長の言葉を僕は咄嗟に否定する。

 僕と街の人達にした仕打ちが迷宮暴走の対策?

 そんなこと、認められるわけがなかった。


 迷宮の出入りを禁じられたと知った時の怒り。

 今も鮮明に思い出せるその感情を叩きつけるように支部長を睨み、叫ぶ。


「今さら取り繕うためにそんなことを言われても、信じられるわけが……」


 が、僕の言葉から勢いはすぐに失われることとなった。

 強い怒りは、未だ僕の胸の中で燻っている。

 けれど言葉を重ねる中、僕は気づいてしまう。


 ……言い訳だと思い込むには、辻褄が合いすぎていることを。


 今までずっと僕は、ギルドに対して疑問を抱いていた。

 なぜギルドは、街に素材を売らないようにしたり、この迷宮都市で有数の実力を持つ僕達の迷宮の出入りを封じたのか。

 その結果街の人間や、能力の高い冒険者が迷宮都市を後にすれば、ギルドには損しかなく、得するようにはおもえない。

 意図がわからないギルドの動きには、薄気味悪ささえ、感じていた。


 だが、ギルドの目的が損得からの判断ではなく、僕や街の人達を追い出すことそのものだったとしたら?


「……っ!」


 ─不満があるなら王都にでもいけ。


 迷宮の出入りを禁じられた時、ギルドでバンザムに告げられた言葉を思い出す。


 最初バンザムに告げられた時、それは嘲りの言葉だと思い込んでいたが、今ならそれが勘違いであったことが分かる。

 支部長の言っていた通り、迷宮暴走が理由ではないかもしれない。


 それでもあの時のバンザムは、間違いなく僕を迷宮都市から追い出すように振舞っていた。

 名言した訳ではないが、あの時のハンザムの態度から、それは明らかだろう。


 ……もしあの時出ていっていれば、僕の頭にそんな考えが浮かんだのはその時だった。


 そうしていれば、ナルセーナが迷宮暴走に巻き込まれることはなかったかもしれない、と。


「僕、は……」


 呟いた声は、自分が出したのが信じられないくらい掠れていた。


 街の人に素材を渡した時の笑顔。

 そして、マーネル達が街の人達と笑いながら交流していた光景が頭によぎる。


 それは、今まで僕の中で誇るべき行為のはずだった。

 が、その思いはどんどんと崩れ去っていく。


 支部長達がどんな意図を持って、僕達を追い出そうとしていたのかなんて分からない。

 迷宮暴走が起きたのは偶然で、他に何か意図があったかもしれないし、迷宮暴走で何かを企んでおり、僕達が邪魔だっただけかもしれない。


 だけど、僕が余計なことをした事実だけは変わらない。

 何故なら、意図はともあれ支部長達は僕達や街の人達を迷宮都市から逃がそうとしていたのだから。


 僕が余計なことさえしなければ──街の人達も、そしてナルセーナも迷宮暴走に巻き込まれることなんてなかったのだ。


 頭の中が真っ白になる。

 支部長が僕へと話しかけてきたのは、その瞬間だった。



「街のことも全て、きみのせいじゃない」



 支部長は、親しみと優しさに溢れた笑みを顔に浮かべていた。


 その笑顔に、僕は知らず知らずの間に安堵を感じる。

 なのに支部長の笑みに気づいた僕は、無意識にのうちに後ずさっていた。


「きみは何も悪くない。この迷宮都市に襲いくる脅威をもっときみに教えておくべきだった」


 そんな僕の態度に一切気にすることなく、支部長は言葉を続ける。

 僕の心を完全に見通した上で、慰めるために。


 支部長の言葉は、ただ優しかった。

 しかし僕は本能的に理解する。

 この優しさにすがる訳にはいかないと。

 すがってしまえば最後、支部長の意のままになりかねないと。


 師匠が魔術を構築した状態のまま、僕の前に出たのはその時だった。


「私の弟子を取り込もうとするのはやめろ」


 忌々しさを隠そうともしない師匠が、支部長を睨みつける。

 が、不機嫌さを隠そうともしない師匠に対し、支部長はただ笑う。


「そんなことを言われるのは心外だ。私はただ、自分の非を受け止めた上で、君たちに提案をしてあげようとしているだけなのに」


「……提案?」


「ああ。それも君達にとって有益な提案だ」


 不可解そうに顔を歪める師匠に、支部長は友好的な笑みを浮かべる。

 まるで友人に話しかけるかのような笑みを、顔に貼りつけて口を開く。



「──迷宮暴走が起こるこの迷宮都市の中、協力しようじゃないか」



「……っ!」


 その言葉に、僕が覚えたのは不快感と怒りだった。

 自然と武器を握る手に力がこもる。

 敵意を露わに、僕は支部長に向かって告げる。


「遠慮します。罪悪感を感じてくれているのなら、逆に僕達にこれ以上近づかないでくれませんか?」


 支部長達が僕や街の人達を迷宮都市から逃がそうとしたのは事実だろう。

 とはいえ、迷宮暴走に気づいて、街の人達や僕達を逃がそうとしたという言葉についてはまったく信じていなかった。

 僕は師匠ほど迷宮都市支部長ミストというエルフのことに関して、知ってはいない。


 が、ここで気を許せる程甘い相手ではないことは、今までのやりとりで僕も理解出来ていた。


 正直この男のことならば、なにかの陰謀があり、迷宮都市から僕や街の人達を追い出そうとしたと言われた方が信じられる。

 少なくとも支部長には、迷宮暴走さえ利用してみせるだけの能力があることを僕は疑っていない。

 そのことを僕は、はっきりと支部長に告げる。


「貴方のことは一切信用できないし、するつもりもないです」


「貴様……!」


 その僕の言葉に反応し、ハンザムがこちらを睨んでくる。

 肌がひりつくような殺気を感じるが、ハンザムは支部長の言葉に良くも悪くも忠実だ。

 そのことを今までのやりとりで知る僕はハンザムを無視し、師匠へと口を開く。


「そうですよね、師匠」


 その時の僕は、師匠が自分と同意見であることを疑っていなかった。

 僕以上に支部長を警戒している師匠なら、支部長を味方に引き入れる恐ろしさを、僕以上に理解しているに違いない。

 そんな中、支部長の提案に頷く可能性などありえない。

 そう僕は考えていた。



「……分かった。ミスト、お前の提案を受ける。お前達と協力してやる」


「…………え?」


 ──ゆえに僕は、支部長に向かって告げた師匠の言葉が信じられなかった。



 支部長が味方になることを受け入れた師匠の顔に浮かんでいたのは苦渋の表情で、提案を受け入れたことが不本意であったことを物語っている。

 にも関わらず、提案を受け入れると告げた師匠の言葉には迷いが無かった。

 思わぬ状況に呆然とする僕を他所に、師匠と支部長は言葉を交わす。


「賢明な判断だ、ラルマ」


「黙れ。あくまで協力するだけのことを頭に入れておけ。裏切れば真っ先に殺す」


「怖い怖い」


 その会話を耳にし、ようやく僕は理解する。

 本気で師匠は、支部長の手を借りようとしていることを。


「……どういうことなんですか」


 どうしようもない混乱と共に、僕は反射的に向き直り、師匠を問い詰めようとする。

 なぜ、支部長を味方にするなどという危険極まりないことをしようとしているのかと。

 支部長を味方にすることは、ともすれば支部長と敵対するよりも、リスキーな行為に僕は思えたのだ。


 ……師匠の異変に僕が気づいたのは、その時だった。


「し、師匠……?」


 師匠の顔には、激しい焦燥と緊張が浮かんでいた。

 それどころか、師匠の顔色が青ざめていることにも、至近距離にいる僕は気づく。

 それはこの部屋に入る前、支部長との勝率が三割だと告げたあの時よりも酷い状態だった。

 その様子に言葉を失った僕に、師匠は小声で告げる。


「すまない。どうやら私の見立てが間違っていたらしい。……おそらく、ミストは本当に脱出手段を持っていない」


 ここに来た目的を完全に否定する師匠の言葉は、僕にも少し衝撃をもたらす。

 だが、支部長の態度からある程度それを予想していた僕が、その言葉に平静さを失うことはなかった。


 僕達と協力体制を作ろうとしながらも、脱出経路については一切語らない様子が、その証拠だった。

 少なくとも、脱出経路があったとしても、それにはそれなりの時間か手間がかかるに違いない。

 そうでなければ、支部長達が僕達に協力を持ちかける理由が無いのだ。

 何も言わず逃げ出せばいいだけなのだから。


 だから、その師匠の言葉を受けても、僕は支部長との協力体制を了承したかの方が気になっていた

 その僕の内心を理解したように、師匠は告げる。


「分かっている。ミストを信用するなど微塵も考えていない。味方にする危険性も理解している。だが、そんな相手であろうが協力体制をとりつられなければ、私達は数日持たず死ぬ」


 今まで支部長とのやりとりで頭から抜けていた迷宮暴走の危険性、それを僕が思い出したのはその時だった。

 ……今さらながら僕は、脱出経路がなくなったことに対する迷宮暴走の脅威を認識する。

 それでも、支部長を味方にすることを僕は認められず、師匠に向かって口を開く。


「ですが、あの支部長を味方にする方がリスクが高……」


「言い方が悪かったか」


 が、その僕の言葉を師匠は最後まで聞くことはなかった。


「……現状は、そんな相手であれ頼らなければいけないということだ」


「──っ!」


 そう告げた師匠の顔には、激しい焦燥が滲んでいた。


 ……僕が迷宮暴走の恐ろしさの片鱗をようやく認識したのはその時だった。


 今さらながら、顔から血の気が引いていくのを感じながら、僕は内心自分の悪運を呪う。

 ヒュドラやフェニックスに引き続き、なんでこんな厄介なことに巻き込まれる……、と。


 戻れば、皆に敵だと認識していたはずの支部長が味方になったことを説明しなければならない。

 厄介な未来を認識した僕は忌々しげに顔をしかめる。


「せめて、もうこれ以上何かは起きないでくれ……」


 そう懇願するように呟いた僕は知らない。


 ……もう既に、さらに状況を悪くする何かか起きていることを。

更新、そして書籍化報告遅れてしまい、申し訳ありません……。

夏風邪を拗らせ、2週間近く調子を崩しておりました……。皆様も今の時期の風邪はしつこいので、本当にお気をつけてください……。

そしてご報告遅れてしまいましたが、この度2巻が発売となりました。

恋愛要素強めの書き下ろし短編もありますので、お手にとって頂けると嬉しいです!

活動報告にも書影を投稿しておりますので是非!

また、風邪も治りましたので、次回更新は出来るだけ早くできるようにさせて頂きます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公さんは詐欺師とかに騙されやすそうなタイプだね。
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